死者の民主主義

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784798701738

作品紹介・あらすじ

人ならざるものたちの声を聴け

20世紀初めのほぼ同じ時期に、イギリス人作家チェスタトンと、当時はまだ官僚だった民俗学者の柳田国男は、ほぼ同じことを主張した。それが「死者の民主主義」である。
その意味するところは、世の中のあり方を決める選挙への投票権を生きている者だけが独占するべきではない、すなわち「死者にも選挙権を与えよ」ということである。

精霊や妖怪、小さな神々といったものは、単なる迷信にすぎないのだろうか。
それらを素朴に信じてきた人びとこそが、社会の担い手だったのではなかったか。
いま私たちは、近代化のなかで見過ごされてきたものに目を向け、
伝統にもとづく古くて新しい民主主義を考えなければならない。

死者、妖怪、幽霊、動物、神、そしてAI……
人は「見えない世界」とどのようにつながってきたのか。
古今の現象を民俗学の視点で読み解く論考集。


〔本書に登場するものたち〕
柳田国男、南方熊楠、宮本常一、今和次郎、ギルバート・K・チェスタトン、網野善彦、宮沢賢治、谷川健一、諸星大二郎、道祖神、河童、天狗、ザシキワラシ、潜伏キリシタン、仙童寅吉、熊、猫、アイボ、VTuber、浦野すず、飴屋法水、齋藤陽道……

感想・レビュー・書評

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  • 2019年7月の参議院議員選挙で、日本初の障害者議員が誕生した。
    また、最近のビジネス界ではSDGsが流行となっており、将来のことを見据えた持続可能な開発を考えている人が増えているように見える。
    本書の中でも著者は、「草の根民主主義」が広がってきていると認めているが、その一方で、「死者のための民主主義」が必要であると主張する。

    「死者のための民主主義」は、元々はイギリスの作家であるギルバート・キース・チェスタトンと、日本の民俗学者である柳田国男が提唱したものである。
    日本やイギリスといった国家は、「今の人間」だけのものではない。将来の国民となる、我々の子孫のものでもある。それと同様に、過去にこの国に生きていた者たちのものでもある。

    本書で著者は、「死者や精霊や妖怪、あるいはそのほかの人間ならざるもの、また人間と人間ならざるものの境界にいるような存在の事情に思いをいたし、彼らの言い分を聞いてみよう」と呼びかける。「彼らの政治参加を促し、彼らが現代社会の重要な構成員であることを知らしめたい」とも主張する。
    確かに、「日本」という国家は、「今の人間」だけで構成されるものではない。「今」ではなく、過去も未来も包摂するし、「人間」以外のものも重要な国家の構成要素である。
    著者は今までにも、「日本列島に棲息してきた「妖怪」たちは、災害や戦争などにより不慮の死を遂げた人びとの集合霊であり、彼らにも選挙権を与えるべきだと主張」している。「精霊や妖怪、小さな神々を素朴に信じる人びと、信じてきた人びとこそが民主主義の担い手であると私は考える」という。

    本書では、タイトルにもなった「死者の民主主義」以外にも、「妖怪と公共」、「ITと怪異現象」、「VTuberは人形浄瑠璃と似ているか?」、「アイボの慰霊とザトキワへのご褒美」、「『この世界の片隅に』は妖怪映画である」、「熊を神に祀る風習」など、様々なテーマを民俗学と結び付けて語っている。
    民俗学も妖怪も、時代に合わせて変化するものである。
    新しい民俗学の書が、「死者の民主主義」というタイトルで出されたことは、非常に興味深い。
    「今の人間」中心主義から脱却すべく、人ならざるものたちの声を聴くきっかけとして、今読むべき本。

  • ひたひたと怖くなってくる一冊。
    振り切れたデザインと、怪文書のような字体、そして一貫性がないにもほどがある文章がちらばっていて、読んでいるうちに世界がゆがんでくる。

  • 死者にも選挙権を与えよ。

  • 民俗学というと日本各地に残った古い事象を収集して意味づけしていくというイメージがある。畑中氏の論法は、むしろ現在起こっている事象を民俗という軸組で捉え直そうとしているように思う。書き下ろし論考ではなく、様々なメディアに書いた物をまとめた本とのことで自然と現代から書き起こすことになっているのかもしれないが。前書きにおいて筆者は、ラフカディオ・ハーンの言葉を引用し、「生きているものの日々のおこないは、おしなべて死者たちのおこないである」ことを民俗学者であるがゆえに認めざるをえないと述べる。「死者の民主主義」というタイトルは、死者や妖怪、人ならざるものではあるが人とともにあるもの達を現代社会の(現代社会においても)重要な構成員であることを知らしめる意味合いでつけたようである。

    本書はまだ全編は読ませていただいていないのだが読んだ範囲でレビュー。第1部ではずばり、チェスタトンの「死者の民主主義」という思想、柳田国男の「死し去りたる我々の祖先も国民なり」という言葉を紹介。死者が公共性を持ちうるかを東日本大震災の幽霊、渋谷のハロウィンといったことを題材にし、さらに南方熊楠の鎮守の森保護活動、柳田国男の妖怪談などを通して考察する。第2部では諸星大二郎を語り、Vtuberと人形浄瑠璃から日本人のVR願望を導きだし、さらに「この世界の片隅に」を妖怪映画であるとするのである。第3部以降も興味をそそる章題が並んでいる。

    民俗学の視点から現在起きている事象を見直すことで、なにやら不毛な議論を繰り返すこの国の民主主義を考えなおすきっかけになるのではなかろうか。

  • 民俗学は、むかし話を論じるだけの学門ではなく、今の我々の生活に染みこんでいる“何か”を明らかにしていくもののようだ。

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著者プロフィール

大阪府大阪市生まれ。民俗学者。著書に『災害と妖怪』(亜紀書房)、『蚕』(晶文社)、『天災と日本人』(ちくま新書)、『21世紀の民俗学』(KADOKAWA)、『死者の民主主義』(トランスビュー)、『五輪と万博』(春秋社)などがある。

「2023年 『『忘れられた日本人』をひらく 宮本常一と「世間」のデモクラシー』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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