沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか
- 日経BP (2014年6月18日発売)
- Amazon.co.jp ・本 (540ページ)
- / ISBN・EAN: 9784822250232
作品紹介・あらすじ
アップルCEO、ティム・クックが名指しで批判した話題作!
「Haunted Empire」の日本語版。
元ウォール・ストリート・ジャーナルのエース記者であり、
スティーブ・ジョブズの肝臓移植をスクープした著者が、
約4年、200人以上に取材を重ねて明らかにした真実。
iPhone、iPadなど世界を驚かすイノベーションを次々生みだした偉大な企業、アップル――。
カリスマ創業者、スティーブ・ジョブズは自らとアップルをクレイジーな反逆者と位置づけ、
体制に逆らうイノベーターと見せてきた。
しかし、いつしかアップルは追われる立場となり、横暴な巨人と言われるようにもなる。
アンドロイドとの競合、特許闘争、今は亡き天才・ジョブズの影、
地図アプリへの非難、中国からの反発、生まれないイノベーション、きしむ社内――。
人々を魅了する帝国は苦悩し、輝きを失いつつあるのではないか。
このまま、沈んでいってしまうのか。
日本生まれ、米国育ちのジャーナリストが、米国、英国、中国、台湾、日本などで
約200人に取材した事実からアップルの過去、現在、未来を徹底的に明らかにする。
感想・レビュー・書評
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ジョブズ亡き後2年間のアップルの動向を追うのに最適な一冊。沈みゆく、と題されてはいるものの、殊更に貶めている筆致ではなく、取材や事実関係に基づいた内容なのも良い。
執筆にあたり著者はソニーの落日を少なからず意識したという。イノベーションで世界を席巻した両企業の対比、そういう観点で読んでも面白い。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
アップルというのはスティーブ・ジョブズという希代のイノベーターが経営していたからあれほどの会社になれたのであって、そのジョブズがいなくなれば、普通にすごいという程度まで落ちてしまうという見方もあった。
一方、そのジョブズは「いつまでも続く会社を作ることに情熱を燃やしてきた」と言っているわけで、創業者よりも長生きする会社を作ろうとジョブズが注力してきたのだから、彼がいなくなってもアップルは大丈夫だという意見もあった。
いずれにせよ、ジョブズが亡くなった時点では、どのような予想も「当たるも八卦当たらぬも八卦」の世界でしかなかった。
ジョブズ後のアップルがどうなるのか、データがまったくなかったからだ。
だが、ジョブズが亡くなって2年あまりがたったいまなら、多少なりとも実績をもとにジョブズ後のアップルが予想できるはずだ。
著者の岩谷さんは、世界的な新聞であるウォール・ストリート・ジャーナル紙で敏腕記者として鳴らした人物である。
本書は、その彼女が記者時代に集めた情報に加え、本書のために改めて入念な取材をおこない、集められたたくさんの事実がもとになっている。
アップルの現状はどうなっているのか、未来はどうなるのか、多くの事実が全体的にしめされている。
世界中でアップルは訴訟を起こしているが、その過程を克明に記した記録はほとんどない。
アメリカの知財をめぐる熾烈な戦いの現実と、米国の裁判の制度、それに要する多大なエネルギーを理解し、今後の自社のグローバル戦略を考え行動するためにも役立つ。
また、フォックスコンを中心にした中国でのさまざまなエピソードは、日本の製造業/サプライヤーの方々がこれからのIT系グローバル企業とパートナーとしてつきあっていくために、リスクマネジメントの観点も含めてかなり参考になるだろう。
本書のもうひとつの読みどころとして、アップルのイノベーションやビジネスを実際に支えてきた副官たちの詳細な分析が挙げられる。
日本でも数多く発行されているアップル関係の本の多くは、テクノロジーや製品そのもの、そしてデザインの話が中心だ。
人の分析といえば、スティーブ・ジョブズのことがほとんどである。
スティーブ・ジョブズがあまりに目立ち、そして神格化されてきたので(加えてジョブズは、よく知られているように、人のアイデアを自分の手柄として話すタイプであったこともあり)、優秀な副官について子細に書かれたものはこれまでほとんど存在しなかった。
影でフォックスコンの工場労働者(多くは中国の農業労働者の子息)から血を振り絞って、其のくせ、一切を隠し、ひたすらブランドコントロールを行う。
アップルを裸にした良書でした。
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これまで何冊かアップルを取り上げたノンフィクションを読んでいるが、アイザックソンの『スティーブ・ジョブズ』の次に読むべき本はこの一冊かもしれない。
CEOの健康状態をどこまで発表すべきかのせめぎ合いや、徐々にゴジラ化していくアップルに焦点を当てた前半は、闘病中のジョブズの様子も描かれるが重複は少なく、彼が結婚20周年の記念日に送るものを古い友人であるデザイナーと相談しながら決めていく様は実に感動的。
後半では、アップルもソニーのように偉大な企業から単なるよい企業となってしまうのかという疑問を掘り下げていく。
特別だったジョブズがいなくなってアップルも変わったが、何より社外からの見る目が大きく変わった。
フォックスコンにおける労働条件やサプライヤーに対するアップルの厳しい姿勢、米国に対する何十億ドルもの納税を逃れるための複雑な仕組みなどが次々と明らかになり、「世界をよりよい場所にするのが会社のミッションだ」と言って自分たちを倫理的に一段高いところにいると取り繕うことが難しくなっている。
アップルは、「ほかの業界の破壊者であるとともにみずからの破壊者である」とも言われているが、この姿勢を貫くのは生半可なことではない。
