- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784822817879
作品紹介・あらすじ
教育研究者が教育長になって、〈社会力〉を構想して実践しました。
「0歳から90歳までの社会力育て」「ノーテレビ・ノーゲーム運動」「おんぶ・だっこ運動」など楽しくて面白い教育実践、教育施策への批判、教育制度と教員社会の考察、そして「社会力を育てる緩やかな提案と期待」を書きます。
感想・レビュー・書評
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自分でできることはやってみよう。
今、出合えて良かった一冊。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
教育社会学の学者で,筑波大学名誉教授でもある門脇厚司氏が,なんと茨城県の美浦村の教育長に。大学の研究者が教育長になるというのは珍しいこと。門脇氏が,教育長在職6年間で行った教育施策は,著者がいう「社会力」を育んでいこうというもの。それは児童生徒だけではなく,保護者・村民にも広く働きかけるものだった。
門脇氏は,この間の政府主導型の教育政策に危うさを感じている学者でもあり,それを全面に出して教育長職を全うしているところがすごい。
例えば議会に対しては,次のように述べている。
こうした教育問題に関わる質問に対しては,現状の説明も含め答弁書も自分で作り,教育長として積極的に答弁することにした。単に議会を無難に乗り切るというのではなく,答弁を通して,美浦村の教育の現状や方針を議員たちに理解してもらう,絶好の機会と考えていたからである(本書64ぺ)。
そして,他の教育長や校長たちが,いろいろな会議に於いても,なにも自分の意見を言わす唯々諾々と上からの指示に従っているだけであることに対して,日本の教育界が思った以上に,瀕死の状態にあることも指摘している。教育長はもっと質のよい人間にさせるべきだともいっている。
また,現場の教師に対してもきびしい。今の現場が長時間労働で大変であることについての理解は示しながらも,「教師として学ぶ姿勢」「子どもたちにこれは伝えたいという思い」などが,すこぶる低レベルであることに,失望もしている。さらに,教職員組合にも手厳しい。文科省がいかなる政策を出してこようが,ここでもただ従うだけ。「教え子を再び戦場に送るな」の精神がまったく感じられないと嘆くのである。
ただ,せめてこれだけは…という提案もしてくれている。
現場の教師に対しては「自分の眼の前にいる子どもたちのこれからの人生を見通す眼をしっかりと持ってほしい」という。そうすれば,学力テストの1点2点で一喜一憂する必要もないことに気づくだろう。
文科省に対しては,「たった一つの注文」として「教員たちの自由裁量度をできるだけ大きくしてほしい」ということだ。
教科書と教師用指導書だけを見て授業をこなすだけの教師を作ってきたのは他ならぬ文科省なのだ。なのに,かけ声だけは「教師は創造的であれ」といわれても困る。そんな現状を打破するには,現場の自由度を上げることが大切。
著者は,現在(本書が発行された2017年12月)つくば市教育長のよう。今後とも,どんな実践をされ,どのような成果を出すのか,楽しみな教育長である。
ただ,本書に収録されている文章は,すでに発表済みのものを集めているものもあり,内容が重複しているのが殘念である。もう少し,筆を入れてから出版したほしかった。
ま,このことを考慮しても,すべての教育長・校長・現場教師に読んでもらいたい文章である。