リオとタケル

著者 :
  • 集英社インターナショナル
3.74
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感想 : 19
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784797672749

作品紹介・あらすじ

アメリカ時代の恩師リオとタケルはゲイのカップル。その理想的な関係はどのように育まれたのか? 著者はなぜ彼らに惹かれるのか? アメリカと日本各々の社会で、セクシュアリティと愛情を考える。

感想・レビュー・書評

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  • 筆者の中村安希はアメリカのカリフォルニア大学アーバイン校演劇学部卒であるが、本書の題名となっている2人、リオとタケルは、筆者の恩師である。
    リオとタケル本人たちばかりではなく、彼らを知る多くの人たちへのインタビューを通じて、リオとタケルとはどういう人たちなのか、および、彼ら2人の関係性、および、周囲の人たちの関係性等をクリアにしていこうとするのが、本書の流れである。
    リオとタケルは、プロの演劇家であり、プロの演劇デザイナーであり、そして、優れた教育者であり、更には、とても立派な人格者だ。そして、2人はオープンリー・ゲイのカップルでもある(オープンリー・ゲイは、自分がゲイであることを周囲にオープンにしている人たちのこと)。2人はとても魅力的な人物であるが、その2人を描くと同時に、中村安希自身のカミングアウトも加わる。それは、中村安希のセクシャリティ、自分をバイセクシャルであると考えていることや、DVのある家庭で育ったことや、あるいは、小さい頃に性的暴力を受けたことがあること等についてである。
    演劇家としての2人、教育者としての2人、ゲイのカップルとしての2人、そして、中村安希自身のセクシャリティについて、という多くの流れが本書にはある。
    インタビューを通じて紡がれる話は興味深いものが多く、それなりに楽しんで読めたが、やっぱりテーマが絞り切れていない感覚はぬぐえない。中村安希自身が実際に何を本当に描きたかったのか、もう少しクリアになっていた方が面白かったような気がする。

  • アメリカで成功を収めた演劇デザイナーカップルの話。
    タケルは24歳で渡米した1949年生まれの日本人、リオは1953年ワシントン生まれの白人。
    1976年に出会ってからずっと一緒に生きてきた。

    著者はふたりの教え子。
    大好きな二人と、自分にとっても重要なセクシュアリティがテーマだから、この本は客観的ではない距離で書かれている。悪い意味ではなく。
    ノンフィクション作家のルポルタージュというよりは迷える若者の手記。

    二人の話や、アメリカの人たちの話がおもしろい。
    演劇の仕事、教育の仕事、家族のこと、ゲイとしての人生のこと…
    日本の友人たちは「偏見なんてないよ」な感じがいかにもマジョリティだけど、還暦越えの日本人としてはいい方なんだろうな。
    多分こういう完璧じゃない理解こそが歩み寄りの証なんだ。

    とは思うんだけど、完全に肯定しきれてない書き方にもやもやする。
    著者はセクシュアリティを引き受けることをようやく始めたセクマイ初心者のバイセクシャル。だから、そりゃもう色々と揺れている。
    著者のなかの、他人事じゃないからこそのためらいが、変な距離を生んでしまう。
    内なるホモフォビアや引け目、「叩かれても仕方ない」といった諦めが、百パーセントの肯定をためらわせる。
    加えて日本的な政治(権利擁護運動)フォビアも顔をのぞかせる。

    考え始めたばかりの弱さや自信のなさはわかるんだけど、著者の不安に引きずられた文章がマイノリティを否定してしまいそうでハラハラする。
    反論も肯定も不安げだとか、自己否定と自分の属性(セクマイ)否定が混ざってしまっている感じとか、ものすごくもどかしい。
    青年期に思春期ものを読んだような気分。
    もう少し時間がたてば見守る気持で読めるだろうか。

    著者が20年古い人なら、「この人が若い頃は今より大変だったから仕方ない」と思えただろうし、あと20年若ければ「まだ知識がないから仕方ない」と思えただろう。
    だけど1979年生まれで90年代にアメリカに演劇で留学、周囲にゲイがいる環境で青春を過ごし、おまけに先生がこの二人で本人もセクマイ要素があって、しかも同性婚が夢物語じゃない21世紀に執筆された本で、これはあまりにも無知だ。
    当事者ゆえに直視できなかったってのはあるにしても。
    性格の悪い感想だけど、「知ろうとしてこなかった人が無知ゆえの偏見を当然のようにまき散らさないでよ」と思ってしまった。
    こんな風に思うのは、すごくひどいことなんだけど。

