- Amazon.co.jp ・本 (313ページ)
- / ISBN・EAN: 9784798116211
作品紹介・あらすじ
IT業界のみならず経済界からも注目されているニコラス・G・カーが本書で打ち出すのは、電力会社の発展をメタファーとして語る"商品を物理的な形態やコストから解き放った、インターネットと情報産業がもたらす新しい経済"である。潤沢なインフラが提供されたことでSaaS[Software as a Service]が可能になり、ひいてはユーティリティコンピューティングにつながることで、企業はITにとらわれず自社の生産活動に純粋に打ち込めるようになるのだ。そして、そのとき企業のビジネスモデルはどのように変わるのか?グーグルやアマゾンなどが、すでに着手しているクラウドコンピューティング時代の幕開けに、ビジネスモデルの大きな変革期が訪れようとしているのだ。
感想・レビュー・書評
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「エジソンからGoogleへ」
そんな見出しで始まる本書は、クラウドコンピューティングをシステマティックに解説するのではなく、それが世界にもたらすインパクトについて解説される。
前半は今日のIT化社会に入る以前、バーデンの水車開発やエジソンの発電機発明など、今日のオートメーション化の歴史背景を振り返る。
そして後半は、「旧来の工業化時代には巨大な発電所が電力を供給したように、我々の情報化時代においてはコンピュータプラントが動力を供給する」というクラウド・コンピューティングの時代の到来について。(※GoogleのCEOであるエリック・シュミットが名付け親とされている)クラウドは企業を数社の巨大ITベンダーの支配やデータセンターの制約から解放し、カスタムメイドな情報処理を可能にした。そして企業ばかりではなく、「Gmail」に代表されるように、家庭の一個人までも「雲の中」に取り込んだ。SNSやYoutubeなどを通じ、「無報酬の労働力」を世界中に生み出した(ユーザーが作りだしたコンテンツの商業化)。
このように、より豊富で独創的なコンテンツが生まれる環境の構築が賞賛される中で、カー氏は、「技能のあるなしに関わらず、労働者はソフトウェアにとって代わられ、知的労働が世界規模で取引され、企業がボランティア労働を集約して経済的利益を収奪している現状は、ユートピアとはほど遠いと思わざるを得ない」と指摘する。そしてそれは、「デジタルエリートと大多数の人々との分裂に拍車をかける」という。
また、例えばSNSなどでどれだけ個人情報を隠そうとも、そもそもネットに接続した時点で、IPアドレスによりコンピュータの所在がサーバに記録されていることから、ボーダレス社会の裏側で、一部のベンダによる監視社会が築かれていると警鐘を鳴らす。ジョージオーウェルが「1984年」で描いた全体主義社会も、Googleが築こうと思えば築けるフェイズにきていると。
そしてまた「似た者同士」で集まる性格を持つ人間は、国境を越えて仲間を求め、多様性を封鎖するボーダレスな閉塞空間を作りだす。ネットによって世界は多様化どころか、どんどん閉塞的になってゆく可能性がある。
このようにカー氏はクラウド化のネガティブな側面を挙げているが、否定しているわけではない。これらの側面を認識した上で、「クラウド化する世界」を生きていく必要があるということだ。物事を自分なりに判断できるだけの価値観をもつことが求められているといえるだろう。ヒトが生み出した雲に飲まれて右往左往してしまわぬように。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
"IT Doesn't Matter"と言ったことで有名な著者の米国ではかなり売れていると言われている本です。原題は"The Big Switch"ですが、邦題もなかなかいいと思います。
IT産業に起こりつつあるコンピューティングのコモディティ化という変化を、過去に米国で起きた電力産業の変化になぞらえるあたりは、構成なんかも含めてうまいですね。私は好きです。
