若い読者のための経済学史 (Yale University Press Little Histor)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784799106846

感想・レビュー・書評

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  • 似たようなタイトルで、最近読んだ大澤真幸の『社会学史』が面白かったのは、歴史と言いながらもそこに著者の思い入れと考察が入れ込んであり、それが心から面白いことだと信じて伝えようとしていたからに他ならない。この『経済学史』は、近代経済学の歴史をなぞっていて、とても興味深く読んだのだが、著者の主張があまり見えてこず、そこにどこか何か物足りなさが残った。それでも、経済学史を学ぶにはかなり適した本である。

    大澤氏は『社会学史』の中で「ある領域が「学問」となるためにはその学問固有の主題を持つ必要がある」として、社会学の固有の主題は「社会秩序はいかにして可能か?」であると言った。本書『経済学史』で著者は、経済学が、「社会が資源をいかに使うか」を研究する学問であるとし、その中でも資源の希少性に着目した重要な問いとして次の2つを挙げている。
    ・社会がいかにして希少性による最悪の結果を克服するか
    ・なぜ、ある社会ではそれがすばやく行われないのか
    ここからわかるように、発展途上国の経済や、貧困問題や環境問題における経済学の役割について著者はおおいに興味をもっていることが見えてくる。

    これまでの経済学の歴史の中では、多くの思想家が存在し、それぞれの時代の問題に応じたさまざまな理論を考え出してきた。一方で、大学で学ぶ経済学においては基本的な経済理論が中心となり、こうした思想家の考えが講義から外される傾向にあるという。著者は、それはさまざまな考え方を学ぶべき若い学生にとっては不幸なことだと考えており、そういった思いから、本書を書いている。

    紹介された経済学者の名前をざっと見ると、フランソワ・ケネーやアダム・スミスの頃から順に経済学の成り立ちを見ていく過程は過不足なくまとめられていて、知識の補充には申し分ない。比較優位論のデヴィッド・リカード、社会主義の始祖とも言えるシャルル・フーリエ、ロバート・オーウェン、アンリ・ド・サン=シモン、人口論のトマス・マルサス、そして巨人カール・マルクス、限界効用説のウィリアム・ジェヴォンズ、需給理論のアルフレッド・マーシャル、独占・寡占の理論や経済の外部性のアーサー・セシル・ピグー、不完全競争のジョーン・ロビンソン、そしてジョン・メイナード・ケインズ、イノベーションのヨーゼフ・シュンペーター、ゲーム理論のジョン・フォン・ノイマン、ナッシュ均衡のジョン・ナッシュ、自由主義のフリードリヒ・ハイエク、開発経済学のポール・ローゼン・ローゼンシュタイン=ロダン、経済成長のロバート・ソロー、数理経済学のケネス・アローとジェラール・ドブリュー、フィリップス曲線のビル・フィリップス、公共選択論のジェームズ・ブキャナン、シカゴ学派・マネタリズムの中心人物ミルトン・フリードマン、合理的期待と価格変動理論のジョン・ミュース、効率的市場仮説のユージン・ファーマ、新古典派のロバート・ルーカス、人間開発指標のアマルティア・セン、逆選択のジョージ・アカロフ、情報経済学のジョセフ・スティグリッツ、行動経済学のダニエル・カーネマンとエイモス・ドヴェルスキー、リチャード・セイラー、ロバート・シラー、21世紀の資本のトマ・ピケティ、有名どころはもれなく並ぶリストになっている。よろしいのではないでしょうか。

  • 【感想】
     珍しいスタイルの経済思想史。ひとつの章ごとに二人の思想家を扱う(当時の肩書だと実務家もトレーダーも記者も革命家もいる)。その二人一組というのは、学説的には対立していたり、補完していたり、先導と後継であったりする。
     著者が細かく解説を加える箇所は少なく、どちらかというと二人の考えに喋らせることの方が多い。
     私はこの本を読んでマルサスの予言の駄目っぷりを再認識できた。

     ただし、楽しい本書にも多少の前提知識は必須で、「学派」について何も知らない人が読むとチンプンカンプンになるはずなので、教科書の副読本として読むか、またはもっと易しい本を先に読んでおけば、著者の言いたいことがよく理解できると思う。

     ※本書より易しい本……松尾匡『対話でわかる 痛快明快経済学史』(日経BP社)、中村隆之『はじめての経済思想史 アダム・スミスから現代まで』(講談社)。
     ※本書より難しい本……ハイルブローナー『入門経済思想史 世俗の思想家たち』(筑摩書房)、根井雅弘 『経済学の歴史』(講談社)など多数。


    【書誌情報】
    原題:A Little History of Economics
    著者:Niall Kishtainy
      (https://twitter.com/niallkishtainy)
    訳者:月沢李歌子
    出版社:すばる舎
    ジャンル:人文 > 歴史
    ISBN:9784799106846
    定価:本体3,200円+税
    http://www.subarusya.jp/book/b345585.html

    【目次】
    目次 [003-007]