データや分析に頼るのではなく、大胆な発想から製品開発を進めることができるのは、リスクを取り自分の行動が正しいと証明できる創業者だけで、盛田やジョブズの後の、雇われ経営者にはそもそも荷が重い話のような気がする。
そもそもクックはリスクをとって業界自体を変えてしまうような新製品を出す本当に革新的な会社を目指していないのかもしれない。
彼はこれからも確実に利益の出る、すばらしい普通の会社を目指し、彼を選んだジョブズも、後任には自分と同じワイルドカードではなく、きちんとふるいにかけられた人物を選んでいる。
ジョブズとクックのスタイルの違いも面白い。
・ジョブズは休暇中の幹部を呼び戻すことが多かったが、クックは部下の私生活を尊重するため、以前より休みを多く取るようになった。
・ジョブズは興味を持つとなんにでも首を突っ込んできたが、クックは信じて任せるタイプであるため、結果が出るまではジョブズのようにNoと言わない。
・ジョブズは摩擦上等だったが、クックは協力関係とチームワークを大切にする。
・ジョブズは利益をあまり気にしていなかったが、クックのような経営者は利益を重視し過ぎることが多い。
・クックはわずかな金額を値切って利益を出すタイプで、ジョブズはそのお金を使って人々を幸せにするタイプだ。
アップルは、これまで、市場に新たな可能性を拓くこと、新たな消費者の欲求を生み出すことを一番の目標とし、利益は二の次にするのが特徴だったのに。
クックの人事における眼力やコントロールも当てにならない。
企業文化がそもそも大きく異なる家電量販店出身のブロウェットにアップルストアをまかせるべきではなかったし、何よりフォーストールをクビにしたのは一番の間違いだった。
著者は、フォーストールがいなくなり、アイブが製品のデザインとユーザーインターフェイスの両方を統括するようになったが、うまくバランスをとれず、見た目はいいがまともに使えない製品が生まれるおそれがあると指摘する。
「アップルの現幹部が認めようが認めまいが、彼らはいまも天才という罠に捕らわれたままだ。この罠が彼らを縛り、悩ませ、あらゆる決定にまとわりついている。ビジョナリーリーダーが世界的な偶像となり、さらに死によってその影響力が昇華されたいま、残された人々は、創意工夫と意思の力をかき集め、炎をふたたび燃え上がらせることができるのだろうか。それとも、あちこちで言われているように、アップルは単なる企業になりつつあるのだろうか。その場合でも、世界的にも有数の成功を収める企業にはまちがいなくなるはずだが、その卓越した力が世界を変えることに発揮されるのではなく、利益をあげることに発揮される企業、そういう企業になりつつあるのかもしれない」 -
ジョブズ亡き後のAppleを占う書の一つと思う。フォーストール、アイブ、シラーの働きとクックの関係を垣間見ることができる。今後のAppleはどうなるのか、この書だけではまだまだ何も見えないが、恐らく、アイブの動きとと働きが結局鍵を握るのではないかと思う。
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アップルは巨大になってしまっており、全体的な売上や利益にはっきりと貢献し、成功だとみなされるためには、出した新製品が何百万台も売れなければならない―ジョブズなきあとアップルはイノベーションのジレンマに陥るのか
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4年前に書かれた本だが、懸念されてたよりかはまだアップルは沈まずに、うまくやっているように見える。
ただイノベーションが衰えてるのは確かで、表向きのビジネスは成功しつつも、筆者が懸念してるようなコトがジワジワと蝕んでいるようにも感じる。
この本の正確な評価には、まだ数年はかかると思った。 -
Appleとティムクック、ホンハイの状況について知りたい人にオススメ。
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ジャーナリストである著者が自身のウォール・ストリートジャーナル在籍時代の取材などからスティーブ・ジョブズ亡き後のアップルの今後について書いた一冊。
数々の取材からジョブズの病気の情報をいかにして守るか、現CEOのティムクックの素顔、Siriの評価、サムスン・グーグルとの訴訟、サプライヤーであるフォックスコンでの労働者の実情など前線で取材を行う著者であるから書ける情報が多くありました。
そして、数々のイノベーションを起こす製品を世間に発表してきたアップルが今までの製品の改良版の発表にとどまっていることやジョブズならしなかった競合他社の批判などの広告戦略などジョブズ亡き後の迷走も本書で知ることができました。
また、電子書籍や特許を巡る訴訟については詳細に描写が描かれており、非常に臨場感のあるものでした。
クックとジョブズのシナジー効果やクックとジョブズの会議での進行方向の違いやジョナサンアイブの工業用デザインとユーザーインターフェースの両方に並外れた手腕を発揮するのは難しいというところは今後のアップル社の行方において楽しみになりました。
自分たちの生活が一変する利便性の高い革新的なアイテムを使う一方でフォックスコンなどサプライヤーへの要求やそれ応えようとする人たちの労働環境には非常に考えさせられるものがありました。
なぜジョブズがクックを後継者として選んだのか?という部分の指摘もあり、非常にアップル社がジョブズが抜けたあとのアップルの凋落と同じ道を歩まないか今後を考えるうえで非常に参考となる一冊だと感じました。 -
ジョブズ亡き後のアップルのことを書いたルポ本。週刊誌っぽさがあって、あまり好みでは無い。
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ジョブズ死後のアップルに焦点をあてた1冊。目新しい情報があるかと思い読んでみたが、ありきたりの内容でちょっとがっかり。ジョブズ亡き後、革新的な商品がアップルからでないのはアップルが普通の優良企業になりつつあり、イノベーションのジレンマに陥っているからみたいな内容は誰でも感じることで、それに関する裏付け取材は感心するが、今更それを言われても。。。