「言葉が殺される国」で起きている残酷な真実

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  • ビジネス社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784828423029

作品紹介・あらすじ

なぜ、そしてどのように中国は人々の尊厳を踏みにじってきたのか。この先私たち日本人は中国とどうつき合うべきなのか。2021年7月に建党100周年を迎える中国共産党の圧政を間近で見てきた芥川賞作家の楊逸と現代中国文学者の劉燕子が、中国の社会、政治体制のあり方、文学と権力との緊張関係、あるいは日本、西洋の文学作品、文学者との関連性を徹底分析。さらには、自身や家族、周りの人々が中国でどのような体験をされてきたか、そしてその影響やインパクトはどういったところに及んでいるのかといった、パーソナルな視点、解釈をふんだんに盛り込み、中国のあるべき未来像まで踏み込むこれまでにない中国分析本の登場である。

感想・レビュー・書評

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  • 中国を捨て日本に亡命してきた2人の女性作家が語る中国の言論弾圧、そして文化革命時代の様々な悲劇は想像していたとおりだが、「共産主義の本当の深刻さは本当にわかっているのか?」とチェコの作家クンデラの作品の語りかけを通して、私たちに問いかけられると、誠にそうだろうと思う。魯迅、ヘミングウェイの2人の作家を中国共産党が持ち上げているが2人とも共産主義シンパではなく、共産中国にいれば、厄介な(反抗する)立場にあっただろう、毛沢東自身もそのように感じていたらしい逸話は興味深い。
    しかし、愚民政策については、現在の日本は全く同じと感じた。共産主義国でなく、民主主義的な選挙で生まれた政権であっても、事実を知らされずプーチンを支持する現ロシア国民と同じ道を日本が歩んでいると感じるから。現代中国をパロディ化しているという王小波の小説「黄金時代」は是非読んでみたい。芥川賞作品・楊逸の「時が滲む朝」も。

  • インパクトのあるタイトル。しかし現実にそれが起きていて、人生を狂わされた人々がいる。中国共産党の圧政、歴史。日本で活躍する中国人作家と、文学者がその本質を文学を通して徹底的に分析している。
    とても分かりやすく面白い。

  • 宮崎正弘氏書評

    日本人作家はシルクロード幻想に騙され中国を礼賛したが
    全体主義独裁の本質とは非人間的な悪魔の性格である

    楊逸 v 劉燕子『「言葉が殺される国」で起きている残酷な真実』(ビジネス社)


     楊逸さんは初めて外国人が日本語で書いた小説で芥川賞。劉女史は知る人ぞ知る中国文学研究者。この二人の女流作家が、知られざる中国の悪行の実態を、文学的な視点から斬り込んだ。
     とくに楊女史は近年になって『わが敵・習近平』(飛鳥新社)を上梓され、ながく沈黙してきた中国共産党批判を舌鋒鋭く開始した印象があるが、潜在的な不満は幼少の頃から体験した一家の悲哀、そして下放という深刻で無惨な経験が堆積していたのだ。

     天安門事件前後にも、北京を取材し、いったい何が起きていたかを自身の目で確かめてきた。
     それゆえ、はっきりと断言するのである。
     「たしかに中国は一筋縄ではいかないひどい国ですが、その『悪の本質』は背後にある共産主義です。習近平政権が終わればいいという問題ではありません。だからこそ今、中国共産党の百年をいかに振り返るかが重要なのです」。
     また対談相手の劉燕子女史はこう言う。
     「今、チベットや香港、ウイグルの問題が注目されていますが、にもかかわらず、なぜ日本人は、新彊ウイグルというと、井上靖のシルクロード、NHKのシルクロードだけになってしまうのか。私には不思議、というか残念でなりません」。
     かくして二人は中国独裁政権に招待された日本の作家たち、あるいはカメラマン達が、結果的に中国の明るい印象を振りまく宣伝工作のお先棒を担がされて、利用されたにもかかわらず、反省したのは開高健だけである。
     日本人ばかりではない。文豪ヘミングウェイがみごとに中国に騙されて、中国共産党をたのもしく思い,国民党を批判し、名作『誰がために鐘は鳴る』と書いたとされてきた。こうした事実はままったくなく、中国の捏造であったことが実に詳細に分析されている(184p=202p)。
     しかも文学者の政治利用は外国だけでなく、じつは中国国内でこそ深刻であり、今も利用され続けているのが魯迅である。
     二人の対談は、つぎにノーベル文学賞作家の高行健(受賞時にはフランス国籍)とチェコの作家ミラン・クンデラの文学の本質に関して。
     評者(宮崎)がとりわけ面白く、印象的だったのは中国人初のノーベル文学賞作家、莫言に関しての客観的かつ辛辣な分析で、共産党批判をしない莫が、なぜあのときに本命と言われた村上春樹を押しのけて受賞できたかの背景に迫る。
     大江健三郎は、米国に亡命した鄭義の作品を『グロテスク・リアリズム』と比喩したが、楊逸さんは莫言の作品を「マジック・リアリズム」とし、すれすれの比喩と詳細描写を書き込むことによって、結果的には全体主義批判になっていると分析される。
     楊逸さんは、かく分析される
     「同じ作家でも、背中にのしかかった圧力が全然違う。ひとつの山が背中に載っているか、ひとつの石が背中に載っているかの違いです」(108p)
     ひとつの山の重みと石の軽さは劃然と両者を分けるという意味で、「莫言は,常に政権の顔色をうかがいながら,ぎりぎりのラインを守って書いているわけです。そのぎりぎりのラインはどこにあるのかは,彼しか知らない」。
     この個所、評者は唸った。
     つまり、莫言は日本に来ても知り合いには左翼が多いばかりか、左翼系のメディアしか彼を取り上げないのは、皮相な判断でしか、彼を見ていないからだろう。
     本書は文学を論じながら、文学を視点としての全体主義批判であり、大いに参考となる文明論でもある。

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著者プロフィール

(ヤン・イー、Yang Yi)
作家。1964年、中国ハルビン生まれ。
87年、留学生として来日。95年、お茶の水女子大学卒業。
2007年、『ワンちゃん』(文藝春秋)で文學界新人賞受賞。
翌08年、『時が滲む朝』(文藝春秋)で、
日本語を母語としない作家として初めて芥川賞を受賞。
『金魚生活』『中国歴史人物月旦 孔子さまへの進言』(以上、文藝春秋)、
『すき・やき』(新潮社)、『あなたへの歌』(中央公論新社)、
『わが敵「習近平」』(飛鳥新社)、『中国の暴虐』(共著、WAC)など著書多数。
現在、日本大学芸術学部教授。

「2021年 『「言葉が殺される国」で起きている残酷な真実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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