読書を支えるスウェーデンの公共図書館: 文化・情報へのアクセスを保障する空間

  • 新評論
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794809124

作品紹介・あらすじ

作家、出版社、書店、学校、地域がタッグを組んで読書振興。思わず本を読みたくなる環境が、この国にはあった。カラー口絵4P、写真多数。

感想・レビュー・書評

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     あらゆる方法で図書館の魅力を子どもたちに示すことができるのは、小学校から中学校までの九年間にかぎられている。というのも、フィンスカテバリには高校がないため、高校に進学した子どもたちはべつのコミューンまで通学するようになるからである。
     九年間、一生懸命図書館利用教育に取り組んできた司書としては、子どもたちがそれぞれの高校にある学校図書館へ行くことを期待したいところではあるが、高校生にとっては図書館以外にも面白いところがたくさんあるし、進学するとやらなくてはいけないこともぐっと増えてしまう。いつのまにか、。公共図書館からも、読書からも離れていってしまう・・。この傾向はフィンスカテバリにかぎったことではなく、高校生の図書館離れはスウェーデン全体を覆っている。
     図書館離れと読書離れが一気に進む高校生に向けて、二〇一〇年に通学バスを使ったユニークなサービスがはじまった。それが「ライン500:通学路の本」である。「ライン500」とは、ヴェストマンランド・レーンとダーラナ・レーンにある五つの町を通るバスルートのことで、毎日、多くの高校生を乗せて走る路線バスのルート名をそのままプロジェクトの名前にした。
     若者の読書離れを食い止めるためには、高校生が気軽に本を手にとる状況をつくりだすのがよいのではないかという発想が、このプロジェクト誕生のきっかけとなった。バスの中に図書コーナーを設けて、「走る図書館」としたのである。図書館と違うのは、読んで気に入った本を自分のものにしてもよいことである。もちろん、読了後バスに返却してもよいし、友達に貸してもよいことになっている。バスが通る五つの町の図書館では、バスに置いてある本を推薦するためのブログを作成し、本を読んだ高校生の感想も掲載している。ちなみに、このプロジェクトには文化評議会が助成金を出しており、地域図書館とヴェストマンランド公共交通がプロジェクトの実施にあたっている。
        --小林ソーデルマン淳子・吉田右子・和気尚美『読書を支えるスウェーデンの公共図書館 文化・情報へのアクセスを保障する空間』新評論、2012年、123-125頁。

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    1.小林ソーデルマン淳子・吉田右子・和気尚美『読書を支えるスウェーデンの公共図書館 文化・情報へのアクセスを保障する空間』新評論、読了。

    スウェーデンの公共図書館の伝統を言い表す表現に次のようなものがある。すなわち「人は誰しも本を読む権利があり、それを保障する場所が公共図書館である」。本書は百年以上にわたる公共図書館の伝統と今を報告するドキュメント。意義と可能性を示唆する一冊だ。

    公共図書館の源流はどこにあるのか?それは生涯学習のさかんなお国柄。百年前からはじまる自主的学習サークルの読書会に由来する。読書会は校舎なき学校の役割を果たし、移民受け入れと教育について、自己認識と他者認識の「平等」の場として図書館が機能した。そのことに驚く。

    今日では、単なる資料提供の場にとどまらない。映画会、コンサートから語学講座まで。地域コミュニティの中核としての「総合文化センター」と呼べるほど多様なものになっている。

    読書離れに対しては駅構内図書館や「走る図書館」(図書コーナー設置バス)など新しい挑戦も。「公共図書館とは社会を映し出す鏡のようなもの」。施設内の椅子や机、書架にも使いやすさと意匠にも工夫を凝らす。

    生涯学習を縦糸に異文化コミュニケーションを横糸に独自の進化を遂げる図書館。本書は、スウェーデンの図書館制度と歴史、法律、サービス・プログラム・施設の今を報告する好著。

  • 読み終わって、まあ日本政府としては、おそらく将来の日本の図書館のモデルとしてスウェーデンを考えていて、本著は、そのモデルにあわせられる図書館体制をつくるための参考調査の結果レポートという感じだった。お上はこういう図書館を作りたいんだなぁというのが読んでいてわかります。

    スウェーデンの近代図書館は19世紀後半に「読書小屋」という形で民衆が読書するための場所としてあらわれ、パルムグレンがアメリカから市民に平等に開かれた図書館と専門知識を持つ司書の体制を学び報告書にまとめて1912年に民衆図書館支援法という補助金の法律までできましたが、公立図書館よりも民衆の手による図書館のほうがはるかに多く、民間が図書館界をリードしていた。

    スウェーデンを代表するストックホルム市立図書館ももともとは労働者階級の手によって作られたもので、1930年には民間図書館が自治体(コミューン)図書館として編制されていき、国庫補助金も増加し、1970年代までには現在図書館が行っているサービスのほとんどを出揃わせる形となった。そこからだんだんと各コミューンの裁量に図書館の運営をまかせることとなり、地方分権のごとく、地方の自己責任という感じで、自立志向が行くとこまで行き図書館法まで廃止してしまい、各コミューンでやっていくことにしてしまった。けれどもそれによって図書館間の格差が開いてしまい、再制定を96年に行う。そこでも自治体と県(レーン)が運営方針を策定していくのはぶれない。自治をもっと強固にするため、一定の基準を保証する文化の砦として図書館法を作り直したように思えて面白い。図書館=お上次第というイメージが強かったので。

