作戦指揮とAI(わかりやすい防衛テクノロジー)

著者 :
  • イカロス出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (152ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784802213042

感想・レビュー・書評

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  • 指揮統制について今興味があるので、入門書として読んでみた。ただ、私個人が興味があったのはどちらかというと用兵分野における指揮統制である一方、本書は軍事技術的な指揮統制(管制)であり、若干のズレがあったものの、技術は技術で大変参考になった。

    本書でも指摘があったが、軍事分野の専門用語は略語のアルファベットが多く、覚えるのが大変で、正直よくわからなかったが、本書はド初心者向けにだいぶわかりやすく書いてあり、知ったかぶりで終わらず、非常に参考になった。ただ、最初から中盤まではだいぶ丁寧に解説してるように感じたが、最後はだいぶ詰め込んでる印象。

    指揮統制について、今後も知識を深めていきたい。

    以下、備考
    ・【p.15】軍組織の根幹は「指揮統制」にあり、その中枢となる頭脳が「指揮所」、神経系が「通信」(C3)
    ・【p.16】「指揮」は指揮官が配下の部隊を動かすこと、「統制」はしくみに沿って秩序を保つこと。「指揮管制」は、指揮する対象が武器になる。例えば、脅威の飛来を把握して交戦の順番を決めたり、ミサイルを誘導するために誘導用のレーダー照射をするのは指揮管制の一例
    ・【p.18】彼我の状況を迅速かつ正確に知り、それに基づいて正しい意思決定を行い、迅速に配下の部隊に対して命令を下達して作戦行動を発起、最終的に戦闘行動や戦争そのものに勝つ。それを支える基盤がC4ISR
    ・【p.19】FIR: 飛行情報区の線のこと。民間航空運用のための国際的な担当区分を示す。
    ・【p.22】早期警戒機は、捜索レーダーを航空機に乗せて高空を飛行させることで、地上に設置するよりも広い範囲をカバーできるようにしたもの。
    ・警戒監視はレーダーだけでは成立せず、敵味方識別装置(IFF)を使用。IFFは、レーダーで探知した目標に対して電波で誰何して、正しい応答が返ってくるかどうかで敵味方の区別をつける装置
    ・これは、レーダーに併設したインテロゲーターが電波を使って誰何すると、当該航空機が備えるトランスポンダーが応答するというもの。
    ・【p.23】そのため、対空捜索レーダーは、民間機なら飛行データ管理システム(FDP)、軍用機なら自軍の指揮管制システムと連節せねばならない。
    ・指揮管制システムは、艦艇の場合はCMS(Combat Management System)、陸上ではBMS(Battle Management System)が一般的で、彼我の位置や状況を把握・表示して、指揮官の戦闘指揮を支援
    ・【p.24】防空任務を達成するための要素。C2: 適切な判断・意思決定・指令を行う、通信: 情報や指令の伝達手段、コンピュータ: 彼我の状況を提示したり、情報や指令を伝達する手段、ISR: 敵襲を知る手段
    ・【p.25】分解能: レーダー用語で、探知目標までの距離について正確さを示す「距離分解能」と方位について正確さを示す「方位分解能」がある。
    ・【p.28】SAGEシステムは、米空軍が1950年代に開発・配備した、近代的な防空指揮管制システムの始祖。レーダーサイトからの探知情報を得て、脅威の飛来について知るとともに、迎撃するために戦闘機や地対空ミサイル部隊に指令を飛ばす。戦闘機が接敵するので誘導も担当する。
    ・【p.29】データリンク: 各種の武器や戦闘システム同士が相互に情報を交換する目的で使用する無線データ通信のこと
    ・BADGE(Base Air Defense Ground Environment)システム: 日本語で「自動警戒管制組織」。航空自衛隊が初めて導入した防空指揮管制システムで、基本的な考えはSAGEシステムと同じ。ただ、実は米海軍のNTDSが開発ベース。1968年に運用開始した初代BADGEと1989年に運用開始した新BADGEがある。初代は、レーダー探知と、それに基づく状況の提示・判断・迎撃戦闘機の差し向け、という現場レベルの機能を自動化したものだったが、新は、指揮統制分野を強化して、航空幕僚監部や航空総隊といった上部組織から現場の戦闘機部隊を指揮する機能、あるいはレーダーサイトや指揮所などを結ぶ通信網の管制機能を強化
