虚妄の成果主義

著者 :
  • 日経BP
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  • Amazon.co.jp ・本 (244ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784822243722

作品紹介・あらすじ

気鋭の東大教授(経営組織論)による初の本格的な批判。揺れる企業トップ、悩める人事、落ち込む一般社員におくる、「成果主義」の愚かしくも、無惨な正体。

感想・レビュー・書評

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  • 人事システムとしての「成果主義」を批判し、日本型「年功制」をより優れたシステムだと主張する本。キャリア論を読んでいると、引き合いに出されることが多いため読んでみた。
    内容は成果主義を斬るというよりは、人事管理論や人間関係論を経てのワーク・モチベーション理論の紹介から日本年功制の分析にウエイトが置かれている。著者の主張を補強する形で、先行研究や論文を引用しておりロジックの展開に納得性が高い。

    日本型年功制はその人の仕事に対して、金銭的報酬で報いるのではなく、次の仕事と将来の出世で報いろうとする。それは本質的には能力主義的であり、一般に理解されているほど日本型年功制は平等で画一的なものではないのかもしれない。
    しかしそこには必然的にタイムラグが存在し、ボラリティの高いかつ個人のキャリアが多様化する現代において、人々がそのラグに耐えられなくなっているのではないか(特に若手のホワイトカラーが)。だからこそ成果主義の再燃というある種の「逃げ道」が生まれる。

    自分のキャリア展開を含めて考えさせられる一冊。良書。

  • 私は、この本を2010年に発行された文庫本で読んだが、オリジナルの単行本は、2004年に発行されている。
    企業で人事を担当されている、ある一定年齢以上の方であれば、その当時の時代背景と、本書の題名に何かを感じるはずである。
    バブルが弾け、長期的な経営不振に陥った日本企業の一部分に、成果主義型人事評価制度や年俸制というものが、流行った時期がある。それが、2000年代前半。本書の筆者、高橋先生は、その日本的成果主義型人事制度に、いち早く異論を唱えられた方で、本書は、日本的成果主義型人事制度への批判の書である。
    その後の歴史を見ると、日本的成果主義型人事制度は、うまくいかないことが明らかとなり、高橋先生のおっしゃる通り、衰退していく。

    私が本書を読んだのは2014年頃のことである。
    私は、もともと人事部門でキャリアを積んできたのであるが、一時期、といっても、割合と長い間、実ビジネスに携わり、2013年に久しぶりに人事部門に戻って来た。離れていた間の世の中の人事制度などの流れを知りたくて、色々なホンを読んだが、本書は、その中の、one of the bestである。この本を足掛かりに、色んなことを勉強することも出来た。

    今回、2020年になって、必要があり再読したが、色あせず面白く読んだ。
    高橋先生に、個人的に感謝したい。

  • 著者が過去講演された内容を整理し単行本にしたもの。

    著者が主張したいことは、日本企業の実態や従業員の意識、現場の感覚から乖離した誤った認識に基づいて、百害あって一利なしの人事制度制度が多くの企業に導入され、機能不全を起こしていること。

    また、歴史も文化もことなるアメリカの成果主義を無責任に導入させてしまう学者たちの安易な研究態度も批判している。

    企業というものはゴーイングコンサーン、持続・継続する経営体でなければならない。

    企業の一番の財産は人材だ。働く人が未来に向かって安心して働ける日本型の働き方こそ、企業の永続性があるのである。

    そんなことが、地道な現場研究資料でもって適切に証明されている著作である。

  • 「成果主義」を賞賛する言動は聞いても逆はあまり聞かないなぁと思って、ブックオフで購入。百円だし。

    この本は「成果主義」を腐すものではなく、「日本型年功制」の素晴らしさを説いた本だ。
    ここでいう「成果主義」とは
    ・)出来るだけ客観的にこれまでの成果を測ろうと務めた考え方
    若しくは
    ・)成果のようなものに連動したものに連動した賃金体系で動機付けを測ろうとするすべての考え方
    である。
    これら「成果主義」の下ではシステムに起因した弊害が発生する。このことは学問的に考えれば必然である、というのがもうひとつのこの本の主張。

    人は金銭的理由だけで働くのではない。本来。面白みややりがいを感じるからこそ成果を成し遂げる。「成果主義」ではすべての業績が給与査定や昇給に収斂されるので、返ってモチベーションが下がる。金銭面で差をつけるには限界があるからだ。

    対して「日本型年功制」は次の仕事の内容で報いるという制度をとっている。より業績の高い者が"やりがい"のある仕事に就き、劣るものは閑職にまわされるという次第だ。著者は長期的なヴィジョンを抱きやすく、短期的な結果に拘らず長期的視野で働ける「日本型年功制」を賞賛している。