"IT Doesn't Matter"と言うだけあって、著者の論調はインターネット礼賛一辺倒という内容ではなく、富や情報の集中、プライバシーなど負の側面についてもたっぷりと述べています。グーグルのラリー・ペイジの言葉にも距離を取っているようにも感じます。ただ同時に我々が否応のない大きな変化の中にいることについて厳然たる事実として描き出してもいます。仕事にも関係してくることなので、考えさせる内容でした。
元の文章がよい(論理的)のかもしれませんが、翻訳も非常によい仕上がりのように思います。
でも、"Personalized"を"個人化"と訳しているのは少し不満ですが。
* CloudとCrowdが日本語ではどちらも"クラウド"になるのは少しあれですね。言葉遊びはできそうですが。 -
クラウド についてというより、
ネットの歴史を学べるといったところ。
少しインターネットに関して否定的に感じられ、希望があまり感じられなかった。
2013年現在と2008年(出版年)のわずか5年の間でもネット世界はかなり変化していて、今風に感じられない部分があったのかもしれない。 -
ITがワールドワイドウエブにより大きな1つの機械となっていく様子がよく分かる。
人間がコンピュータに合わせた行動をとりそれが全体知となってウエブを益々賢くしてゆく。クリックの一つ一つがすでに情報として収集されその気になれば特定されるレベルに達しているのはなるほどと思った。
グーグルが本のデジタル化の背後で人工知能に結びつけようとしていることを知り90年代の第5世代コンピュータを考えていた日本の最優秀の方々のその後が知りたくなった。
【内容】
IT業界のみならず経済界からも注目されているニコラス・G・カーが本書で打ち出すのは、電力会社の発展をメタファーとして語る“商品を物理的な形態やコストから解き放った、インターネットと情報産業がもたらす新しい経済”である。
潤沢なインフラが提供されたことでSaaS[Software as a Service]が可能になり、ひいてはユーティリティコンピューティングにつながることで、企業はITにとらわれず自社の生産活動に純粋に打ち込めるようになるのだ。そして、そのとき企業のビジネスモデルはどのように変わるのか?
グーグルやアマゾンなどが、すでに着手しているクラウドコンピューティング時代の幕開けに、ビジネスモデルの大きな変革期が訪れようとしているのだ。 -
コンピュータ化する創世記から現在(2008年)までに起きたコンピューティング、ネットワーキング、インターネットのこれからについて語った本。
う〜ん。ところどころに面白い話はあるものの、全体的に冗長な気がした。
ビルゲイツの話から、Googleの話まで。
でもクラウドが何をもたらすのか?
題名っぽいところは、あまり書かれていなかった気が。。。
自分が読みこなせてないだけ?
いやー、長々文章だったから、さらーーっと見だけだったけど。。。
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クラウド・コンピューティングという現象の青写真を描いた本
目次
<blockquote>プロローグ ボストンの戸口
第1部 一つの機械
第1章 バーデンの水車
第2章 発明家と実務家
第3章 デジタル時代のからくり装置
第4章 さようなら、ミスター・ゲイツ
第5章 ザ・ホワイトシティ---コロンビア万国博覧会
第2部 雲の中に住む
第6章 ワールドワイドコンピュータ
第7章 多数から少数へ
第8章 大いなるバラ売り
第9章 ネットと戦う
第10章 クモの巣
第11章 iGod
エピローグ 炎とフィラメント
</blockquote>
非常に挑戦的で、かつ、刺激的な本……だと思う。
筋書きは非常に簡単だが、<u>第二部をきっちり読まないと、危うい方向へ進んでしまう</u>。
しかしながら、今後の変化を知るためには、必読だとは言える。
<blockquote>テクノロジーの発展とその結果を決めるのは、商品やサービスを製造して消費するコストに及ぼすテクノロジーの影響なのである。競争市場が保障するのは、より効率的な製造・消費方法が効率性の劣る方法に勝つ、ということである。</blockquote>
発電所のメタファーをもって、クラウド・コンピューティングという現象をこれ以上なく説明している。
クラウドに変わるとどうなるか?