    ・2009年からは、BADGEの後継となるJADGE(Japan Aero-space Defense Ground Environment)システムに移行。防空だけでなく、ミサイル防衛に関わる機能も取り込んだ。
    ・幕僚監部: 軍政、つまり人員募集・教育訓練・補職(人事)や、予算の計画作成・執行などといった組織の管理運営を司る。また、軍令、つまり組織を実際に動かして任務を遂行する作戦指揮も受け持つ。
    ・【p.30】AWACS: 日本語で「空中警戒管制機」。早期警戒機に情報処理用のコンピュータや多数の管制員を加えて、空飛ぶレーダーサイトと空飛ぶ指揮所を兼ねた機体。お皿のようなところは、ロートドームという。
    ・【p.32】NTDS(Naval Tactical Data System): 米海軍が開発した指揮管制システム。陸上では通信手段として電線が使えるが、艦艇の場合は有線で通信できないため、無線データ通信、所謂データリンクが導入。艦艇同士をデータリンクでつなぐことで、艦艇すべてが同一の状況図を見れるように。1990年代になると、これを改良・発展させたACDS(Advanced Combat Direction System)が登場。イージスシステムの開発にも話が繋がる。
    ・【p.33】極超短波(UHF)は近距離用電波。他方、短波(HF)は、遠距離用。VHFは超短波
    ・【p.34】空母や揚陸艦は、SSDS(Ship Self Defense System)を装備。2010年代には対艦ミサイルの交戦可能範囲を水平線以遠まで拡大するNIFC-CA(Naval Integrated Fire Control-Counter Air、ニフカ)を開発
    ・【p.35】J-STARS: レーダーを用いて、地上の車両の動静を把握するシステム。または、そのシステムを載せたE-8C戦場監視機の名称
    ・AGS計画: J-STARSと同種のシステムを、NATO諸国が共同で調達・運用くる目的で立ち上げた計画。こちらは、レーダーを無人機(RQ-4Dフェニックス)に載せており、探知データを全て地上に送る点が異なる。
    ・合成開口レーダー: SAR(Synthetic Aperture Rader) : レーダー・アンテナを移動させながら、その移動を利用することで実際のサイズ以上に大きなアンテナと同じ状態を擬似的に作り出して、高解像度のレーダー映像を得る手段
    ・【p.37】野戦防空は基本的に自己完結型(高射砲が自前のレーダーを備える)だったが、最近はネットワーク化して広域をカバーできるように
    ・【p.38】AN/MPQ-64: センティネル(レーダー)
    ・MIM-104: ペトリオットのレーダー
    ・IBCS: 防空・ミサイル防衛用に米陸軍向けに開発した指揮管制システム。指揮所を分散化するとともに、レーダーをはじめとする探知手段、地対空ミサイルなどの交戦手段を同じネットワークに接続することで、配置を分散しながらも連携して動作する防空網を構築可能。脅威の評価や武器の割り当てが可能
    ・IFCN: IBCSを構成する、指揮所、レーダーなどのセンサー、地対空ミサイルなどの武器を相互に接続するためのネットワーク・システム
    ・【p.40】指揮所: 指揮官と、指揮官を補佐する幕僚などが陣取って、戦闘あるいは作戦の指揮を執る場所のこと
    ・早期警戒管制機(AEW&C): 機上に管制官を載せて航空戦を指揮する早期警戒機。明確な閾値があるわけではない。
    ・【p.45】作戦指揮所(CAOC)
    ・【p.47】旗艦とは、司令部がのった艦
    ・【p.50】ウェルドック: 揚陸艦が備える陸上げ設備のひとつ
    ・【p.52】CIC:(Combat Information Center)戦闘情報センター。軍艦内に設置される戦闘指揮所。
    ・FIC:Flag Information Center 複数の艦による「隊」全体を指揮するための旗艦用司令部作戦室
