- Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
- / ISBN・EAN: 9784815807634
作品紹介・あらすじ
日本型の排外主義運動はいかにして発生し、なぜ在日コリアンを標的とするのか?「不満」や「不安」による説明を超えて、謎の多い実態に社会学からのアプローチで迫る。著者による在特会への直接調査と海外での膨大な極右・移民研究の蓄積をふまえ、知られざる全貌を鋭く捉えた画期的成果。
感想・レビュー・書評
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社会
政治 -
316.81||Hi
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ネットと排外主義で、安田のヘイトスピーチの理論的根拠をあたるために調べた。個人のインタビューではなくてより広く調べているが調査データはない。
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【目次】
目次 [i-v]
プロローグ 001
序章 日本型排外主義をめぐる問い 009
1 排外主義運動の勃興 009
2 誰が排外主義運動に馳せ参じるのか 013
3 なぜ排外主義運動に馳せ参じるのか 019
4 在日コリアンと「在日特権」をめぐる問い 024
5 「正常な病理」から「病理的な正常」へ――事態の解明に向けて 027
第一章 誰がなぜ極右を支持するのか――支持者像と支持の論理 029
1 西欧における極右研究の蓄積 029
2 なぜ極右は発生するのか――先行研究の整理 030
3 誰がなぜ極右を支持するのか――経験的研究による検証 037
4 極右政党研究の「ノーマル化」とその先へ 046
第二章 不満・不安で排外主義運動を説明できるのか 049
1 社会運動研究における不満・不安の位置づけ 049
2 大衆社会論と排外主義運動 051
3 競合論と排外主義運動 056
4 代替的な説明図式 061
5 排外主義運動のリアルな把握に向けて 067
第三章 活動家の政治的社会化とイデオロギー形成 069
1 活動家の多様性とミクロ動員過程 069
2 イデオロギーと政治的社会化――緩やかな説明変数と被説明変数 071
3 政治的社会化の過程 073
4 排外主義を受容する土壌 094
第四章 排外主義運動への誘引――なぜ「在日特権」フレームに共鳴するのか 097
1 構築される不満――問題の所在 097
2 運動と個人のフレーム調整 099
3 活動家の語りにみるフレーム調整過程 102
4 「在日特権」 フレームの共鳴板 113
5 排外主義運動との運命の出会い 115
第五章 インターネットと資源動員――なぜ在特会は動員に成功したのか 117
1 インターネットと排外主義運動 117
2 インターネットと動員構造の変容 119
3 排外主義運動へのミクロ動員過程 126
4 資源動員をめぐる後発効果 138
第六章 排外主義運動と政治――右派論壇の変容と排外主義運動との連続性をめぐって 141
1 ミクロ動員から政治的機会構造へ 141
2 言説の機会構造――分析視点143
3 言説の機会構造と排外主義運動の関連 150
4 ネットカルチャーと排外主義運動 158
5 右派論壇の鬼子としての排外主義運動 161
第七章 国を滅ぼす参政権?――外国人参政権問題の安全保障化 163
1 外国人参政権問題をめぐる日本的特殊性――問題の所在 163
2 デニズンの権利と安全保障化をめぐる日本的特質 165
3 外国人参政権問題の日本的展開 171
4 外国人参政権をめぐる脱安全保障化 180
第八章 東アジア地政学と日本型排外主義――なぜ在日コリアンが標的となるのか 183
1 東アジア地政学と在日コリアン――問題の所在 183
2 分析枠組み――民族化国家としての戦後日本 184
3 二者関係によって何が進むのか――在日コリアンの変遷と地方市民権 194
4 本質主義と外国人排斥の正当化 200
5 日本型排外主義を生み出すもの 204
エピローグ 207
補遺 調査とデータについて 213
一 活動家に対する聞き取りデータ
二 外国人参政権にかんする聞き取り調査
三 沖縄・八重山地区調査
四 右派論壇誌データ
五 在特会等による抗議イベントデータ
注 [221-252]
あとがき(二〇一三年一二月 樋口直人) [253-256]
参考文献 [6-42]
事項索引 [1-5] -
排外主義運動の発生を社会的不満・不安のみによって説明しようとする従来の研究に一石を投じ、在特会を始めとする日本の排外主義運動を、日本の置かれた東アジアの地政学上の状況の文脈に位置付けて説明する。現代社会のあらゆる問題の原因にかんする問いに、「後期近代社会で人びとが直面する不安」から生じている、という大きすぎる回答を与えている社会学者が多いように思うが、そういった曖昧な回答に終わっていないところが気に入った。
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樋口直人『日本型排外主義 在特会・外国人参政権・東アジア地政学』名古屋大学出版会、読了。果たしてフラストレーションやルサンチマンといった社会不安だけが日本の排外主義の動機となっているのか。本書は先行研究を踏まえ、著者自身の聞き取り調査も加えながら、その経緯を明らかにする。
馬鹿と言っても聞く耳は持たないし誤りの指摘はスルー。排外主義運動は「通常の病理」として扱われてきたが、そうではなく「病理的な通常」として著者は扱う。その歴史的経緯こそ、帝国と植民地が対照する歴史的に生成された東アジアの地政学の鬼子なのだ。
「国家は国民だけのものであり、外国に出自を持つ(とされる)集団は国民国家の脅威であるとするイデオロギー」が排外主義だが、日本では、現実には外国に出自を持つ集団すべてが脅威と見なされない。ここに日本型排外主義の特色を見出すことができよう。
ミナレット禁止のスイスやブルカ大げさに取り上げるフランスの事例などが欧米型排外主義の特質をなす。対して日本で顕著なのは、外国人参政権や東アジア諸国関連のイシューに対する非合理な反応。こうした反応は「東アジアの地政的構造」を背景とする。
「日本型排外主義とは近隣諸国との関係により規定される外国人排斥の動きを指し、植民地清算と冷戦に立脚するものである。直接の標的になるのは在日外国人だが、排斥感情の根底にあるのは外国人に対するネガティブなステレオタイプよりも、むしろ、近隣諸国との歴史的関係となる」。
「排外主義運動は、単なるレイシズムとしての在日コリアン排斥ではない。『主流の歴史にたいして不協和音を奏でるような物語」(グラック※)を体現する存在たる在日コリアンを、汚辱の歴史と共に抹殺したいという欲望が根底にある」。※→グラック(梅崎透訳)『歴史で考える』岩波書店。
今世紀に入ってからの保守政治の変容は、現実の排外主義運動を促す結果となっている。しかしそれに至る経緯は、はるか以前から築かれ同時に在日コリアン政策に反映されてきた。本書の分析に、その 根深さに暗澹とするが、本書は「今読むべき本」である。