修身教授録入門

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  • Amazon.co.jp ・本 (184ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784800912824

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  • すなわち真面目ということの真の意味は、自分の「真の面目」を発揮するということなんです。
    (引用)修身教授録入門、著者:森信三、発行所:致知出版社、2023年、138

    いま、自分は、国民教育の師父と称された森信三先生に注目している。なぜ、注目しているのかといえば、度々、森先生のことが月刊「致知」に掲載され、その教育から哲学に至るまで、私自身、納得させられることが多かったからだ。

    森先生は、大正12年に京都帝国大学(現:京都大学)文学部哲学科に入学し、西田幾太郎氏に教えを受けている。その森氏は、大阪天王寺師範(現:大阪教育大学)専攻科で倫理・哲学を教えていたとき、「修身」という科目を受け持つことになった。その授業では、検定教科書を一切使わず、森先生が自ら選んだテーマで行われたという。以前から、森先生による授業の口述、そして生徒に筆録させられた「修身教授録」が書籍として既刊されているが、このたび、致知出版社から「修身教授録」の入門編なるものが出版された。どうしても敷居が高いと思われがちな森信三先生の入門編として、私も森先生による「修身教授録入門」を拝読させていただくことにした。

    「修身教授録入門」は、森信三先生が実際に教室に入られてくるところから描写されており、昭和10年代に大阪天王寺師範で、森先生から実際に授業を受けているかのような錯覚に陥る。まず、録音・録画の技術が発達していない時代に、よくここまで森先生の授業の内容が記録されていたものだと感心させられた。それだけ、森先生による「修身」という授業がいかに生徒に貴重なものであったのかを改めて感じさせられた。

    この書籍では、森先生の授業が15講、収められている。第3講では、「読書」がテーマだ。読書を「心の食物」と言われる森先生は、師範学校の生徒に「一日読まざれば一日衰える」と言われる。最近、仕事の忙しさにかまけて、読書の時間が減少している私にとっては、耳の痛い言葉であった。この読書についての講義では、「真の確信なくしては、現実の処断を明確に断行することができない。真に明確な断案というのは、道理に通達することによって初めて得られる」と森先生は、言われる。そのため、森先生は、「偉大な実践家は、大なる読書家である」ということを生徒に訴えかける。

    私は、この「現実の処断を明確に断行」するという一文に釘付けになった。私たちは、実社会において、「現実の処断を明確に断行する」場面に多く遭遇する。その際の「処断」するための判断基準は何であろうか。それは、今まで培ってきた私たちの知識によるところが大きい。そこに経験などが積み重なり、知恵となる。この知恵があれば、処断を明確に断行できる。「現実の処断を明確に断行」するために、私たちは、もっと読書をしなければならない。50歳を過ぎた私にも、肝に命じなければならないことだと感じた。

    私は、本書の中で、第10講の「最善観」が一番感銘を受けた。最善観を唱えた哲学者ライプニッツによれば、神はその考え得るあらゆる世界のうちで、最上のプランによって作られたのがこの世界とのことであった。そのため、この世では、いろいろとトラブルなども発生するが、これも神の全知の眼から見れば、それぞれ人生に訪れるトラブルなどにも意味があるということになるという。そして、森先生は、この大宇宙をその内容とするその根本的な統一力であり、宇宙に内在している根本的な生命力であるが神であると説く。そして、私は、自分に与えられた全運命を感謝して受け取り、不幸な出来事があっても恨んだり人を咎めたりせず、楽天知命、すなわち天命を信ずるが故に、天命を楽しむという境涯に達しなければならないということが理解できた。

    このように森先生の「修身」の授業は、若者に勉強の大切さを伝えるに留まらず、壮大な宇宙観に至るまで講義が及ぶ。それは、人がなぜこの世で人身を与えられたのか。その人身を与えられたことに感謝し、人生に起こる様々な出来事に意味があると理解し、この世における天命を楽しむ。これからは、我が人生に何が訪れようとも、動じない。そう、思うだけで、私は、これからの人生を強く歩んでいく決意が生まれた。

    冒頭、「真面目」について触れた。これは、本書の第12講に登場している。森先生によれば、「常に自己の力のありったけを出して、もうひと伸(の)しと努力を積み上げていく。その努力において、真面目とは、常に「120点主義」に立つということである。そして、その態度を確立したならば、人生の面目はすっかり変わってくる」と言われる。「真面目」という言葉の真髄に触れ、私は、なんて奥深く、力強い言葉なんだろうと感じた。「人生に二度なし」、「それぞれ人生の使命を果たせ」。そのためには、力の全充実によって、真面目に生きることが求められるのだと、改めて思い知らされた。

    この終身教授録は、当時の若者に行った授業の内容であるが、老若男女問わず、自分の人生をいかに生きるべきかを教えていただくものであった。

    この本を開くたび、森先生は、今を生きる私たちに「修身」の授業をしてくださる。この授業の内容は、実際に森先生が授業されてから90年経とうとしているが、現代においても全く色褪せることのない、そして尊いものであった。

    Society5.0に突入したと言われる現代であるが、いくらテクノロジーが進化しても、人間として変わることのない。そして、人間として求められる数々の教えが「修身教授録」に記されていた。

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