増補 宗教者ウィトゲンシュタイン (法蔵館文庫)

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  • 法藏館
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  • Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784831826121

作品紹介・あらすじ

ウィトゲンシュタインは「哲学者」か、それとも「宗教者」か?

ひとつの孤独な魂が、強靭な理性と「神との和解」のはざまで悩みぬいた、感動のドラマ。
旧著から30年にわたる著者の研究の深化をへて、新たに発掘された『秘密の日記』『哲学宗教日記』と、「兵士」としての激闘体験とをめぐる考察を縦横にもりこんだ、宗教学からの独創的アプローチ!

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現代は科学主義の時代、合理性追求の時代、何よりも効率を重んじる時代、あらゆるものを数値化する時代である。工学者・技術者としての才能にも恵まれていたウィトゲンシュタインは、『論考』などで徹底的な思索をめぐらし、科学や学問つまり理性や合理性でカバーしうる領域を明確にした。と同時に、科学主義・合理主義・効率主義・数値化主義では割り切れない領域、つまり「語りえない」ものの領域を確保した。彼は「学問・科学の問題に私は興味を覚えるが、本当に心をひかれるということはない」とも語ったのである。エンゲルマンが述べたように、彼が「さほど重要でもないものの境界を定めるのに非常な努力をしているとき、彼が細心すぎるほど精確に調べているのは、あの小島の海岸線ではなく、大海の境界なのである」。ウィトゲンシュタインがいいたかったのは、「科学主義・合理主義・効率主義・数値化主義で割り切れないものこそ、人間にとって本当に大切なものなのだ」、そして、「それはちっぽけなものではなくて、われわれを一呑みにする巨大で深淵なものなのだ」ということである。
ウィトゲンシュタインの「人は、語りえないものについては、沈黙しなければならない」ということばこそを、現代人は深く味わうべきではないか。
(本文より)
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【本書の内容】
はじめに
第一章 ウィトゲンシュタインの生涯
第二章 第一次世界大戦とトルストイとの出会い
第三章 「語りえないもの」としての宗教
第四章 『秘密の日記』にみる『論理哲学論考』の基本的性格の成立
第五章 『哲学宗教日記』にみる「宗教者」ウィトゲンシュタイン
第六章 ユダヤ人意識と同性愛をめぐって
第七章 ウィトゲンシュタインの宗教観
終章 自分が「神に対して」語ることと「神について」他人に語ること
むすび


※本書は一九九〇年三月二五日に法藏館より刊行された『宗教者ウィトゲンシュタイン』の増補版です。

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  • 増補 宗教者ウィトゲンシュタイン (法蔵館文庫)
    増補 宗教者ウィトゲンシュタイン (法蔵館文庫)
    第一章 ウィトゲンシュタインの生涯
    カトリック様式による埋葬
    音楽と自殺
    数学から哲学へ
    ケンブリッジへ
    第一次世界大戦の後
    ふたたび哲学へ、ケンブリッジへ
    ケンブリッジ大学での講義など
    最後の日々

    第二章 第一次世界大戦とトルストイとの出会い
    戦場のウィトゲンシュタイン
    福音書の男
    『草稿一九一四―一九一六』

    第三章 「語りえないもの」としての宗教
    『論理哲学論考』と「語りえないもの」
    論理実証主義とウィトゲンシュタイン

    第四章 『秘密の日記』にみる『論理哲学論考』の基本的性格の成立
    『秘密の日記』が書かれた時期とその内容
    『草稿』にみられる「一九一六年六月一一日」という日付
    ブルシーロフ攻勢
    『論考』の基本的性格の決定
    「語りうるもの」と「語りえないもの」の相補性
    六 ふたたび『論考』六・五二二にかえって
    自らを「示す」神――『論考』の「六・五二二」の解釈

    第五章 『哲学宗教日記』にみる「宗教者」ウィトゲンシュタイン
    「神との和解」
    変転する魂の記録
    人は新しい言語ゲームを学ぶ
    神からの要求と告白
    絶対的なものを目指す努力
    光の輝きとともに
    生の問いは「宗教的な問い」である
    太陽を待つ
    「そのあるがままに」
    「神のみがほめたたえられるべし!」

    第六章 ユダヤ人意識と同性愛をめぐって
    ウィトゲンシュタインのユダヤ人意識
    同性愛

    第七章 ウィトゲンシュタインの宗教観
    「絶対的価値」と「相対的価値」
    「証拠」の拒否と、生活を「統制する」ものとしての宗教
    制度としての宗教の批判
    寛容の精神

    終章 自分が「神に対して」語ることと「神について」他人に語ること
    ウィトゲンシュタインの「矛盾」
    「矛盾」を解く鍵

  • 著者の主張がどの程度まで認められているものかは知らない
    のだが、私にとってはこの本に書かれている宗教者としての
    ウィトゲンシュタイン像は今まで知らずに隠れていた彼の
    「半身」に出会うという大きな気付きとなった。今となって
    は哲学者としてのウィトゲンシュタイン以上に宗教者として
    のウィトゲンシュタインが重要に思えている。トルストイの
    要約福音書も読んでみたい。

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著者プロフィール

大正大学文学部教授。
1956年、愛媛県生まれ。1984年、筑波大学大学院博士課程哲学・思想研究科単位取得退学。博士(文学)。専門は宗教学・宗教哲学。1990年「日本宗教学会賞」受賞。
主な著書に、『悟りの現象学』法藏館 1992、『言語ゲームとしての宗教』勁草書房1997、『対話する宗教――戦争から平和へ』大正大学出版会2006、『宗教と〈他〉なるもの――言語とリアリティをめぐる考察』春秋社 2011、『宗教哲学論考――ウィトゲンシュタイン・脳科学・シュッツ』明石書店2017、『増補 宗教者ウィトゲンシュタイン』法蔵館文庫 2020など。訳書に、A・キートリー『ウィトゲンシュタイン・文法・神』(同文庫、近刊)など。その他、共編著書など多数。

「2021年 『シュッツと宗教現象学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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