    ・【p.53】衛星通信は遠距離用で、周波数帯の違いにより、UHF、Xバンド、Kaバンド、Kuバンド、Cバンド、Lバンド等があり、複数を併用する艦も多い。
    ・【p.59】艦載型の戦闘管制システム「サーブ9VLシリーズ」
    ・【p.60】脅威評価や武器割当をコンピュータに受け持たせるようになったのが、イージス戦闘システム、このうち対空戦闘を受け持つのはイージス武器システム
    ・【p.61】潜水艦の指揮所は発令所
    ・【p.62】指揮通信車: 指揮所の機能を車両の中に組み込んだもの。ex.米陸軍のM577指揮車(M113がベース)、AAVC7水陸両用装甲車
    ・【p.64】指揮所を開く時は、通信機は手元に置くとしてもアンテナは離れた場所に設置する必要あり
    ・湾岸戦争でも紙の地図を使用。最近は、システマティック社の「シータウェア」が有用
    ・BFT(Blue Force Tracking): 味方部隊の所在を追跡するシステム
    ・ROVER(Remotely Operated Video Enhanced Receiver) :
    ・【p.70】艦艇の指揮管制装置はCMS(Combat Management System)、陸戦用の指揮統制システムはBMS(Battle Management System)と呼ばれ、陸戦の場合は「武器をどう動かすか」よりも「部隊をどう動かすか」の機能が主体になる点に起因している可能性
    ・武器の射撃を制御するシステムFCS(Fire Control System)は、海では「射撃指揮システム」、陸では「射撃統制システム」、空では「火器管制システム」と訳す。
    ・【p.71】イージス武器システムには、指揮決定システム(C&D)があり、これが機能の中枢
    ・【p.72】昔は紙の地図とトレーシング・ペーパーとグリース・ペンシルで指揮運用していたが、それをコンピュータ上でやるとBMS。なお、下達した命令に基づいてどう交戦するかは、個々の部隊の裁量
    ・関係者全員で共有する状況図のことをCOP(Common Operating Picture)「共通作戦状況図」と呼ぶ。彼我の戦力・所在、地形・気象・海相等の情報を扱う。準リアルタイム
    ・さらに狭域で詳細なものはCTP(Common Tactical Picture)「共通戦術状況図」。ほぼリアルタイム
    ・【p.75】スター型ネットワークだと、「とりまとめ役」に情報を集約して整合した状況図を作成可能。ただし、ここがやられると状況図を生成する機能が崩壊
    ・メッシュ型ネットワークなら、個々の当事者がそれぞれ独自に状況図を生成可能。PNT(Position, Navigation and Timing)。測位・航法・測時。GPSなら一括してできるが、妨害・欺瞞への抗堪性も
    ・【p.78〜】状況図ができたら、探知目標ごとの脅威度を評価し、優先順位づけをする。その後、武器割当
    ・SPY-1レーダーは、イージス武器システムの眼となる対空用の多機能レーダー。脅威の捜索・捕捉・追尾だけでなく、その脅威に向けて発射したSM-2ミサイルも追尾するとともに、最適な迎撃コースに関する指令を送る機能も
    ・SPG-62イルミネータ: SM-2ミサイルが目標に命中する直前の段階で、誘導用の電波を目標に向けて照射する装置
    ・【p.82】高価値ユニット(HVU: High Value Unit)
    ・空母打撃群(CSG: Carrier Strike Group)なら空母、遠征打撃群(ESG: Expeditionary Strike Group)なら揚陸艦がHVU
    ・【p.87】弾道ミサイル防衛: ①DSP(Defense Support Program)、あるいはその後継のSBIRS(Space-Based Infrared System)(どちらも赤外線センサー搭載)といった早期警戒衛星による発射の探知。②Xバンド・レーダーによる追尾。③ミサイルがミットコースに入ったあたりから、迎撃アセットのレーダー(イージス艦のSPY-1)による追尾が可能に。④終末段階ではTHAADのTPY-2やペトリのMPQ-65(アンテナが1面構造なので、脅威の方向に向ける必要あり)のレーダーも追尾可能
