日本につけるクスリ

  • ディスカヴァー・トゥエンティワン
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784799320013

感想・レビュー・書評

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  • 対談本としても良書です。内容はやんちゃな安部氏を竹中氏がやさしく導くといった趣向です。
    劣化が止まらない日本につけるクスリはあるのか?についてお互いの専門分野の知識を駆使して議論する様は知的興味を刺激します。
    本書は2016年に出版されたことを考えれば、かなり先見の明があったのがわかります。
    例えば、官僚たちを終身雇用にしたら組織の利益を最大化するインセンティブが働く(P91)、政治家にとって補助金=権力(票)(P161)、「この国には法の支配なんかない、特定の人の裁量ですべてが決まってしまう」(P221)、「政府が国民から信頼されることが最も重要」(P224)、「思考停止フォーマットには2つ、とにかく反対することと永遠の真理を使うこと」(P229)など現政権に耳の痛い話がわんさかでてきます。
    最後に、竹中氏が政策NPO(政策や政治家を評価し国民への情報公開を行う)を一緒に進めようという提案を安部氏が断ったのは残念で情けない。

  • 若き実業家 安部敏樹氏と竹中平蔵氏との対談をまとめたもの。知識が豊富で経験豊かな竹中氏に安部氏が挑んでいる形だが、知識、経験が不十分ながらもがむしゃらに突き進む安部氏の姿勢には、好感が持てる。議論はしっかりとかみ合っており、面白く読めた。やはり竹中氏は、すごい。