    迷いの中にいるから同じ状況の人を勇気づけるには力不足というだけで、この人が悪いわけではない。
    むしろできるかぎり肯定しようと努力してる。
    ちょうど今迷っている最中の人なら共感できるかもしれない。
    でもエンパワメントするために力強い肯定を心がけて書かれた本を読んで育った目には、不安定さが落ち着かない。
    要するに私がこの本を穏やかに見守れるほど成熟していないだけで、書き方自体は誠実な本だ。



    タケルさんの家族へのカムアウトで、親は世代が上だから無理だと友人に言われていたのが印象に残った。
    私からすればタケルさんの年代が親世代なのに、今でもおんなじ台詞を耳にする。
    親が子より上の世代なのは当たり前なんだから、年齢を理由にしていたら永遠にわかりあえない。

    演劇の先生が演劇の中の同性愛について語った部分が疑問。真夜中のパーティまで同性愛は語られないかほのめかされるだけだと言い切る。
    『サロメ』は?不実な恋人への愛を語りまくって無視されているヘロディアの近習は?
    『ルル』は?ばっちり「同性愛」という言葉を使って苦悩を語ったゲシュヴィッツは?
    「知らない」「思いつかない」を「ない」と言い切っちゃうのは好きじゃない。

  • とあるゲイカップルを題材にしたセクシャリティーについてのノンフィクション。長編なうえにテーマから逸れた話も多く、途中で挫折しそうになったが、ところどころに出てくる素敵な言葉やエピソードに助けられて完読。セクシャリティーの枠を超えて、彼らの生き方に学ぶところがたくさんあった。タケルの家族の拒絶の場面だけが目立って寂しかった。

  • 最近書かれてる本は結局何が言いたいかわからんのよな

  • 中村安希がセクシャリティについて書いているという事が動機になって読むに至った。彼女の観察眼の鋭さと人に媚びない批判精神は「インパラの朝」で実証済みだ。
    セクシャルマイノリティについて語っている部分は所々、感心する推察はあるものの他の書籍もいくつか読んでいるので見聞きしたことのある話も多かった。
    どちらかというと演劇などの芸術に対する姿勢や、仕事の仕方といった面に目が吸い寄せられたが、やはり全体を読み終わってみると自身のジェンダーについて認識を改める或いは再確認する作業を何度もしていたことに気づいた。
    この本が出版されたことを見てもゲイの認知度は着実に上がっている。あとはこの著者のようにバイであるとか、ノンバイナリージェンダーの事についても理解が進めばいいと願う。

  • 2017年1月22日に開催されたビブリオバトルinいこまで発表された本です。テーマは「リョウ」。

  • アメリカ生まれのリオと日本生まれのタケル。ともに舞台に携わる仕事をロサンゼルスでしている。二人は、セクシュアルマイノリティだ。二人の出会いから現在に至るまでをインタビュー形式でたどる。もし、自分の身近に彼らのような人たちがいたらどう接するのだろうか。その心の闇と社会での風当たりがじわりと心に残る。

  • 物をつくる上で忘れてはならない心がある。
    わたしも舞台の上に美しい夕日をかけたい。

  • セクシャリティーは白か黒かというはっきりしたものではなく、柔軟で連続的なものなのだということ、すごく腑に落ちたし、自分の感覚を擦り合わせても納得のいく感覚だと思った。けど、世間は、特に日本では、多様性と銘打ってなんでも受け入れていきましょ的なことあげてるけど、実際はただ見ないようにしているだけで、実際に自分に降りかかったときは、拒絶するっていう著者の指摘も、日本で生活するものとして悲しいかな凄く頷けるものだった。兎にも角にもこの本の素晴らしさはタケルさんとリオさんの関係というか、運命体のような存在を教えてくれたこと。彼らには強い憧れと希望を感じた。自分も自分の心に正直に迷うことなく生きていきたい。

  • 367.9

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著者プロフィール

ノンフィクション作家。1979年、京都府に生まれ、三重県で育つ。高校を卒業後、渡米。カリフォルニア大学アーバイン校舞台芸術学部を卒業する。アメリカと日本で三年間の社会人生活を送ったのち、取材旅行へ。訪れた国は六十五に及ぶ。2009年、『インパラの朝』(集英社)で第七回開高健ノンフィクション賞を受賞

「2011年 『Beフラット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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