医療現場は地獄の戦場だった

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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784828422374

作品紹介・あらすじ

医療関係者必読!
日本人医師がニューヨークで体験した医療崩壊の現場リポート

ノンフィクション作家井上理津子さんの甥である大内啓氏はニューヨークで救急医をしている。ハーバード大学の付属病院から地獄の救命医療に投げ込まれ、ほんとに凄まじい戦場のような環境で。コロナでバタバタ死んでいく現場です。彼が体験した医療崩壊の実情とその対策を井上氏が聞く。

感想・レビュー・書評

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  • 著者は親の仕事の都合で12歳からアメリカで育ち、マサチューセッツ州で医師として働く。コロナ対応や気管挿入の意思表示「モルスト」を冷蔵庫に貼るマサチューセッツ州の救急ルール、一人あたりのベット数は日本より少なくてもそもそも重症用ベッドしかカウントしておらず、原則としてすべての患者を断らないアメリカ医療のレベルの高さ。それでも最も心に残ったのは、著者が高校卒業も危なかったほど落ちこぼれで、日本人の友達とばかり群れて英語の授業を理解できない学生だったということ。そこから猛烈に努力し、エリートばかりのメディカルスクールに見事入学し、少数ではあるが苦境の中で努力する学生たちに出会ってさらに努力を重ねていく話だった。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50233647

  • アメリカの病院の緊急科は「あらゆる緊急疾患を診断し、初期治療を施すことを目的」とした緊急体制が敷かれている。日本のように、患者が病院を「たらい回し」にされたりしないという。アメリカの緊急医は、常に同時進行で複数の患者を診る。新型コロナウイルスの感染者は、酸素飽和度が低く、気管挿管をしても、酸素飽和度は上がらないまま死に至る人が多い。急激に悪化することと、酸素飽和度が上がらないこと。この二つが、他の疾患に例を見ないコロナ患者の特徴だ。

    著者は12歳で渡米したが、医師になると決めたのは22歳、医師免許を取得したのは30歳。大学を卒業するまでは決して優等生ではなかった著者が、アメリカで緊急医学科と内科の二重専門医認定レジデンシーを修了できた理由は、医師になると決めてからは、寸暇を惜しんで勉強したから。“「集中する。持続する。時間を使う。耐える」に勝るものはない”という。

    アメリカで医師になりたい人、アメリカのメディカルスクールについて知りたい人、患者とのコミュニケーション力を高めたい人、アメリカの医療格差について知りたい人にもオススメ。

    p13
    去年末から1月半ばまでの3週間、私は高級ツアーの専属医としてアフリカに行っていた。どれほど高級なのかというと、ツアー代が一人12万ドル(約1200万円)である。280人乗りのボーイング757を50人乗りに改造したプライベートジェット機を利用し、宿泊も超高級ホテルばかり、という具合だ。
    アメリカではこういった、とてつもない大金持ちのみが参加するツアーが時折催行され、ハーバード大学の救急医を同行させる。

    回ったのは、ギリシア・アテネを振り出しに、ルワンダ、南アフリカ、ナミビア、ボツワナ、ザンビア、マダガスカル、ケニア。

    p22
    (前略)アメリカのERでは、常に同時進行で複数の患者を診るからだ。平均すると、同時進行4、5人だろうか。10人以上を並行して担当することも珍しくない。9時間のシフトてま、平均すると合計25人くらいだと思う(後略)。
    アメリカには、「ERは、いつ何時も救急車の受け入れにすべて応じる」旨の法律が存在する。かつては日本のように、「今、空きがありません」などと救急車の受け入れを断ることもできたが、その結果、今の日本のようにいわゆる「たらい回し」が起き、救える命も救えないという事態に陥ったからだ。
    それを改善するため、1989年、ブッシュ政権のときに、それまでの制度がいわゆる「ER型救急」に変わった。これは、「あらゆる救急疾患を診断し、初期医療を施すことを目的」とする救急体制のことで、日本では「北米型救急」と言われるそうだ。
    3次救急の重症患者のみを診る日本の「救急救命センター」と異なり、1次から3次まで救急患者を分別せず、かかりつけ医からの紹介患者も、直接、病院に搬送されてきた患者とすべて、24時間体制で受け入れる。超重症患者の処置をしている隣りのERで、ちょっとした傷の縫合など軽症患者の処置をするといったこともしょっちゅうある。私たちアメリカの救急医は、同時進行で幾人もの救急患者を診る訓練を積んでいる。