    「国民皆年金制度ができた1961年当時の日本人の平均寿命は、66歳。だから、「平均寿命より長生きするリスク」を背負った65歳から年金を支給するようになりました。ところが現在、男性の平均寿命は81歳、女性は87歳に達しています。女性でいえば、年金支給開始年齢から平均寿命まで22年もあるんですよ。制度ができたときと同じ65歳に支給して、財源が足りるわけがありません」N549
    「(年金は破綻しない)なぜなら、年金は国の制度であり、税金を投入できるから」N572
    「(若者について)何も問題がないと思っているのであれば行動する必要はありません。選挙にも行かずのんきに寝ていればいいんです。ところが一方で、若者は「将来が見えない、不安だ、老人はズルい」と文句は言う。それはつまり、「問題がある」と思っているということでしょう。問題があると思っているのに、なぜ何もしないのですか?」N761
    「「well-informed public(かしこい世論)」はただ座って待っているだけで実現できるものではありません。自分たちで勉強してつくりあげていくものなんです。だいたい不安を口にする人は「いまの社会は先が見えない」なんて嘆きますが、いままで先の見えていた時代がありましたか?」先が見えないからこそ、自分たちでつくり上げてきたんでしょう。そもそも「強者の理論」というけれど、強者・弱者という対立概念が昭和のインテリ風で古臭いなあ」N769
    「社会や政治に対するリテラシーが低すぎる。フィードバックが遅いのは、民主主義の基本です。「自分たちで決めた」という納得感を得るために、たとえスピードが遅くなってもみんなで意思決定するのが民主主義なんですから。いろいろな考えの人に支持されたいろいろな人が喧々諤々と意見を交わして政策に落とし込む。このプロセスを考えたら、フィードバックが遅いのは仕方ないと思いませんか?それで余りあるほどの恩恵があると思いませんか」N819
    「システムが変わらないと選挙に行かないというのであれば勉強不足か、まともに物事を考えられないと言われてもしょうがないんじゃないでしょうか?」N854
    「(合意形成の重要性)僕たちは震災の復興支援で石巻に入り込んでいましたが、あそこは方向性が定まらないまま復興が進んでしまった。被災後新しい家を建てる時、元々住んでいた場所や愛着のある商店街の近くを選ぶ人もいれば、便利さからイオンのそばを選ぶ人もいたりと、全体として動きがちぐはぐだったんです。一方、女川は非常に先進的で、合意形成を民間に自発的に行わせた結果、すでに今後20~30年間を見通した復興計画ができあがり、コンセプトも定まっています。行政も民間の意見をベースに政策をどんどん作っているし、うまく連携できている。復興計画としてはまさに理想的ですね」N1084
    「首長は、基本的に地方分権に反対なんですよ。地方分権が進めば、自由が与えられる反面、運営がうまくいかなかったときの責任も持たされるから。できるだけ国に頼って、楽をしていたいんです」N1109
    「なぜシャッター通りができるかというと、シャッターを下ろした人が、そこから立ち退かないからです(竹中)。ほんと、そうなんですよ。商店街の店はだいたい2階が自宅なんです。家賃がかからない分住人も金銭的にそこまで困っていませんから、知らない人に1階を貸すというリスクをあえてとろうとしません」N1121
    「アクティブラーニングをさせるためには、ある程度の知識や教養が必要になる。たとえば、ハーバード・ケネディ・スクールは2年コースで、1年目は統計学や経済学、法律学といった「知識」の勉強をひたすらさせます。そうしてひととおり知識を身に着けた2年目で、初めてアクティブラーニングに入る。学ぶ側に基本の知識がないとアクティブラーニングは機能しないという考え方ですね」N1470
    「(安部)僕は、まったく反対の「遅延評価学習法」もアリだと思います。つまり、「興味があることを調べる中で、その知識が必要になったら学ぶ」というイシュードリブンのスタイルです。このやり方だと、自分が何を知るべきなのか、いかに物事をわかっていないか理解して勉強できるんですよね。(慶応SFCは、そのスタイルを採用している(竹中))」N1473
    「(教育界の縦割体質(大学の教授等))学問の壁を超えるのは禁忌で、「餅は餅屋に任せろ」って雰囲気がある、自分の城を守りたいのかもしれないけど、それじゃあイシュードリブンの本質的な議論が進まないんです」N1491
    「国鉄の民営化がいい例です。あのとき、じつは交通経済論の研究者の多くは民営化に反対していたんですよ。鉄道はネットワークの経済性があるから全部つながっていないと意味がない、放っておいても独占企業になるからそのまま国営でやらせるべきだ、と言っていた。でも、民営化してよかったのは明らかで、JR東海とJR東日本が競うからこそいいサービスが生まれているわけですよね。専門家は、ひとつの側面からしか物事を考えられないから間違えるものなんです」N1496
    「(事前に完璧な予想はできない)事前にわからないこそ「生み出さないと学べない」んです。だから、いまの学問の主流はは、どの分野でも「すでに完成されたものを分解すること」から「つくりながら学んでいくこと」に移りつつある」N1530
    「成熟したこれからの社会では、アカデミックな視点や思想が欠けたビジネスは、早晩行き詰ってしまうと思いますよ」N1615
    「(営利と非営利の違い)どちらも収益をあげてよいが、非営利の場合は構成員(株主など)に利益を配分しない」N1621
    「(チャーチル)成長はすべての矛盾を覆い隠す」N1685
    「(他人と過去は変えられない。でも、自分と未来は変えられる)私は、「これから日本はどうなるんですか?」と若者に聞かれたときは、「自分と未来は変えられるんだから、自分でつくっていったらどうですか」と答えます」N1720
    「何もしたくない人はしなくていい。なぜなら、「ラクに生きて貧しくなる自由」はあるからだ。その代わり、がんばって金持ちになった人に絶対に文句を言うな。「がんばって豊かになる自由」もあるんだから」N1731
    「一人ひとりが頑張らないと生活がよくならないなんて、当たり前の話でしょう」N1767
    「(パスカル)人間は自分の理解できないものは否定したがる」N1938
    「島国はなかなか変われない代わりに、変わるときには腹をくくってガラリと変わるんですよ。サッチャーが「イギリス病」を吹き飛ばしたようにね。明治維新も戦後の民主化も、世界に冠たるショック療法でしょ?日本はまたそうなるんじゃないかと、直感的に感じています」N2325
    「ライブドアを粉飾と断じてホリエモンを塀の向こうに入れるのであれば、東芝も同じように法に基づいて裁かなきゃダメでしょう。粉飾決算の規模だって、ケタ違いにでかいんだから。世の中はフェアじゃない、チャレンジしても正当に評価されないという不信感は、もうすでに生まれてしまっていますよ」N2545
    「(思考停止フォーマット)まず「とにかく反対すること」。慎重に物事を進めれば「進みが遅い」、スピーディに進めると「拙速だ」と攻撃すればいいんです。簡単でしょう? もうひとつが「永遠の真理を使うこと」。これも簡単で、「もっと国民の声を聞くべきだ」「生活者の立場に立たなければならない」といった、正しすぎて反論しようがない言葉で批判すればいいんです。「永遠の真理」を使った時点でまったく建設的な議論にはならないけれど、ただ反対するだけなら十分なんです。「ラベリングすること」「反対すること」「永遠の真理を使うこと」。長年批判されているうちに、「思考停止フォーマット」のグルーピングまで編み出せた」N2644
    「日本人は新しいことを始めるとき、必ず「問題が起こらないようにするためにはどうするか」と議論します。「安心」を得るためですね。でも、どんなにがんばって防いでも、問題は起きる。だから「問題が起きたときにどう解決するか」が本来話し合うテーマです」N2654
    「(自分の見たいものしか見えない)「目先の快適さに縛られる既得権益者」と「選挙に行かない若い世代」、そして「次の世代にツケを回そうとする高齢者」はみんな似ているんですよね」N2733

