超電導リニアの不都合な真実

著者 :
  • 草思社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (363ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794224804

作品紹介・あらすじ

JR東海は、もうリニアを諦めている?
「中央新幹線」は在来型新幹線で
開業できるよう、準備されている――。

リニアの実用化は、とうてい不可能では? 複雑な走行原理に超電導磁石の課題、トイレ問題まで、
立ちはだかる技術的課題の数々を解説し、「国家的事業」の見直しを提言する。


◎超電導磁石は-269℃以下の冷却が必要
◎冷却に必要なヘリウムは資源枯渇の危機
◎低速では浮かず車輪で走らざるをえない理由
◎浮上・着地のたび136個のゴムタイヤ車輪が出入り
◎故障する可能性のある部品が多すぎるという指摘
◎磁力が急低下する「クエンチ」は克服済みか
◎山梨実験線ではクエンチ発生なしと主張。本当?
◎シート間隔はエコノミークラス並みに狭い
◎トイレはナシ? 設置を困難にする要因が複数
◎高速走行時の大きな振動と「耳ツン」
◎山梨実験線がいまだに単線のままの理由は?
◎実験線にはリニアに不要の架線用電柱(?)がある
◎中央新幹線は「在来型新幹線」で開業できる
◎在来方式での開業は現実的か

超電導リニアには、まだ数多くの技術的課題があり、実用化は時期尚早である――。
 本書では取材の結果、このような結論に達しました。
 この結論が正しければ、リニア中央新幹線は、「超電導リニアの技術は完成している」という前提が崩れたまま進められている、危ういプロジェクトだと言えます。
 JR東海は、それに気づいていたのでしょう。同社は、その危うさを回避するため、中央新幹線を、超電導リニア方式と在来方式(従来の新幹線方式)の両方に対応した構造にして、建設を進めています。つまり、超電導リニアが失敗したときの備えとして、在来方式でも開業できる構造になっているのです。
 ただし、在来方式で開業することになれば、3兆円もの財政投融資は正当化できなくなり、計画が頓挫しかねません。
 中央新幹線は、超電導リニア方式と在来方式のどちらで開業するとしても危ういプロジェクトなのです。

感想・レビュー・書評

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  • ここのところ、リニア中央新幹線に関する本をいろいろと読んでいるのですが、理系の方が書いた本を読んだのは、これが初めて。
    とくに、技術に関する記述については、これまでのところ、この本が最も丁寧な印象。
    ただ、引き続いて、鉄道総合技術研究所による本も読む予定なので、技術に関する記述については、もっと詳しいものにあたる可能性はあります。

    もし、「リニア中央新幹線に関する本を1冊だけ紹介して」と言われたら、この本を紹介します。
    リニア中央新幹線に関しては、経済性や安全性、環境への影響など、様々な課題がありますが、この本は、リニアモーターカーそのものが抱えている課題についての記述が豊富です。
    それらの記述から、リニア中央新幹線の計画を推進するかどうかよりも、まずは、その前に、リニアモーターカーそのものを技術的に確立させる必要があることについての理解が深まると思います。
    そのことからは、当然のことながら、リニア中央新幹線に関する議論は時期尚早である、という結論が導かれますし、その結論についても納得できると思います。

    ちなみに、この本は、リニア中央新幹線に関する本でもありますが、タイトルに、「リニア中央新幹線」という言葉が入っていません。
    そのことからも、「リニア中央新幹線の前に、まずはリニアモーターカーについて知るべきじゃね?」という著者の想いを感じました。

  • リニア新幹線は技術的に完成していない、ということを端的に指摘している。
     
    (1)超電導磁石とは、「超電導状態にしてから、いったん直流の電流を流し、コイルの両端をつなぐと、コイルに大電流が流れ、強い磁界を発生」するので、電気抵抗によって電流が消えてしまう常電導磁石よりも強い磁界が得られ、これを利用するのがリニア新幹線である。
    (2)超電導磁石を実現するためには「コイルを極低温に冷却して」電気抵抗をゼロにする必要があり、液体ヘリウムを冷媒とする。
     
