- Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
- / ISBN・EAN: 9784797673999
作品紹介・あらすじ
見えない人と見るからこそ、見えてくる!
全盲の白鳥建二さんとアート作品を鑑賞することにより、浮かびあがってくる社会や人間の真実、アートの力――。
「白鳥さんと作品を見るとほんとに楽しいよ!」
という友人マイティの一言で、「全盲の美術鑑賞者」とアートを巡るというユニークな旅が始まった。
白鳥さんや友人たちと絵画や仏像、現代美術を前に会話をしていると、新しい世界の扉がどんどん開き、それまで見えていなかったことが見えてきた。
視覚や記憶の不思議、アートの意味、生きること、障害を持つこと、一緒にいること。
そこに白鳥さんの人生、美術鑑賞をする理由などが織り込まれ、壮大で温かい人間の物語が紡がれていく。
見えない人とアートを見る旅は私たちをどこに連れていってくれるのか。
軽やかで明るい筆致の文章で、美術館めぐりの追体験を楽しみながら、社会を考え、人間を考え、自分自身を見つめ直すことができる、まったく新しいノンフィクション!
開高健ノンフィクション賞受賞後第一作!
本書に掲載された作品:
ピエール・ボナール、パブロ・ピカソ、クリスチャン・ボルタンスキー、興福寺の仏像、風間サチコの木版画、大竹伸朗の絵画、マリーナ・アブラモヴィッチの《夢の家》、Q&XL(NPO法人スィング、ヂョン・ヨンドゥのビデオ作品など。
・カラー作品画像多数掲載!
・会話から作品を想像していただくために、本文ページでは見せていない大型作品をカバー裏面に掲載!
川内有緒(かわうちありお)
ノンフィクション作家。1972年東京都生まれ。
映画監督を目指して日本大学芸術学部へ進学したものの、あっさりとその道を断念。
行き当たりばったりに渡米したあと、中南米のカルチャーに魅せられ、米国ジョージタウン大学で中南米地域研究学修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏のユネスコ本部などに勤務し、国際協力分野で12年間働く。2010年以降は東京を拠点に評伝、旅行記、エッセイなどの執筆を行う。
『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』(幻冬舎)で、新田次郎文学賞、『空をゆく巨人』(集英社)で開高健ノンフィクション賞を受賞。
著書に『パリでメシを食う。』『パリの国連で夢を食う。』(以上幻冬舎文庫)、『晴れたら空に骨まいて』(講談社文庫)、『バウルを探して〈完全版〉』(三輪舎)など。
白鳥建二さんを追ったドキュメンタリー映画『白い鳥』の共同監督。
現在は子育てをしながら、執筆や旅を続け、小さなギャラリー「山小屋」(東京)を家族で運営する。趣味は美術鑑賞とD.I.Y。「生まれ変わったら冒険家になりたい」が口癖。
感想・レビュー・書評
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「目の見えない人は世界をどう見ているのか」読了後の深堀り。
自分では見えないから一緒にいる晴眼者が発する情報で美術を鑑賞する。
白鳥さんは晴眼者の言葉以外の様々な事象を情報として取り入れるので
皆で一緒にその場で鑑賞する必要がある。
人に説明するために晴眼者も見方が変わる。
例えば晴眼者だけでもグループ鑑賞は有益かもしれない。
しかし静かに鑑賞したい人もいるのだから時間帯を分けるとか施設側の対応も必要なのでは。
そこが著者の主張かもしれないが、
美術鑑賞から優生思想や差別問題、映画作りにまで話を広げていくことは「書名に偽り在り」と感じる。
確かに美術に限らず芸術鑑賞に知識は不要だが、知識があれば理解は深まると私は思う。
的外れ以上に凄い事を言って鑑賞している?バカップルの発言は聞いていて楽しいし当人は幸せなんだろうな。
しかし互いに専攻しているかのような高いレベルの発言を交わしているカップルの盗み聞きも楽しい。 -
盲目の美術鑑賞家、白鳥さんと著者が美術館を周りながら著者の感じたことが綴られていくエッセイ。
書かれている内容は(思想的に)簡単ではないものの文章はわかりやすく、白鳥さんをはじめとする登場人物とのやりとりもコミカルなため、興味深く読み進めることができた。
盲目者を伴う美術鑑賞は説明するサイドにとっても新たな視点を与えるもので解像度を上げるという話から始まり、時間や生死に対する哲学的考察、日本社会に根付く差別や優生思想、語られなかった者たちの物語まで、多様なトピックを白鳥さんとの美術鑑賞を通じて著者の視点で語られていく。
個人的には、白鳥さんやホシノさん、マイティといった楽しそうな人たちと美術館で交流する機会を持てるという経験そのものに価値があるのだろうな、と感じ、著者を羨ましくも思った。