    ・【p.88】米軍のミサイル防衛には、C2BMC(Command, Control, Battle Management and Communication)システムあり
    ・【p.109】COMPASS(Collection and Monitoring via Planning for Active Situational Scenarios): DARPAが取り組んでいる紛争に関わる情報の解析を迅速に行うことを目的とした研究プログラム
    ・DCGS(Distributed Common Ground System): 米軍で使用されている情報システムで、情報収集・監視・偵察に関わる計画立案や、得られたデータの取り込み・処理・配信といった機能を提供する。これの改良バージョンがCD2(Capability Drop2)
    ・GATR(Global Automated Target Recognition): AIを用いた衛星画像解析システム
    ・【p.110】可視光線映像と赤外線映像
    ・【p.111】電子戦は、敵の電磁波システムを妨害するEA(Electronic Attack)、電子防御のEP(Electronic Protection)、そして妨害のために必要な情報を収集するES(Electronic Support)がある。
    ・【p.114】MUM-T(マムティー): 有人機と無人機のチーム化。例えばロイヤル・ウィングマン
    ・【p.118】とはいえ、AIにSEADやCAPをやらせるのはまだ荷が重い
    ・【p.121】英軍の研究開発部門DSTLは艦載指揮管制装置にAIを援用するインテリジェント・シップ計画あり
    ・【p.122】空域管理へのAIの適応に関しては、DARPAによるASTARTE計画あり。味方同士の作戦遂行の邪魔となるデコンフリクションを防止する目的
    ・【p.134】マルチドメインの情報の統合に加え、指揮統制の統合を目指した米軍の戦闘構想をJADC2(ジャッドシーツー)と呼ぶ
    ・エアランド・バトルは、1980年代に出た概念。陸空が連携して最前線とその後方を同時並行的に叩く考え
    ・【p.139】指揮統制機能の分散化事例: ノースロップ・グラマン社が米軍向けに開発した指揮管制システムIBCS(Integrated Battle Command System)。IBCSは元々、統合防空・ミサイル防空(IAMD)用の指揮管制システムだった。IBCSの指揮所はEOC(Engagement Operation Center)という。IBCSのネットワークIFCNは、複数のEOCを組み込める。これにより、単一の共通作戦状況図(COP)を作成可能
    ・【p.143】ネットワーク中心の戦いvsプラットフォーム中心の戦い

  • 指揮の概念から平易に書き始めて、指揮システム、及びそこにおけるAIの活用等、軍隊における作戦指揮・運用に関する基本的な内容が理解できるようになっている。

    値段に対する本の薄さが若干気になるところだが、簡易な読み物としてちょうどよい内容だと思われる。

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著者プロフィール

1999年春にマイクロソフト株式会社(当時)を退職して独立。当初はIT分野で、現在は航空・軍事・鉄道といった分野で著述活動を展開中。
『丸』『航空ファン』『JWings』『JShips』『新幹線EX』『軍事研究』『世界の艦船』などに寄稿しており、特にメカニズム解説や、センサー・指揮管制・情報通信などのシステム分野を得意とする。
著書に、本シリーズの『図解入門 最新 ミサイルがよ~くわかる本』のほか、『戦うコンピュータ(V)3』『現代ミリタリー・ロジスティクス入門』『現代ミリタリー・インテリジェンス入門』(いずれも潮書房光人社)などがある。
鉄道関連では『配線略図で広がる鉄の世界』(秀和システム)で、2010年3月に第35回交通図書賞一般部門・奨励賞を受賞。

「2019年 『図解入門 最新 空母がよ~くわかる本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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