まず、自分の管理する領域には何も無くて済む。だから管理はほとんど必要ない。
その代わり、相手側のサービス提供者が完全に(カスタマイズ|管理|運用)してくれている。
自分は使うだけだ。
そうなると、全ての人のサービスを一括して引き受ける提供者が必要で……それはかつてはメインフレームだったけれど、今はインターネットそのものがそのカタチになろうとしている。
(ここまでが第一部の内容。
殆どの人はここまでがこの本の主張だと思ってしまうが、それだと<b>片手落ちだ</b>)
しかし、クラウドは同時に問題も孕んでいる。
<blockquote>・かつては必要だった仕事が技術によってなくなってしまうこと(省力化)
・個人のプライバシーもネットの上にすべてあるということ
・情報格差、特に仕事の差による賃金、富の不公平
・情報のバラ売りによって、かつては抱き合わせ状態であったパッケージ情報(新聞・TV)がシステムとして成り立たない為に、情報に偏りが出るということ
・誰でも使える為に、その使用用途が善であろうと悪であろうと使えてしまう(テロリズムへの不正流用)
</blockquote>
といった負の側面も見せてくれる。
しかしながら、この本はまだ啓蒙段階だ。具体的な何かを示しているわけではなく、やはり現象なのだ。
この本は、アメリカでの現象を基にしているが、アメリカはクラウドというフロンティアに向かって進んでるんだ。しかしインターネットで起こってるその変化は、決して一つの国で完結するものじゃない。同時に全ての国、世界がまるごと影響を受ける。
アメリカのビジネスの急先鋒がそこにあることは間違いが無い。
<blockquote>すべての技術的変化は、世代の交代である。新しい技術の最大限の力と重要性が発揮されるのは、その技術とともに育った人たちが大人になって、時代遅れの親世代を脇に追いやるようになってからだ。</blockquote>
クラウドは、ある日全てが劇的に変わる……ということでは無いと思う。
しかし今、ケータイが無かった時代の暮らしを創造することができるだろうか?
技術が日用品化し、当たり前に使うようになると、そのモノが無い状態を理解することは難しい。若いうちから様々なサービスやツールを使っている子たちの世界は、恐らく自分ですらも違う世界で、もっといろんなことができるんだろうなぁ……。
そういう世代の格差は、程度こそあれ、多くの人がそれとなく感じていることでは無いだろうか?
若い世代が徐々に台頭してきたとき、構造は変わってしまうのかもしれません。
未完成のアラが目立つ箇所から、事件が起こり、そこで初めてそのトレンドが主流となる為に政治や経済が活発に動き始める。常に遅れて出てくるけれど、それが出たときには先行しているものが全てを握っていたりするものなんですよね……。
情報も電気も、使うことが無いのならば、必要が無いのです。
殆どの家で電気が必要なのは、家事に使う電化製品に必要だからです。
では……情報は?何に使うのだろう?
<b>自分は「今ここにいる」という理解の為に必要なのかもしれない</b>と思ってます。
そのために、恐らく人々は、情報を必要が無いと切って捨てることができないでしょう。
この本を読み終えたときには少し煽られてた感じで、危機感が募ってきてたんだけど、落ち着いて考えると、そんなに慌てなくてもいいと思う。
ただ、知るべきことは知らないといけない。<u>何が起こってるのかわからないでいるということは、世の中から完全に切り離されることと同義だから</u>……瑣末なトレンドまでは追わなくてもいいかもしれないが、こういう世の中の方向性を完全に変えてしまいそうなトレンドはちゃんと追わなければならないと思う。 -
・硬派なジャーナリズムには金がかかるが、新聞の名声を高めて広告価値を高めてきた
・人間は同じ見解を持つ人々でやり取りをするほど、その見解は強まる ⇒ インターネットは過激な思想を助長する恐れがある
・全世界の情報を直接人間の脳に取り込む技術がについて研究が進んでいる -
確かにいろいろ興味深い話が書いてあったが、この本の邦題に「クラウド」という言葉を使うのはちょっと「ズル」じゃないかな。その話ばっかり書いているわけでもないので。
翻訳がもうちょっとよかったらなぁ・・・と思います。
最初のほうに、かなり初歩的な英語の読み間違い、かつ、「それを誤訳するっていうことは、話の内容わかってないでしょ!」という性質の誤訳があったので、かなりがっかり。ちょっと読むのが辛くなりました。