    そして、(1)については超電導磁石が常電導磁石になってしまうという「クエンチ現象」が不可避だという(クエンチで電気抵抗が発生するとコイルが発熱して液体ヘリウムが気体になって体積が700倍になるという)。
    また、(2)についてはヘリウムが世界的に供給不足という問題があるという。
     
    超電導磁石についての根本的な技術課題が解決されてない(実験室でならともかく、屋外の数百kmの営業路線での安定運用には疑問が伴う)というのが著者の指摘だ。
     
    リニア新幹線は心臓部が未完成であるだけでなく、枝葉の部分にも課題は山ほどある。
    たとえば、気密荷重の問題がありトイレの汚物タンクが破損する恐れも指摘される。また、駅に到着するたびに高速でゴムタイヤを出して着陸する、そのゴムタイヤは航空機以上の高頻度で衝撃を受けるので、そのメンテナンスをどうするかという問題もある。などなど。
     
    中央アルプスを貫く長大トンネルの環境問題だとか、電力消費の大きさ=経済性の問題、といった話をする以前に「そもそも可能なのか」という問題提起である。
     
    著者の観測では、JR東海も実現の困難さはわかっていて、従来型新幹線への転換も視野に入れている可能性が高いという。
    それはそれで、無理やりリニア新幹線の話を進めて財投融資を受ける以上、「半公共事業」としては問題もあるわけで。
     
    漠然とした「磁石で浮くから時速500キロ」という夢のイメージではなく、現実世界の出来事として考えるために有益な一冊。

  • ふむ

  • 超伝導につきもののクエンチ現象をきちんと克服できていない可能性を始め、技術的な壁が想像以上に厚いことを指摘している。開発中止したフリーゲージトレインの二の舞の可能性もある。東海道新幹線も開通するまでには多くの批判があったようだが、ある程度枯れた技術の集合体で目処は立っていた。それに比べるとリニアは革新的及び複雑なシステムであり、故障のリスクは相当高い。静岡のトンネル問題とは別に、著者の言うように冷静な技術上の議論が必要と感じた。

  • これほど未完成の技術とは知らなかった。
    安全性やコストもあるが、脱炭素の潮流からは、エネルギー消費の多いリニアは、投資家の理解も得にくいだろう。著者の主張のように中止すべきだと思うが、それを出来る経営トップが出て来るのか。
    リスクを感じながら行くところまで行ってしまった福島第一原発を想起してしまった。
    走り出したら止まれない!取り返しのつかない犠牲を出すまでは!大東亜戦争も同じ!
    この国は、空気が、止める勇気を挫く!

  • まだまだ実現するには時間がかかるように感じた。原発等と同じで、良い面悪い面について正しい情報をしっかり出してほしい。事故不具合についても情報を正確に出してほしい。隠ぺいするような体質であってはならない。人口減少等利用者減少の可能性も考えられうる将来であるので、無理に急ぐ必要もないのでは?静岡県の水問題もあるし、開業目標も間に合わないように思う。

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著者プロフィール

川辺 謙一(かわべ・けんいち)
交通技術ライター。1970年生まれ。東北大学工学部卒、東北大学大学院工学研究科修了。メーカーで半導体材料などの研究開発に従事した後に独立。鉄道・道路・都市に関する高度化した技術を一般向けに翻訳・解説している。おもな著書に『図解・地下鉄の科学』『図解・首都高速の科学』『図解・燃料電池自動車のメカニズム』(講談社ブルーバックス)、『東京総合指令室』『図でわかる電車入門』(交通新聞社)、『東京道路奇景』『日本の鉄道は世界で戦えるか』『東京 上がる街下がる街』(草思社)などがある。

「2022年 『世界と日本の鉄道史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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