- Amazon.co.jp ・本 (466ページ)
- / ISBN・EAN: 9784814000609
作品紹介・あらすじ
平沼騏一郎は大正・昭和戦前期にかけて法相・首相・重臣などを歴任した官僚系政治家でありながら、国家主義運動の指導者でもあったという点で、日本近代史の中できわめてユニークな位置を占めている。その政治的生涯の全容を初めて実証的に明らかにし、官僚系の政治家の国家主義とそれらが太平洋戦争への道に与えた政治的影響を解明する。
感想・レビュー・書評
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本書は、大正・昭和戦前期にかけて法相・首相・重臣などを歴任し、政界に影響力を持った平沼騏一郎の政治的生涯を通じて、官僚系政治家の国家主義とそれらが太平洋戦争への道に与えた政治的影響を明らかにするものである。これまでの研究では十分に用いられてこなかった「倉富勇三郎日記」などの史料を駆使した実証的な近代史研究となっている。意外にも、平沼騏一郎の全生涯を論じた初めての著作であるとのことである。
本書では、平沼は従来指摘されていたような漠然とした「観念右翼」、あるいは「国体」に忠実な思想的人物というよりも、国家主義を掲げて権力を握り、現実の政治指導ではきわめて保守的な思想に基づき行動した官僚系の政治家であったと指摘する。その上で、平沼の政権獲得運動が本人の意図を超え陸海軍や国家主義団体の政治的影響力の増大を助長してしまうとともに、平沼が首相・重臣として展開した政治指導は、日中戦争から敗戦までの外交上の危機の連鎖を止めるには至らず、時に混乱を招くものであったということを論じている。そして、平沼が司法官僚として一定の成功を収めたものの、政治家として十分な成果を挙げられなかったことは、官僚出身の政治家の政治指導の課題やナショナリズムを掲げた政治の問題を考える上で、示唆に富んでいると指摘している。
平沼が、司法官僚時代に山県系や政党と距離を置き、ある程度中立的な官僚イメージ形成に成功していたことや、国体重視や反共産主義の点では一貫していたものの、日中戦争拡大や日米開戦には慎重な姿勢であったというようなことは、本書で初めて知り、ちょっと意外な感も持った。
しかし、平沼はどこまでも司法官僚であり、セクショナリズムから脱却し、諸政治勢力と協調し、総合的な政策調整能力を持つ「政治家」には成りきれなかったことが、戦前の日本をより悪い方向に導く一因になったのだと感じた。
本論とは関係ないが、戦前期の日本では、検察と裁判所が司法省の管轄の下、一体的に運用されていたということを本書で初めて知り、勉強になった。詳細をみるコメント0件をすべて表示