  • 診断編はわかりやすかった。

    税金は、一人でできないことをみんなで実行するためにに必要なもの。年金は生きるリスクに備える保険だと考えるとやはり、寿命が伸びたら、働けるうちは働かなくては、国の成長はないんだろうなぁ。

    格差は、受け入れなくてはならないが、貧困という絶対的に困っている状態をなくすことが必要なのに、日本は「貧困」を明確に把握できていないし、その言葉も忌み嫌ってる⁈

    政治は、政治家の票田獲得のため特定の利権に走り、ルールを作る官僚に権威があり、終身雇用の仕組みがあるため、良い政策が出てこない。

    メディアは、反権力という権力になってしまっている。メディアが知識を提供し、その知識を組み立てて知恵にする方法を教育が教える事が必要。

    教育は、お金がかかるのに日本は割安。完成されたものを分解するのでなく、つくりながら学ぶ結論までのプロセスを指導できる人が必要。社会人になっても学び続けることが必要。

    処方箋は、分配のためにも経済成長が不可欠。経済成長に介入せず、減税し、起業を高めるために、赤字企業を退出させる勇気が必要。
    経済成長の設計と分配の機能は別である。経済成長の設計に小さい政府を貫くことが、政治家の補助金=権力である限り、日本はできない。起業する会社も少ない分、倒産する会社も極めて少ない。

    ヒエラルキー型だと数が少なく、クレーマーの可能性もあり評価の質が低いが、ネットワーク型になれば、取引の数が評価の数となり質も高く、数も増える。変革のためには特区を活用する。

    割引率が高いとは、将来の価値を今より大きく割り引いて小さく見積もる=今が大事。
    割引率が低いとは、将来の価値を今より割り引かず、大きく見積もる=今と同じく将来も大事。
    リスクが高いことにチャレンジする時、意識的に将来の割引率を低く設定するには、知ること、理解することができるか?
    サラリーマンになって能力開発を行い、自らジョブチェンジしてもお金を稼げる人になる。
    高齢者の医療費を減らすには、医療費を上げて、予防に使う。
    老害にならないように尊敬される人になるには、「傾聴する力」「何歳になってもリスクを取って挑戦できる人」になる。
    新陳代謝の高い市場とする。

    そのために思考停止に陥らない思考のクセ

    期待値の下方修正をしない。自分以上に自分に期待できる人間はいない。
    ラベリングの罠にハマらない。人の評価のレッテルに左右されない。

    問題をゼロにしようとしない。問題が起こらないようにするためにはどうするか、ではなく、問題が起きたときにどう解決するか。
    判例法の国のように事前規制より事後チェックの方が生産的である。

    問題の構造をメタ認知する。
    当たり前を捨てて、どうあるべきかをゼロから組み立てるのも、大事な考え方。

    アジェンダを明確にする作業を怠らないこと。
    前提条件をすり合わせること。
    どの時点で結論が分岐したか、確認する。



    しかし、処方箋は難しいなぁと思いつつ、

  • ・『日本は「かつて豊かな国だった」になる』
    20世紀初頭、アルゼンチンはフランスやドイツよりも裕福な国でありヨーロッパ中の農家が出稼ぎの船に乗ってたどり着く、夢と希望の国であった。
    50年前、スウェーデンは離婚が多く、性に関するモラルが低い国と認識されていた。
    40年前、イギリスは高い社会福祉費の為に財政は逼迫され、経済は停滞し、社会は荒れていた。ヨーロッパの癌のような存在であった。

    ・『税金とは?』
    一人でやれないこと
    みんなでやったほうがいいこと
    みんなでやらないとできないこと
    これらを実行するためにある。

    ・『メディアに必要なのは中立ではなく、特定の利害から独立すること』
    いまの日本のメディアは「反権力という権力」。
    ジャーナリズムとは権力から距離を置くこと、そして同時に大衆から距離を置くこと。