    p23
    救急隊は、急病人やケガ人を迎えに行った場所から最も近い病院に「今から搬送します」と電話をかける。病院サイドは、いついかなるときも「了解」と返事する。

    p33
    本来なら、その前に、患者に「挿管すること」への了解をとる。挿管は全身麻酔で行い、挿管すると、回復まで意識がなくなる。コロナ以外での挿管は、回復して抜管し、元の状態に戻れて、「よかった」というケースが多い(ただし、アメリカで挿管される65歳以上の健康な高齢者の約3分の1は、挿管後10日以内に死に至るという統計がある)が、コロナの場合は回復せず、意識が戻らないまま死亡に至るケースがあとを絶たない。ニューヨークでコロナ死者のピーク時、挿管後の死亡率は8割以上だったと聞いている。

    p38
    インフルエンザ、気管支喘息、肺結核、自然気胸、肺炎など、酸素を取り入れる必要度の高いコロナ以外のどの疾患の場合よりも、コロナ患者は、酸素マスクや気管挿管をどんなに的確に装着しても酸素飽和度が上がりにくい。それがコロナ患者の特徴だと、やがて分かってきた。

    p63
    誰もが無意識のうちに1時間に20回、顔をさわっているとされるから、外出は常に接触感染の危険と隣り合わせだ。

    p67
    急激に悪化することと、酸素飽和度が上がらないこと。この二つが、他の疾患に例を見ないコロナ患者の特徴だ。

    p129
    このときに分かったのは、勉強というものは、「どれだけ耐えられ、どれだけ時間を使えるか」にかかっているということだ。6時間持続して集中することは、難しい。途中で挫折したり、空腹になって食事をしてしまうのが普通だと思う。しかし、よほど頭のいい人でない限り、1分でも多くの時間を
    費やせることが、勉強の鍵だ。自分がご飯を食べている時間にも、他の人が勉強しているなら、自分はその時間分、負ける。「集中する。持続する。時間を使う。耐える」に勝るものはない。

    p139
    南アフリカは、人口約5800万人のうち黒人が79パーセントを占める。アパルトヘイト(人種隔離政策)が完全撤廃されたのは1994年だが、わずか9.6パーセントの白人が全土の7割以上の土地を持っていて、黒人・白人間の経済格差が依然大きい。

    p156
    私にできる最大の協力は、製薬会社に手紙を書いてマリアの状況を説明し、薬を無償提供してもらうことだけだ。こうした医師からの要請は、製薬会社にとってPRになることもあり、末期疾患患者や無保険者のためにアメリカでは珍しいことではないのである。

    p157
    ニューヨークの医療者の間で、“fresh off the boat patient(外国から移住してきたばかりで、移住先の文化や慣習、言語に不慣れな患者)”という表現が使われる。他国で重い病気にかかった患者が、その国の医療者から「もう私たちの手には負えないので、アメリカに行きなさい」とアドバイスされ、やって来るケースが後を絶たないのだ。

    p165
    日本の奨学金の利子はとても安いと聞くが、アメリカの学費ローンの利子は総じてべらぼうに高い。私が借りたメディカル・スクール4年間の学費は日本円換算で約2600万円だった。すなわち、メディカル・スクール卒業時に約2600万円の借金を背負っていた。しかも、その借金に6.7%もの利子がついてきた。

    p166
    少し説明すると、アメリカの学費ローンは、国が保証する多数の民間会社がしのぎを削って運営している。民間会社がいわば不動産株のような形で出資者を募り、学生に融資する。出資者が配当金を欲するのは当然だ。利子が、出資者にとってのいわば配当金に相当するという仕組みなのである。
    利子が課せられない学費ローンはもあったが、融資額が約1800万円までだったので、メディカル・スクール生には少額すぎて使えなかった。

    p167
    のちに、公的機関か非営利の病院で10年働くと、それ以降の返済が免除されるパブリック・サービス・ローン・フォーギブネス(Public Service Loan Forgiveness)プログラムができた。

    p168
    MOLST=Medical Orders for Life-Sustaining Treatmentの略、「尊厳死の権利を主張して、延命治療の打ち切りを希望する」などの意思表示