今が一番大切、そしてその今を価値観の合う人と笑い合えたらそれで良い、そのように感じさせてくれる一冊だった。 -
美術展は一人行きたい。作品の背景は気にしない。何も考えず、自分が感じるとおり見たいだけ。ずっとそう思っていた。
でも誰かと一緒に美術館に行きたい。どんな風に見えているか、話しをしながら、鑑賞したいなと思った。 -
美術鑑賞というライフワークを通して、
モノの見方の偏見や凝り固まった価値観を解きほぐしてくれる1冊。
”人気を気にするだけの風潮”や”これを知っている人がイケている人で、これを知らない出来ない人はダサい”と言うレッテルを肩甲骨のごとく剥がしてくれる。
だから、読むことが気持ちがいい。
実際にこの本を手に取るような人は、自分も含めて差別に対しての憤りやリベラルに対する憧れを持っている人かと思われるけれど、そんな自分をして自身の無意識に根付く優生思想や鑑賞そのものをファッション的に取り扱ってしまうこと、あるいはそれらを表面的に扱う人や活動に対する嫌悪の有害性など、他にも沢山の自身の加害性についてをこの本は教えてくれた気がする。
今を生きる上で大切なことは、いかにもそれらしい理屈ではなくて、その理屈を実際の日常に当てはめた時に都度飲み込んで自分の中で改めて議論することだったり、理屈ではなくてその場の一人一人・ひとつひとつについて実際の体感や体験を通して誠実であろうとすることだと思った。
結局いい人であろう、魅力的な人になろうとするときに必要なのは、根本的には知識ではなく思いやりの心なんだと思った。
心が伴わないなら何をやっても意味がないのだと。
日常のすべての価値を忘れてしまったら、
この本がそのすべての価値を教えてくれる。
有名な作品は多くない、知らない作品ばかり。
でも、も、だからもなく、おもしろい。
自分のしたいを大切に。 -
川内さんの書く文章が何よりも好きで何気なく面白いかなあと思って読み始めた本だけどびしびしと伝わる何かがあって、今私が感じてることは必ずしも当たり前じゃない世界の人が沢山いるっていうことを矢のように突きつけられた刺激のある本でした。
まず白鳥さんの性格があっさりしてて好きで目の見えないというハンデを諸共せず、俺はこういうものだから〜で片付けてるのに私たちは障がいがあるからこそ手伝おうとしたり、同情したり、はたまた見えないふりをしてみたり。その人にとっては普通の生活を過ごしているだけなんだから周りがおせっかいを焼く必要がないんだ(ただ支援はしたい)って自分の胸がスッキリしたような気がした。
また白鳥さんと絵を見ることによって新しい観点から物事を捉えるという場面が多々あってそれも面白くゴッホの話が特に共感した。
私も好きな画家をとことん予習して美術館に挑む。その時の浅い知識だけで「この時代はこういうことがあったからこんな描き方なんだ」って勝手に先入観が先走ってしまう。知識が必要ないとは思わないけど全く知らないことが正解じゃないんだ。知らないからこそ見えるものがあってフレッシュなものになるんだ。 -
P140くらいまで読んであとは流し読み。
伊藤亜紗さんの「目の見えない人は世界をどう見ているのか」を当書より先に読んでいたが、全盲の白鳥さんと美術鑑賞をする行為を、伊藤亜紗さんが論理的に分析しているのに対し当書は白鳥さんの性格や人との接し方などと合わせて情緒的に描いている。
構成は、白鳥さんと作品を見る→酒を飲みながら感想のループ。そこから障害とは、優生思想とは、幸せとは等の難しい話になっていく。
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全盲の白鳥さんとのアート鑑賞。伝えるためにはいつも以上によく見て、解釈しなければならない。目の見える私は、言葉で説明している場面を読むと、作品そのものを、“正解”を早く見たいと思ってしまう。だけど、白鳥さんは「一直線に正解にたどり着いてしまってつまらない」と言う。分からなさを楽しむ白鳥さんと一緒に、分からなさから生まれる発見を楽しむ。そういう新しい鑑賞体験のおもしろさもさることながら、読み進めるほど白鳥さんという人に惹かれていく。全盲の白鳥さんから、人生を楽しもうとする一人の人としての白鳥さんに、興味が移っていく。
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全盲の白鳥さんと美術館に行く…そう聞いて、白鳥さんへの説明を通して絵の奥深さに気づくということなのかなと思った。でも、そんなもんじゃなかった。自分の生き方や価値観、今まで当たり前と思っていたことが全く違っていることに気づいたり。
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書庫らでん11月推薦図書
ふーっと肩の力が抜けた本。
「べき論」で考え込む自分自身に、「いやいや、今が幸せならそれでいいじゃないかあ」と声をかけてもらった感じ。
あとは行きたい美術館が増えた!幸せ!