    「成果主義」とは業績を上げた人間を重用する制度ではなく、リストラする大義名分を経営者に与える制度である。「人材を育成せず。消耗品として捉えているツケを日本企業は払わされているのかもしれない」と書いてから10年。さらにそのツケは膨らんでいるようだ。

  • 1680円購入2010-10-13

  • これは凄すぎる。
    成果主義というより日本型経営の良さを経営学の基本を土台にまとめているものであると言える。
    これ一冊で十分学べる。

    私の残されたラーフワークの最も重要なテンプレートとして、再度隅々まで精読したい。出版から20年近く経過しているが、十分通用する。むしろ、現在の混沌とした環境の中、日本企業が競争力を維持、復活させるために必須の示唆をお与えてくれると言えるのではないだろうか。

  • タイトルに示された通り、
    「成果主義」という何かよさそうな響きにとらわれずに、
    年功制の良さを再認識せよ!という本。

    成果主義で運用が難しいと言っているが
    そこは年功制だったら解消できる!
    そこも年功制だったら解消できる!
    という論調で進んでいく本。

    トータルとして年功制にこだわりを感じるもので、
    成果主義をやめて年功制にすべし、
    とそのまま受けとるには危険だが、
    成果主義の運用の難しい点、年功制のメリットなどを認識するにはよいと思う。(いしの)

  • 成果主義の是非を問う前に、
    人が働く理由などにも触れており、
    成果すなわち報酬というところの構図について、
    疑問を投げかけているところは
    人事制度改定や経営方針の検討、確認の際に非常に参考になる。

    単に成果を見るだけで、
    賃金などの報酬に影響がありすぎるし、
    そもそも成果もはかるのが難しい。
    その時に動機付けというところがポイントになる。

    ただサブタイトルにある年功制復活に繋がるには、
    積極的に年功制を良しとする論拠がもっとあるとよかった。
    (個人的には時代背景、3Cに代表されるような環境による影響の議論がもっと欲しかった)

    成果主義は運用(評価・報酬だけでなく、育成等も含め)が難しくて形骸化しやすいという構図、
    成果と評価と報酬とのつなげ方は本当に難しいテーマであると改めて感じる。

    制度はハード、運用はソフト。
    変化の激しく安定が描きにくい昨今の状況の中、
    事業継続に向けて「適応」することが企業として求められるだろう。

    適応のためには改善なり変化なりは多かれ少なかれ企業・各人が求められている。
    ベテランの経験・知恵・知識は間違いなく必要だが、
    若手の柔軟性やフットワークなども「成果」に必要な要素だと考えている。

    単に年功がいい、
    単に成果を求めて新陳代謝を活発に、
    などという「方法」だけにとらわれず、
    「事業継続」をはじめとする企業の目指す姿と、
    「よい生活」「やりがい」等の個人の目指す姿をすり合わせることを念頭に置いて
    制度や運用を考えていきたい。

  • 「なぜ成果主義は日本で上手くいかないのか」だからといって、すべて年功序列にすれば解決するとは思えないが、そういうテーマを考えるフックとしてとても良い本

  • 「もはや『それは本当の成果主義ではない』などという言い逃れは通用しない。要するに成果主義はみな駄目なのである。」実に一刀両断である。
    本書は①できるだけ客観的にこれまでの成果をはかろうと勤め、「または」②成果のようなものに連動した賃金体系で動機付けを図ろうとする、あらゆる試みを「成果主義」と定義し真っ向から否定している。痛快。査定の季節が近づくたびに何のためにこんなことをやっているのかと脱力感にさいなまれる理由の一端が整理された感じがする。
    ただし、著者が「仕事に報いるのは次の仕事」というスキーム=日本型年功制で、希望や夢を語る部分については、ミクロでは(あるいは人間存在の根底から見れば)確かにそのとおりと思えるのだが、今の日本社会全体に乗っけていくことができるシステムとしてはイメージしにくいのも現実。ブラックユーモアかもしれないが、少しずつ縮んでいく社会のための合理的な処方箋としての「成果主義」という絵を思い浮かべている。
    文庫版のための増補もあり、内容は充実している。

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著者プロフィール

慶應義塾大学法学部教授、慶應義塾大学東アジア研究所所長。1960年生まれ。
慶應義塾大学大学院法学研究科博士課程修了、博士(法学)。
主要著作:『党と農民—中国農民革命の再検討』(研文出版、2006年)
『現代中国政治研究ハンドブック』(編著、慶應義塾大学出版会、2015年)、ほか。

「2021年 『中国共産党の歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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