- Amazon.co.jp ・本 (24ページ)
- / ISBN・EAN: 9784827910186
感想・レビュー・書評
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のっけから私事で恐縮ですが。
先日、いただきもののチケットがあり、能楽堂に能の鑑賞に行きました。テレビでは何度か見たことがあり、親子向けの体験教室に行ったこともあったのですが、いわゆる能のきちんとした公演は初めてでした。イヤホンガイドや字幕のようなものがあるかと思ったらそういったものはなく(会場や公演によってはあるのかもしれません)、最初に解説はあったのですが、あとはひたすら能+狂言。
・・・惨敗でした(^^;)。
謡がいい声だなぁと思ったのですが、内容がさっぱりわからない。大きな声では言えませんが、いい声なだけに睡魔が・・・。
歌舞伎や文楽だと舞台装置や身振り手振りである程度わかる部分もあるのですが、能の舞はもっと抽象的といいますか、初心者が見てわかりやすいというものではありません。
ある程度、予備知識がないと猫に小判だなぁと反省しました。
で、帰ってきて少し勉強。
その日の番組構成は、素謡→仕舞3曲→狂言→能楽。
このうち、素謡は舞も囃子(笛や太鼓などの楽器ですね)もなく、謡だけのもの。
仕舞は、曲の中のクライマックスにあたるシーンを、囃子なしで舞と謡で演じるもので、装束や面も用いません。面白い部分だけをやるので初心者向けとのこと。
能楽は、謡、装束・面をつけた舞、囃子とフルセットです。
まずは演目の内容がわからないと困るわけですが、よく知られている演目だと「謡本」というのがあって、逐一、謡の言葉が書いてあります。謡を習う人が練習する際のテキストにもなります。
もう少し初心者向けなのが、こちらのシリーズ「対訳でたのしむ」です。謡の言葉に加え、現代語訳がつき、背景知識の解説もあります。謡本に比べるとバラエティが少ないですが、パンフレットといってもよいほど薄い割に、わかりやすく中身が濃いと思いました。
今回は先日見た公演の仕舞の1つに取られていた演目のものを図書館で借りてみました。
「鉄輪」。夫の浮気に激しく嫉妬する女の話です。
昔からある話で、ある意味、人気の高い話です。夢枕獏の陰陽師シリーズでも題材になっています。
何がすごいといって、女の執念が桁外れです。下京あたりに住んでいるというのですが、糺の森を抜け、深泥ヶ池を経由して、貴船神社に行き、「毎夜」、丑の刻参りをするというのですね。これ、かなりの距離です。下京にこの話にちなんだ「鉄輪の井戸」というのが残っている(下京区鍛冶屋町)そうですが、直線距離でも16km。四里です。しかも最後は山道。片道でも4時間近く掛かると思われます。
そうして女が毎夜祈っていたところ、神官に神のお告げが下ります。大層恐ろしいお告げです。女は鬼になりたいと祈っていたのでした。神はその願いを聞き入れ、神官にその方法を女に教えよ、というのです。タイトルの「鉄輪」に関係してくるのですが、赤い衣を着て、鉄輪(五徳)を頭に被り、その3本の足に火を灯し、荒ぶる心を持てば鬼になれるというものでした。神官は恐れおののきながら女に告げます。女は得たりとばかり立ち去ります。ここまでが前半です。
後半、浮気夫が現れます。ここのところ夢見が悪いのだが、どうしたことだろうかと陰陽師・安倍晴明に尋ねに来るのです。夫は、すでに元の妻とは別れ、新しい女と夫婦になっています。晴明は、別れた前妻がひどく呪っているため、命は今夜限りと告げます。夫は何とかしてくれと泣きつき、晴明は死ぬべき運命を人形に移し替えてやることにします。夜が更け、鬼と化した前妻が現れます。夫はどうなるのでしょうか。
物語の最後で、鬼の前妻は消えていき、何とも言えない余韻が残ります。
妻の姿とともに、その嘆きも激しい恨みも消えてしまうのでしょうか。それとも宙に漂い続けるのでしょうか。
怖い話です。けれど何だか心に残る話です。
内容がわかってみると、奥深くておもしろそうな能の世界です。
今回は惨敗でしたが、次の機会があれば、しっかり演目の予習をして臨みたいと思います。
解説本からだけでなく、生の舞台から何か感じ取れることを目標としたいと思います。詳細をみるコメント0件をすべて表示