対訳でたのしむ海士・海人

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  • Amazon.co.jp ・本 (34ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784827910261

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  • 能初心者ですが、初心者向けシリーズで少しずつ演目について学んでいます。
    こちらは、『通小町』と同日に鑑賞した演目です。

    海士(海人:あま)とは、海に潜って魚や海藻などを取って生計を立てている人を指します。朝ドラ「あまちゃん」の「あま」です。
    舞台は讃岐国(現在の香川県)志度の浦。鄙びた地に、若き大臣、藤原房前(ふさざき)の一行がやってきます。一行と出会った海士は、かつての思い出を語ります。
    そこから、表題や発端の場面からは思いもよらぬような壮大な話が広がります。

    端的には、藤原北家繁栄の由来となります。
    藤原不比等(淡海公)には4人の男子がありましたが、次男・房前は兄弟の中でも最も権勢を振るいます。彼が始祖となる北家は、後世、兼家・道長・頼道らを輩出し、位人臣を極めることになります。
    なぜ房前が権力を持つことができたのか、というのがこのお話のキモです。

    実は房前の母は海士でした。浦にやってきた不比等の寵愛を受け、子を授かったものの、低い身分の出とあって、子の行く末を心配します。龍宮にある宝を取ってくるのと引き替えにわが子を世継ぎとしてくれと不比等に頼みます。不比等はこれを承知します。
    そこで海士は海に飛び込み、龍宮を目指します。宝は多くの守護神に守られていますが、海士は驚くような策を弄してこれを持ち去ります。ところがこれがために命を落としてしまいます。13年前のことでした。
    亡き母の故郷の浦を訪れた房前の前に現れた海士は、実は死んだ母の亡霊だったのです。母は弔う人もなく、冥界に迷っていました。
    房前は母の亡霊が現れたことに感じ入り、法華経を詠み、懇ろに供養します。
    喜んだ亡霊は龍女となり、成仏していきます。

    房前を子供が演じたり、最後は龍の被り物を付けた舞があったり、見どころが多く、人気の高い演目のようです。
    子供を思う母の心情が現れている、と解釈すべきなのでしょうが、我が子の命を守るためならまだしも、身分を安定させるために母が命まで落とすというのは、個人的にはちょっとよくわからないところがあります。私なら多分そこまでしないな、と言いますか(^^;)。
    史実としては、房前の母は実際には海士ではなかったようで、何らかの説話が改変されてこうしたお話になったようです。

    最後に母の亡霊が龍女となりますが、法華経の提婆達多品では8歳の龍女が成仏するという説話があるそうで、そのあたりからきているのかと思います。龍宮が出てくるのもそうした関連なのかもしれません。

    鄙の浜、海の底の龍宮、龍女の舞と、何だかロマンを誘うスケールの大きなお話です。

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著者プロフィール

早稲田大学名誉教授、東京生まれ。
早稲田大学大学院文学研究科博士課程修了。文学博士。
著書に、『観阿弥・世阿弥時代の能楽』(明治書院)、『風姿花伝・三道』(角川学芸出版)他がある。

「2023年 『対訳でたのしむ百万』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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