法服の王国 小説裁判官(下)

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  • 産経新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (433ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784819112161

感想・レビュー・書評

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  • デビュー作「トップ・レフト」等、金融関係の著作が多い著者による初の司法小説。
    出版されてから暫くたっていますが、この度読んでみました。

    ストーリーは事実を基にしており、戦後の日本の司法の歴史を知る事が出来ます。
    類書に今は絶版となっている「最高裁物語」がありますが、この本と本書の違いは、前者が明治時代から始まる近代日本の司法の歴史を取り上げ、特に石田和外元最高裁長官に始まる裁判所内のリベラル派の冷遇、強引な法解釈に基づく行政勝訴の連発等を主なテーマにしているのに対し、本書は原発運転停止を求める原発訴訟の歴史についても取り上げており、その始まりが1960年代からとなっております。
    また、内容の方も小説にふさわしく、裁判所の主流派に属する男性と己が信じる道を歩み、その結果冷遇されてきた男性の二人を主軸にストーリーが展開していく物となっています。

    結構読み応えがありますので、日本の司法について関心をお持ちの方は一読されて見るのも良いのではないでしょうか。

  • 冷たい司法官僚の権化のように思われた弓削が併せ持つ複雑怪奇さがこの小説の人物造形に深みを与えています。

    長年どさ周りを強いられた勤勉な裁判官たちが,それなりに報われていく様子は,読んでいてほっとするものを覚えました。
    長官就任の逆転劇はこの物語の中で私は一番印象に残りました。

    物語の最後は東日本大震災が描かれ,読者へ問題を投げかけて,締めくくられます。

    裁判の尋問の様子,裁判官の仕事ぶり,生活などリアルで大変読み応えがありました。

    司法の世界というのは,国民の生活に決して無関係ではありません。
    この国にとってあるべき司法制度というのはどのようなものなのかを考える契機として,法曹関係者のみならず,より多くの人に手に取って読んでいただきたい小説だと思います。

  • ○作家黒木亮氏の著作。
    ○”裁判官”をテーマに、裁判所内の人事や政治との関係、思想信条による取扱いや個別裁判への影響など、裁判官を巡る実態を事細かに描いた作品。
    ○長沼ナイキ訴訟など、実際の裁判例も多く登場し、勉強にもなる。
    ○上巻で懸念した“凡庸な感じ”については、最後までつきまとってしまったが、人物描写もそれなりに深まり、全体として面白かった。
    ○フィクションであるが、大部分がノンフィクションであり、取材がしっかりとなされているなと感じた。

  • 数十年にわたり裁判所内外の歴史をたどる小説。登場する裁判官など、それぞれ人物像にモデルがいるらしい。数人しかわからなかった。登場人物の各裁判官の栄枯盛衰というか、筋を追いやすく描かれていて、長いスパンの話でも、飽きなかった。
    行政法で習って覚えた数々の判決の法理(原発訴訟関係、水害訴訟関係など)の裏側的な話など。ぜんぶ本当かはわからないけど、たしかに、受験前には覚えるので精一杯だったけど、納得のいくストーリーというか。
    司法行政の話は、これまでに聞き知った話と重なる。有名な不祥事は、実名。
    仕組も、文献だけではでてこない、雰囲気や、モデルとされた裁判官の人物像も、よくしらべて書いてある。
    (上下巻通じての感想)

  •  年を越してしまいました。最後まで盛り上がらない。

  • 現実とフィクションがない交ぜになっていて、時折、何が事実か戸惑うこともあったが、それもまた、リアリティを高めており、読み応えがあった。好著。

  • 236ページ
     自分自身が号棒で差別を受けているというふうに感じたときに、
      ◆号棒→号俸

  • 終わるのが惜しいくらい面白かった。こういうの好きなんですよねー。

  • 作中で引用されている城山三郎の「辛酸」の一節。

    「国家の悪を攻撃するのは結構(中略)。けど、たとえ最初にまちがいがあったとしても、いったん滑り出した機構というものは、行くところまで行くんだ。きみら百姓は融通がきかぬ。だが、それ以上に、国家は融通がきかぬ。動き出したら、その動きを真実と思わせるまで動き続けてしまう。」

    この本の題材の一つとなっている原子力に関しても、そのとおりなんだと思う。本来耳を傾けておくべきところまで、雑音として排除してしまったのであろう。

    あまりに巨大な技術の集合体であるため、関係者には、原子力の危険性も安全性も十分には理解できないまま、組織を守るという方向性で対応し始めてしまうという慣性が働いているのだと思う。

    しかし。
    一方で、その危険性について警鐘を鳴らす側も、本来はその危険性の回避方法を提案すべきで、ただ危険だ、やめろと言い立てるばかりはどうにもならないということに気が付くべきであると思う。

    原発訴訟に詳しくないので、本作を読んでの感想であるが、相当原子力発電に関して勉強して訴訟を起こしているようだが、結論が「だから危ないやめてしまえ」では、危険を遠ざけることにはならないのではないだろうか。折角の勉強が、結果して自己満足の範囲に留まっていることに気が付くべき。

    福島の到来を許したのは、推進してきた側だけでなく、反対してきた側の責任でもあるのではないだろうか。


    戦後の法曹界を牛耳ってきた作中の人物は「人間はね、棺を蓋わなければ、どうなるか分からない。」といっている。

    また、作中の家裁の裁判官は「(前略)家裁の仕事をしておりますが、この社会の序列では、ほぼ最底辺に位置づけられる仕事であると見られているように思われます。仕事にはやり甲斐を感じていますので、初志のとおりそんなことは気にせず、意欲をもって職務に邁進すればいいはずなのに、劣等感を抱いて悶々としている自分自身に嫌悪感を覚えたこともありました。」といっている。

    最も優先すべき価値と猿山のボス争いの結果はそんなに直接リンクしないのだろうが、猿山のボス争いの結果は、それに本質的な価値があろうがなかろうが、とても気になるものであり、QOLに影響を与える要素なのだろう。気にすることがばかばかしいと思ってはいても。

  • おもしろかった。裁判官事情についてなるほどなぁというところが非常に多い。月並みだけど,私も頑張ろう頑張らねばと思う。
    しかし,黒沢葉子は要るのか,いたのか。「もうちょっと女の扱いなんとかならんの?」という感想に全く同意。終盤,結局は男の小説じゃんと感じてしまうところがあって,読後感が急速に減殺。

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著者プロフィール

黒木 亮:1957年、北海道生まれ。カイロ・アメリカン大学大学院修士(中東研究科)。都市銀行、証券会社、総合商社を経て2000年、大型シンジケートローンを巡る攻防を描いた『トップ・レフト』でデビュー。著書に『巨大投資銀行』『エネルギー』『鉄のあけぼの』『法服の王国』『冬の喝采』『貸し込み』『カラ売り屋』など。英国在住。

「2021年 『カラ売り屋vs仮想通貨』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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