  • 2020年12月発行の本書は、主にこの年の前半のアメリカのコロナ医療の現状を描いたものである。なので、ワクチン接種の進んだ2021年8月末現在、地獄を見ているのは日本の医療現場だとは思うがタイトルと煽り文句が凄いので一応図書館で借りて読了。
    冒頭からすごい。
    「研究は一切ストップし、100%臨床に入れ、これまでの倍、働け」
    日本でどれくらいこれに匹敵することが行われているのかはわからないが、医療や病院そのものが日本とは違う仕組みで各パーツの独立性が高いアメリカならではの超トップダウンな印象を持った。日本では、仕組みとしてではなく、各個人の良心と努力によって持ちこたえているのではないかと心配になる。
    とはいえ、コロナ医療の本当の最前線的な記載は3〜4分の1程度の分量で、前半はそれプラス、コロナ禍におけるターミナルケア周りの話だった。ここで面白かったのは、マサチューセッツ州ではモルスト(終末期医療に関する希望書)を冷蔵庫に貼ると定められているという話。確かに救急隊員がパッと確認するにはわかりやすい。
    そして本の後半は著者本人のアメリカでの医学的プロフィールの紹介であった。私はグレイズ・アナトミーのファンなのでなかなか面白く読んだが、タイトル的には完全に詐欺である。
    そしてあとがきで、自分の体験を漫画化してくれるパートナーを募集していた。うーん確かに中身は完全にアメリカ人なのね、と妙に納得しました。
    というわけで、アメリカのコロナ医療事情はやはりリアルタイムにニュースやドキュメントで見た方がわかりやすいので、タイトル部分につられてそういう内容をとっくりと知りたい人にはお勧めできない。アメリカの医療事情とかに興味がある人にはまあまあ面白いと思われます。

  • 498-I
    閲覧

  • ここまでの惨状から、ようやくだけど確実に米国が立て直してきているのは、ひとえにワクチン政策がかなり上手くいっているから。1年前と比べ、疾病に関する知見も深まり、ワクチンという武器も入手した現在において、周回遅れかもしくはそれ以下の日本。戦略によっては取り戻せる部分もあるんじゃないか。そんなことを思いながら読了。

  • マサチューセッツにあるハーバード大学系列の病院に勤める現役日本人医師によるCOVID-19体験記の本。
    日本の報道・ニュース等と比較して違う病気なのでは?と思うくらい、まさに戦場のようだった、2020年3月から10月までのルポで、胸に迫るものがありました。
    医療従事者の方々には頭が下がります。まさにヒポクラテスの誓いという感じでした。

    コロナ禍に対する米国の状況もそうなのですが、南アフリカの医療過疎地における著者の活動だったり、ボストンにも南アフリカと変わらない医療過疎地があったり、という情報は、やはり日本の医療のアクセス性の高さは良いと改めて思いました。
    加えて、著者自身の高校から大学にかけてのダメダメ人生から一念発起して、メディカルスクールに通って合格したストーリーは、著者が頑張ったのもそうだと思いますが、やはり親御さんが偉いんだよなと、読後に妙に強く感心してしまいました。

  • 友人の書。「私の人生で最高の日は、君たち一人一人が生まれた日だよ。とても愛しているよ。本当に、とても」

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著者プロフィール

井上 理津子(いのうえ・りつこ):ノンフィクションライター。1955年奈良県生まれ。タウン誌記者を経てフリーに。主な著書に『さいごの色街 飛田』『葬送の仕事師たち』『親を送る』『葬送のお仕事』『医療現場は地獄の戦場だった!』『師弟百景』など多数。人物ルポや食、性、死など人々の生活に密着したことをテーマにした作品が多い。

「2024年 『絶滅危惧個人商店』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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