ネット右翼の終わり──ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか

著者 :
  • 晶文社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784794968821

作品紹介・あらすじ

ヘイトスピーチはなぜ無くならないのか。ネット上にはびこる差別的発言は、なぜ根絶されることなく再生産され続けるのか。この問題を解くためには、「ネット右翼」と「保守」の癒着の構造を理解しなければならない。保守派を自認する若き論客が、ネット右翼たちとのリアルな交流に基づいて世に問う、内側から見た「ネット右翼」の構造分析。

感想・レビュー・書評

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  • 2015年刊。

     ネット右翼とその他の(真正)保守とを区分し、ヘイトスピーチ(を流すカテゴリーに所属の「ネット右翼」)の保守からの切り離しを目指すべきと論じる著者。彼は恐らく右派の立場だ。

     まず読み始めは①ネット右翼の属性変化や分裂を時代毎に即し検討し分析し、②真正保守とネット右翼的保守との相互連関を叙述しつつ、③後に反駁に収斂する右派の内ゲバの解説だけに見えて、斜め読み。

     が、後半、著者が田母神氏への批判、保守派による韓国経済状態分析への批判、某市議による在日特権関連の無根拠情報発信への批判を展開し始める。

     このあたりからただの内ゲバではなく、また、「ネット右翼」の情報リテラシーの欠如だけを論じるわけではなくなり、俄然内実が濃くなってきた感。

     ラスト辺りで展開する著者の姿勢は、言説における根拠や実証を重視するものであり、そうなると著者の書を読了する意味が見出し得るかなという感想も生まれた。

     ただし疑問も多い。
    ⑴ なるほど著者の指摘する「呆韓論」分析には首肯するところあるものの、同書が日本との比較を殆ど書かないことを軽く見過ぎているきらいがある。
     確かに、書かないことは嘘をつかないことではある。
     だが、正しいことを言うことと同値ではない。
     同書の場合に即して言えば、日本と韓国とでは大差ない部分が数多ある(ここまでは著者も気付いているようだが)ということを隠蔽する役割を果たし、その意図する点は著者の見る程、軽くはない。
    また
    ⑵ 保守の重視する「日本」「伝統」を、著者流に実証的に解読しようとすれば、必ず隘路に突き当たり、不可知論に陥る可能性が高い。あるいはそれら概念の多様性の渦に飲み込まれ、日本や伝統の選択自体に説得力ある説明、優劣がつけられない。
    ⑶ 著作「ネット右翼の逆襲」との関係性・整合性はつくの?。
    ⑷ 保守の心性としてカテゴリーの区分けを好み、自己の所属外の存在を蔑視・軽視・無視する傾向があって、これは著者の言う真なる保守と「ネット右翼」にさほどの差がない(70~80年代の中曽根康弘や渡辺美智雄など自民党政治家の失言集から容易に推測できそう)。
     故に「ネット右翼」は保守に親近性を持つのではないか。
     さらにいえば「ヘイトスピーチ」的な発想は保守の心性の根源にあって、「ネット右翼」特有の現象ではなく、保守からは拭い去れない宿痾ではないのか。
    というあたりだろうか。

     かようにつらつら書いてきた。
     しかしここまで考えを巡らさねばならない書でもなさげかな、というのが正直なところ。
     以上は、自身の思考の整理のため。

     なお、ネット情報よりも書籍情報の方が信用性が高い理由として著者は以下のように指摘する。
     それは、後者の大半が顕名によるものであるため、名誉棄損・信用棄損その他の法的責任を問われる可能性がある点。あるいは内容の出鱈目さが誰の出鱈目さを意味するかを可視化する点にあると見るようだ。
     この著者の指摘は、けだし慧眼と言い得るのは間違いない。

  • 著者の信条は保守であり、嫌韓本の執筆も行っている。にもかかわらず、本書においてはネット右翼の矮小性と、これを実は「新しい顧客」として支えている保守論壇の実態をわかりやすく描いていると思う。ロジカルな表現と事実に裏打ちされた内容はとてもリアルだと思う。

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著者プロフィール

古谷経衡
1982年札幌市生まれ。作家・評論家。立命館大学文学部史学科(日本史)卒業。(社)令和政治社会問題研究所所長。(社)日本ペンクラブ正会員。NPO法人江東映像文化振興事業団理事長。インターネットとネット保守、若者論、社会、政治、サブカルチャーなど幅広いテーマで執筆評論活動を行う一方、TOKYO FMやRKBラジオで番組コメンテイターも担当。『左翼も右翼もウソばかり』『日本を蝕む「極論」の正体』(ともに新潮新書)、『毒親と絶縁する』(集英社新書)、 『敗軍の名将』(幻冬舎新書)など著書多数。

「2023年 『シニア右翼』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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