江戸川乱歩傑作集 (1) 孤島の鬼

著者 :
  • リブレ出版
4.10
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本棚登録 : 217
感想 : 24
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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784799726280

作品紹介・あらすじ

乱歩が遺した最高傑作にして唯一の同性愛小説!

感想・レビュー・書評

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  • 某古本屋を探索中にこちらを発見。ファンの中では1番の傑作との呼び声も高い本作、自称乱歩ファンの私なんと未読でした。(ファンの名を返上しよう…)
    こりゃあかん!表紙も格好良いし買うぞ!と手に取った私、帯の裏に気付く。「乱歩が遺した最高傑作にして唯一の同性愛小説!」とそれはもうピンクの字で強調されている。
    そう言われるとそうにしか見えない装丁(でも本当に格好良くて面陳にして飾ってます)勇気を振り絞りレジへ。
    「頼む!裏返さないでくれ!あっ!だめっ、あかん!!いやぁぁあああ!!」
    店員さんは気にしていないだろうに、ノミの心臓なのでそそくさと退店したのですが、本作はホラーミステリーの様相を呈した純愛物語でした。
    今回は2つのテーマに分けて感想を書いてみます。
    かなり長くなりますので、気が向いた方はお付き合い下さい。

    【ミステリー】
    主人公の蓑浦の独白で物語は進むのですが、冒頭からぐいっと引き込まれる世界観の作り方が流石は乱歩さん!30代にして頭髪が全て白くなってしまった程の恐ろしい体験が今から語られるというのに、こちらも期待を胸に恐怖に備えます。
    蓑浦の婚約者が密室殺人で殺された後、探偵役の深山木までもが群衆の中で殺害。この後に探偵役を引き継ぐのが、同性である蓑浦に10年以上も片思いをしているThe一途な男、諸戸。
    非常に頭が切れるので割と早くにこの2件の不可能犯罪については解決します。この犯人も驚きでしたが、凄いのはここから。
    2人の死に共通する点を探っていく内に、いよいよおどろおどろしい乱歩ワールドへ突入。
    「孤島の鬼」とは一体何なのかが明らかになった時は恐ろし過ぎて私も白髪になる所でした。
    今では禁止用語になる「かたわ」等の用語がバンバン出て来ますし、なんならこの物語自体が発禁スレスレなのでは…と思うと、2015年に再販して下さった出版社には感謝です。
    話が逸れましたが、ミステリーとして話の構成が素晴らしく、エピソードの一つ一つに全く無駄がありません。点と点が線になるとは正にこの事。諸戸が蓑浦を愛する理由と、それ故の行動にも全て意味があり改めて乱歩さんの凄さを見せつけられました。

    【恋愛(悲恋)】
    乱歩さんの文章があまりにも美しいが故に、生々しいシーンは無いのに諸戸が蓑浦の手を握るだけでエロス満載になってしまいます。
    2件の殺人について蓑浦の肩を抱きながら囁くように推理を話す諸戸。前代未聞、どんな探偵役やねん?!蓑浦曰く「いつもの愛撫の表情がうせて」いつもどんな顔してんねん?!と、突っ込みが止まりませんがうっかり危ない道に走りそうになりました。(諸戸が良い男すぎるのが原因です)
    しかし蓑浦はノーマルなので運命の女性と言い切る初代を愛していますし、初代が死んだ後も彼女の灰を喰らう奇行に走る程の熱愛ぶり。
    しかし諸戸は一貫して変わらぬ熱愛運動(作中で何度も求婚する事を求婚運動と書いてたのが妙にツボってます)に励むのに、もう頼むから諸戸のモノになってくれ!と切に願っていた私を尻目に、なんと蓑浦はとある驚きの女性を愛してしまいます。
    これには何故?!と度肝を抜かれましたが、これにもしっかりとした理由がありやはり乱歩さんには叶わないのでした。

    しかし私は蓑浦に物申したいのです。
    君、諸戸を拒絶してる癖に、彼の気持ちを知っていて甘えたり思わせぶりな態度をしてみたり…酷いじゃないか!改めたまえ!!!
    という私の叫びも虚しく、諸戸の悲恋は最も悲しい形で終わりを迎えるのでした…。
    蓑浦の為に新しい恋人の体を手術して治してあげる諸戸。我が身も危ないのに蓑浦を勇気付けて守ろうとする諸戸…。
    最後の一文があまりに切なく、私が美青年なら諸戸を幸せにしてあげられたのになあ…と訳分からぬ事まで考えてしまう始末。(レーエンデ国物語の時とは真逆の意見)

    という程に、ミステリーにも悲恋物語にもどっぷりと浸れる名作でした。
    最高傑作と仰る方の気持ちも頷けますね。
    安易にはオススメできませんが、耽美ホラーな世界がお好きな方はハマると思います。

    しかし、悲しい…。諸戸…涙。

    • ゆーき本さん
      お!み○み○さんのレビューですね!笑
      お!み○み○さんのレビューですね!笑
      2023/10/13
    • yukimisakeさん
      それは1番いやだぁぁ!!!笑
      穴の奥でずっと1Qさんの名前を呼び続けて東京を守りますね(それが1番怖い笑)
      それは1番いやだぁぁ!!!笑
      穴の奥でずっと1Qさんの名前を呼び続けて東京を守りますね(それが1番怖い笑)
      2023/10/13
    • yukimisakeさん
      ゆーき本さん、その絵文字…笑笑
      両思いみたいになってる笑

