- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784822250089
作品紹介・あらすじ
2003年3月14日、ドイツ連邦議会の本会議場でゲアハルト・シュレーダー首相が演説した。
「我々は、(社会保険制度による)国家のサービスを減らさなくてはならない。そして、市民が今よりも自分について責任を持つことを奨励し、1人1人の自己負担を高めなければならない」
この演説がドイツの停滞を打ち破る号砲となった。戦後最大の構造改革プログラム「アゲンダ2010」は、雇用市場と失業保険制度の改革、公的年金制度の改革、公的健康保険制度の改革、賃金協定の柔軟化、減税の5つの柱を掲げた。
社会民主党の支持基盤である労働組合の既得権益を削る大改革は、10年後のメルケル時代に実を結び、ドイツ経済は復活した。ユーロ危機の最中でも、ドイツ経済だけは独り勝ちだった。
だが、シュレーダー政権は改革を実行したがゆえに選挙で大敗し、シュレーダー自身は政界引退に追い込まれた。身を捨てて大改革を実行した「ドイツ中興の祖」シュレーダーの改革のプロセスを丹念に追った。
著者はNHKの記者を辞め、ドイツ・ミュンヘンに20年以上住んでいるジャーナリスト。前著『なぜメルケルは「転向」したのか』では、原発・エネルギーをめぐるにドイツの長い「熟議」を描いた。本書は、ドイツ復活の秘密を解き明かす。
感想・レビュー・書評
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改革をやり遂げ、その挙句、政界を「追放」された男の物語と帯に書いてありましたが、まさに本書の内容は一言で言えばその通りでした。看板に偽りなしです。私は本書を読む前に「アゲンダ2010」という言葉は知ってはいたのですが、具体的な内容は本書を通じてかなり理解でき満足しています。また本書を読んだシュレーダー氏の印象は、著者が後半で述べているように、「やり手の企業CEO」と言ったところでしょうか。私は個人的にGEのジャック・ウェルチを想起しましたが、巨大組織を全く違う方向に変えてしまった、という意味でシュレーダーのリーダーシップはすごい。ただ国を率いるリーダーとしてはやり過ぎではないかという気も確かにする。
本書はアゲンダ2010がもたらした光の部分と影の部分の両方を記述していて、とても好感が持てました。また本書を読むまでシュレーダーが「アゲンダ2010」の実施によって、特に旧東ドイツの人々に極めて評判が悪かったという事実を知りませんでした。
私は2007年のモスクワ出張中、滞在したホテルのロビーで偶然シュレーダー氏を目撃したことがあります。そのときは「ああガスプロム関係のビジネスで来られているのだな」と思っていただけでした。そしてその同じ年に、ドイツの知人が訪日した際に、モスクワでシュレーダーを目撃した話をしたところ、顔色が曇って会話が全然続かなかったのを今でも鮮明に覚えているのですが、その理由が本書でやっとわかりました。彼はドレスデン出身なのです。ふってはいけないトピックだったということでした。
また日本への示唆が最後に記述されていますが、そちらも共感できました。グローバリゼーションを受け入れながら政府は緩衝材としての役割をきっちり果たす、というのはまさに今後の世界観だと思います。ドイツではそれを社会的市場経済と呼んでいるようですが、これはIESE経営大学院のゲマワット教授による、World 3.0というコンセプトに近い印象を受けました。つまりグローバリゼーションの進展と政府の関与(規制)は両方必要であると。また日本は優秀な外国人人材を呼び込まなければならない、そのためには外国人も明確に働ける雇用契約などの策は私自身は納得感がありました。本書おすすめです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ドイツ経済が順調かつ欧州の牽引役となっている所以が分かる本だった。
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改革には痛みを伴うという言葉をよく聞くが、その痛みが均等ではないことはあまり意識したことがなかった。
アゲンダ2010の評価はいまだに定まっていないようだが、ドイツ国民の意識が揺り動かされたことは間違いなさそうだ。
さてこれと同じような改革が日本で行われるかと考えてみると、難しいように思う。ここに切り込んでいく政治家が思い浮かばない。どうしても暗い気持ちになってしまう。
せめて選挙には行こう。 -
手放しでは同意できないところも多いが、ここ10数年のドイツの状況を知るという意味でとても良い本だった。