    ・『教育』
    絶対的な答えのない問いを教えられるよう、結論だけではなく結論までのプロセスを指導できる教員を増やすことが必要。
    アクティブラーニングの必要性。

    ・『高齢化社会』
    60代と90代を高齢者とひとくくりにした制度には改善の余地がある。
    高齢者が増えるほど、社会全体の格差は拡大する。日本の格差拡大のかなりの部分は、じつは高齢化によってもたらされている。

    ・『老害にならないために』
    傾聴する力がある人。
    何歳になってもリスクを取って挑戦できる人。

    ・『変化を起こす人の思考法』
    最初から問題をゼロにしようとせず、問題が起きたときにどうするかを考える。
    常に制度の前提を疑い、時代の変化に適応した制度をゼロベースで考える。

    ・『日本につけるクスリ』
    社会全体に対して当事者意識を持ち、痛みも含めてみなと共有し、ともに未来を作り出していける市民や国民をできるだけ多く生み出していくこと。

  • 読んでよかった。
    日本の政治や経済に課題感を持ちつつ、構造が複雑で理解できない、何かしたいけど何からやればいいかわからない、って人に読んでほしい。

  • 日々の忙しさという定の良い言い訳をして、社会問題に見て見ぬを振りをしていたことに気づかさられる。他人事のようで、他人事ではない問題は多い。情報に溢れているけれども、能動的に取りに行かなくては、質の良い情報を得られない事を痛感する。大きなことは出来ないくても、まず知ることから始めようと思わせてくれる一冊。

  • 対談内容がテーマ毎に区切られていて非常に分かりやすく、面白かった。
    こうした議題が国会議員の選挙テーマになればいいのに。

  • 賢い人が喋っているのを読むのは楽しい。
    「経済成長は大切」とか、自分と正反対の考えでも「なぜ必要か」を示してくれていたからある程度納得できた。私も記者を目指す者として問題意識を持っておかなければならないと思って、最近メディア批判に意識的に触れるようにしている。記者になってからも、いま頭に入れたこと絶対忘れずにいる!

  • 社会問題の現場に密着した安部さんがシステム、システムと強調するのが逆説的で面白かった。社会問題のない世の中はない、という前提は大事。最初に税制を据えてきた構成も全うな感じ。宿泊税を定率にしろ、というのはすぐに実現できそうだなぁ。

  • 竹中平蔵さんと「社会の無関心を打破する」を掲げているリディラバの代表安部さんが対談形式で日本の社会課題について語り合っている本書。

    竹中さんはご存知の通り、経済学者でありながら郵政民営化を進めて達成した方で、個人的になんとなく好意をもっていなかったのだが(何故だろう?)本書を読んで見方が変わった。完全なる偏見だった。反省。

    安部さんも竹中さんもお互いの自論はありつつも(当然のことながら)建設的な議論を交わしているので大変わかりやすく読むことができたし、章の最後にはちゃんとまとめも書かれているので理解しやすかった。お2人が目の前で話しているかのごとく本書を読むことができるのも魅力の1つかもしれない。

    いわゆる若者代表の安部さんと、人生の先輩代表竹中さん。年齢が離れた2人が同じテーマに沿って議論するのは、実社会ではなかなか難しいことなのかもしれないと思いつつ、おもしろく拝読させてもらいました。本書が発売してから1年少ししかたっていないが、また是非議論して欲しい。

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著者プロフィール

1951年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部教授、慶應義塾大学グローバルセキュリティ研究所所長。経済学博士。一橋大学経済学部卒。日本開発銀行、大蔵省財政金融研究所主任研究官、ハーバード大学客員准教授等を経て、現職。2001年小泉内閣で経済財政政策担当大臣、2002年に金融担当大臣、2004年には郵政民営化担当大臣を兼務。2005年総務大臣。この間、2004年には参議院議員。2006年小泉内閣の解散とともに辞職。著書に『研究開発と設備投資の経済学』(1984年、サントリー学芸賞受賞)、『対外不均衡のマクロ分析』(1987年:共著、エコノミスト賞受賞)、『日米摩擦の経済学』(1991年)、『民富論』(1995年)、『経済ってそういうことだったのか会議』(2000年:共著)、『構造改革の真実――竹中平蔵大臣日誌』(2006年)、『闘う経済学――未来をつくる[公共政策論]入門』(2008年)、『改革の哲学と戦略――構造改革のマネジメント』(2008年:共著)など。

「2013年 『パターン・ランゲージ 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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