      多分そうです!好きな金田一シリーズをレビューされていたので♪
      ゆーき本さん、その絵文字…笑笑
      両思いみたいになってる笑

      多分そうです!好きな金田一シリーズをレビューされていたので♪
      2023/10/13
  • ミステリーでもありサスペンスでもあり、終盤は冒険小説のようでもあり、大変面白かった。

    退廃的な雰囲気あり、グロあり、不具者の表現ありで現代ではもう醸し出せない乱歩ワールドにどっぷり浸かりました。そしてBL乱歩と銘打って出されてるだけあって、その乱歩ワールドに加えての道雄と箕浦の関係性に悶えました。
    箕浦、君は天性のタラシなのか…小悪魔通り越して大魔王的な言動だったよ…

    序盤は密室殺人、衆人環視下での殺人、そして暗号と詰め込まれていて、その謎解きも楽しい。
    伏線も綺麗に回収して、すっきり終わるのだけど。
    だけど、だけども。
    最後切なすぎる。
    幸せな自分と秀ちゃんの傍に道雄を呼ぼうだなんで、最後まで箕浦が鬼すぎて泣ける。

  • 読むべきときに読めた。
    諸戸は切ないな。
    今ではあらゆる題材が尽くされ、真新しさは失われているはずなのに、ぞくりと心臓の裏に触れられているかのような恐怖。
    使い古された言葉を使おう。
    江戸川乱歩、凄い。

  • 江戸川乱歩だけあって不気味な場面の描写が非常に巧み。エグい。様々なところに伏線が張られていてそれが1つ1つ解消されていく、これは小説の醍醐味とも言える。そして最期の何と切ないことか。同性愛者はあの時代、今よりもっと辛く苦しい目にあっていたに違いない。幸せになってもらいたかったけれど、あれが事実なのだろうな。不気味だけれど切ない、これは現代でも読み継がれてゆく小説に相応しい作品だと思う。

  • すごく面白かった。
    江戸川乱歩作品、きちんと読んだのは初めてだったけれど、序盤からしっかり惹き込まれて、最後までずっとハラハラゾクゾクさせられた。
    面白かったし、読みやすかった。
    現実離れした内容でありながら、実際に起こりうるかもと納得させるだけの説得力があって、どうしてこんなことが思いついて文章にできるのか、本当に天才だと思った。

    主人公の蓑浦、おそらく綺麗な美青年で周りの人がつい惹かれて近づきたくなってしまう。
    本人もそれをうっすらと自覚していながら、自分に心地よい状況をそのままにしていて、子どものような無邪気さと好奇心、甘えが見える。
    実際にいたら本当に愛らしくて魅力的だろうなと思う。
    悪いやつでは決してないけど、本当に無邪気に人を惹きつけて狂わせることができる素質を感じる。

    諸戸は恵まれた才を持ちながら、こんな蓑浦にずっと好意を抱いて、いわゆるキープみたいな扱いもされ、決して実らず、生い立ちも相まって本当に不遇だ…。
    最初と最後に出てくる文言に、最後ぐっと心を掴まれた。諸戸……。

    とても面白くて読んでよかった。他の江戸川乱歩作品も読みたい。

  • 初めての江戸川乱歩。初めての江戸川乱歩がBLだった…けどなんか諸戸が可愛そうじゃねーかよぉおおぉ!そして蓑浦、お前はもちろん悪く無い。けど結果なんかなんだかなぁ…。ふんわり殴ってやろうか(╹◡╹)
    シチュエーションがもろにミステリー感あって楽しめました。

  • 別出版社のものを読んでいますが表紙絵に惹かれてしまいました。出版社はリブレ。BL専門の出版社が乱歩をねぇ。もちろん中身が変わっているわけもなく、間に挿絵も入っていません。でも字の大きさなのかとても読みやすくてちょっとページをめくっていたつもりが一冊丸々最後まで読んでしまいました。底本は桃源社の「江戸川乱歩全集」(一時期小説の検閲により削除された部分も元の形に戻っています)だそうで難読漢字など少し編集が入っているようです。BLとして読むのはどうかとは思いますが乱歩にこんな形で入るのもありかもしれません。

  • おどろおどろしい話だ。現代では、こんな表現はできないのかもしれないが、これが乱歩の世界かもしれない。

  • 『江戸川乱歩』凄く久しぶりに読みました。
    ドロっとした空気を纏うような陰鬱な事件の背景がなんともいえない。
    主人公に想いを寄せていた諸戸が、ずっと押さえこんできた欲望を命の危機に瀕してやっとむき出しにした瞬間の心情を思うと切ないですね…
    少し読むのに時間がかかってしまいましたが最後の方はどっぷり乱歩の世界に引き込まれました。

  • 今回この作品に付けられたテーマがテーマなので、そういう目線で読んだら道雄に救いが無さ過ぎて辛くなった。最後の一節は美しいまでに哀しく、やるせない気持ちになる。物語全体としては、ここまで酷いディストピアをよく思い付いて雰囲気たっぷりに書き上げたなという感じ。土蔵からの手記が綴られている部分が特に印象的。

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著者プロフィール

1894(明治27)—1965(昭和40)。三重県名張町出身。本名は平井太郎。
大正から昭和にかけて活躍。主に推理小説を得意とし、日本の探偵小説界に多大な影響を与えた。
あの有名な怪人二十面相や明智小五郎も乱歩が生みだしたキャラクターである。
主な小説に『陰獣』『押絵と旅する男』、評論に『幻影城』などがある。

「2023年 『江戸川乱歩 大活字本シリーズ 全巻セット』 で使われていた紹介文から引用しています。」

江戸川乱歩の作品

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