    1 冷静な頭脳と温かい心 008
    2 空を舞う白鳥 016
    3 神の経済 024
    4 黄金を求めて 032
    5 自然の恵み 040
    6 見えざる手 048
    7 穀物が鉄に出会う 056
    8 理想の世界 064
    9 養う口が多すぎる 072
    10 世界の労働者 080
    11 完全なる均衡 088
    12 太陽を締め出す 096
    13 戦争の利益 104
    14 騒々しいトランペット吹き 112
    15 コークか、ペプシか 120
    16 計画する人 128
    17 お金を見せびらかす 136
    18 排水口のむこうへ 144
    19 創造的破壊 152
    20 囚人のジレンマ 160
    21 政府の専制 168
    22 ビッグ・プッシュ 176
    23 経済学はすべてに通ず 184
    24 成長 192
    25 美しい調和 200
    26 ふたつの世界 208
    27 浴槽を満たす 216
    28 道化師による支配 224
    29 貨幣錯覚 232
    30 未来の予測 240
    31 攻撃する投機家 248
    32 虐げられている人々を救う 256
    33 わたしを知り、あなたを知る 264
    34 破られた約束 272
    35 消えた女性たち 280
    36 霧のなかの頭 288
    37 現実世界における経済学 296
    38 野獣化する銀行家 304
    39 空高くそびえる巨人 312
    40 なぜ経済学者か 320

    索引 [328-335]

  • ■目次
    1 冷静な頭脳と温かい心
    2 空を舞う白鳥 プラトン/アリストテレス
    3 神の経済 アウグスティヌス/トマス・アクィナス
    4 黄金を求めて ジェラール・ド・マリーンズ/トーマス・マン
    5 自然の恵み フランソワ・ケネー
    6 見えざる手 アダム・スミス
    7 穀物が鉄に出会う デヴィッド・リカード
    8 理想の世界 シャルル・フーリエ/ロバート・オーウェン/アンリ・ド・サン=シモン
    9 養う口が多すぎる トマス・マルサス
    10 世界の労働者 カール・マルクス/フリードリヒ・エンゲルス
    11 完全なる均衡 ウィリアム・ジェヴォンズ/アルフレッド・マーシャル
    12 太陽を締め出す フリードリヒ・リスト
    13 戦争の利益 ウラジーミル・イリイチ・レーニン/ジョン・ホブソン
    14 騒々しいトランペット吹き アーサー・セシル・ピグー
    15 コークか、ペプシか ジョーン・ロビンソン/エドワード・チェンバリン
    16 計画する人 ルードヴィヒ・フォン・ミーゼス/オスカー・ランゲ/アバ・ラーナー
    17 お金を見せびらかす ソースティン・ヴェブレン
    18 排水口のむこうへ ジョン・メイナード・ケインズ
    19 創造的破壊 ヨーゼフ・シュンペーター
    20 囚人のジレンマ ジョン・フォン・ノイマン/ジョン・ナッシュ
    21 政府の専制 フリードリヒ・ハイエク
    22 ビッグ・プッシュ アーサー・ルイス/ポール・ローゼンシュタイン=ロダン
    23 経済学はすべてに通ず ゲーリー・ベッカー
    24 成長 ロバート・ソロー/トレヴァー・スワン/ポール・ローマー
    25 美しい調和 ケネス・アロー/ジェラール・ドブリュー/レオン・ワルラス/ヴィルフレド・パレート
    26 ふたつの世界 アンドレ・グンダー・フランク/ラウル・プレビッシュ
    27 浴槽を満たす ポール・サミュエルソン/アルヴィン・ハンセン/ジョン・ヒックス/ビル・フィリップス
    28 道化師による支配 ジェームズ・ブキャナン/クヌート・ヴィクセル
    29 貨幣錯覚 ミルトン・フリードマン
    30 未来の予測 ジョン・ミュース/ユージン・ファーマ/ロバート・ルーカス
    31 攻撃する投機家 ポール・クルーグマン/モーリス・オブストフェルド/ジェフリー・サックス
    32 虐げられている人々を救う アマルティア・セン
    33 わたしを知り、あなたを知る ジョージ・アカロフ/マイケル・スペンス/ジョセフ・スティグリッツ
    34 破られた約束 フィン・キドランド/エドワード・プレスコット
    35 消えた女性たち ダイアナ・シュトラスマン/ナンシー・フォルバー/マリリン・ウォーリング/ジュリー・ネルソン
    36 霧のなかの頭 ダニエル・カーネマン/エイモス・トヴェルスキー/リチャード・セイラー/ロバート・シラー
    37 現実世界における経済学 アルヴィン・ロス/ウィリアム・ヴィックリー/ポール・クレンペラー
    38 野獣化する銀行家 ハイマン・ミンスキー
    39 空高くそびえる巨人 トマ・ピケティ/アンソニー・アトキンソン
    40 なぜ経済学者か ウィリアム・ノードハウス
    索引

  • 下記のリンクでご利用ください。
    学外から利用する場合は「マイライブラリ」もしくはリモートアクセスサービス「RemoteXs(リモートエックス)」をご利用ください。
    https://elib.maruzen.co.jp/elib/html/BookDetail/Id/3000132627

  • 経済というよりも哲学寄りの本。

  •  読み易い。わかりやすい。それでいて本質を外してない。

  • とにかく所々しか書いてあることが理解出来ない。幼稚園児向けのレベルじゃないと読めないということがわかった。
    私は頭が良いという人はどうぞ。

  • 原始から現代まで経済学がどのような歴史を辿ってきたのかがわかります。それぞれの経済理論の詳細は、また別に勉強することとして。

  • 面白かった。このシリーズは本当に読みやすい。

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