    特徴として目についたのは、季節によって開館時間が変わったり、延滞料金や図書館カード再発行代金もいただく。予約料金もとる。トイレも有料。また使いやすさと居心地の良さを徹底して追求しており、ユニバーサルデザインだのアクセシビリティだのユーザビリティだのの強調がされている。またセルフサービスが基本なので、貸出・返却は機械で全部やる。日本の図書館関連の本を読んでいると、カウンターは人々の顔を見たりして暖かみがあってよいというが、より暖かくするならば、カウンターより外にでてもやれるだろう。LLブックのコンテストも取り上げられているが、特に移民に対する言葉の配慮が重点的に語られている。ここも日本政府としては知りたいところだろう。
    図書館と作家の距離がとても近く、図書館にいけば作家が講演している、という感じになっていて、日本は図書館=誰が行ってるのかわからないものすごく地元密着の学者のマニアックな講演というイメージがあるので羨ましい。
    貸出数に応じての金額と前払いとして補償金を作者に支払っているから作家と仲が良いのだろう。作家を呼んで二時間講演でだいたい6万円ぐらいのギャラだそうな。ノーベル賞受賞者もやってくるのだ。作家が図書館に滞在するという、「図書館の養女」となる制度まであって、そういった試みは、「創造」と「図書館」をなんとか結びつけたい日本にとって、大変厳しくも考えなければいけない、というか、考えて欲しいことだ。

    また興味深い報告とすれば、じゃんじゃん漫画棚とか作って、若い世代が来たくなる空間を作っていて、図書館が「何でも屋」として伝統的な役割を捨てている、新しい社会にあわせているという部分だ。

    良いとこばっかり語られているが、これがどれほど日本にあてはめていけるかわからない。
    図書館を嫌がる友達がいるのだが、理由は、本が不潔、ホームレスが多くてくさい、返すのがめんどい、公共空間だがしゃべったりくつろげる感じがしない、椅子がきたないなどなど。生理的なものが実は一番の問題であり、印象づけとして大事なところ。まずかっこよく。形から。で、その形のための方法が、本著にたくさん載せられているように思う。

  • 子どもと図書館をつなげる様々な取り組みがされていること、移民などのマイノリティの利用促進に力を入れていること、作家を招いてのイベントが小さい図書館でも行われていることが印象に残った。

  • 映画「ニューヨーク公立図書館」に触発されて読み始めた北欧図書館シリーズ(勝手に名付けた(笑))の第2弾。例によって少々硬い内容で、それならグラフや図にして説明して欲しいけど、文章だけだと数値も頭に入りにくいです。しかし、この本では、図書館って何のためにあるのだろうって意義を考える契機になるようなエピソードがいっぱいです。図書館と言う器の意義を考えると地域のコミュニティの場を提供するってことなんだろうか、それもあるだろうし、一方で、市民と情報や知識を結びつけるという目的もあり、その市民にはさまざまな世代がいる時にそのさまざま世代ごとにどう対応するか、その策も考えないといけない、、なかなか大変な位置づけなんですね。冒頭で、経済危機に陥った時に「図書館を廃止するか」という問いかけに「図書館を維持していくのにはお金がかかりますが、それで廃止したら将来もっとお金がかかることになる」って話。もっともですね。行政は目先ではなく、将来の投資をしている気概で臨まないといけないですね。

  • 【配置場所】工大特集コーナー【請求記号】016.23893||K

    【資料ID】91122286

  • 北欧の福祉はすごいすごいとよく話に出るけど、具体的にイメージできなくて、そういえばスウェーデンは図書館も独特と聞いたことがあったなと思い出したので読んでみた。楽しそうな図書館の取り組みがたくさん紹介されていた。一方、福祉スゴイの先入観が強かった分、図書の予約金や延滞料と場所によってはトイレの使用料もとるというのが驚きでした。若者の読書離れは世界共通なのかな。

  • 資料番号:011485257
    請求記号:016.2ド

  • とてもおもしろかった。スウェーデンに行きたくなった。

    図書館で作家を支えるという考え、なんだろう、社会として、読者や筆者をすごい大事にしているという気がする。

  • 図書館が重要視され、信頼されているスウェーデン。
    それは司書だけでなく、様々な団体や国自体も努力している結果です。
    移民・難民が多い中で、図書館は文化的な問題解決の第一人者となっています。
    しかし、経済的理由に公共図書館分館と学校図書館が統合されることが増えたり、図書館法を撤廃した過去を持つという負の面もあります。
    日本の図書館にとっても、学ぶことの多い一冊。

  • 新着図書コーナー展示は、2週間です。通常の配架場所は、3階開架 請求記号:016.23893//Ko12

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著者プロフィール

ストックホルム市国際図書館貸借センター部業務発展責任者。

「2012年 『読書を支えるスウェーデンの公共図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

吉田右子の作品

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