女人禁制の人類学――相撲・穢れ・ジェンダー

著者 :
  • 法蔵館
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  • Amazon.co.jp ・本 (372ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784831856500

作品紹介・あらすじ

本書は「女人禁制」に関する問題点を読み解く実践的な試みである。賛成か反対か、伝統か差別かの二者択一を乗り越えて、開かれた対話と議論を促す。文化人類学の立場からの考察を主軸に、民俗学や宗教学、歴史学や国文学の成果も取り込んで、総合的に考察する。女人禁制の問題を考える人にとって長く活用される必読書となるべき1冊。

○第一章 相撲と女人禁制
2018年に大相撲の舞鶴巡業の際に、土俵上で倒れた市長を助けるために女性が土俵に上がって「女人禁制」が問題視された出来事を取り上げる。「土俵の女人禁制」について、その起源と展開を考察する。近代の国技館開設以後、表彰式などの「近代の儀式」を創出した大相撲は、「国技」としての権威を高めてナショナリズムと同調していった。戦後は、前近代以来の「土俵祭」の伝統を維持する一方で、表彰式を男性参加に限定して土俵上で行うという矛盾が露呈して、「土俵の女人禁制」が問題視されることになった。
○第二章 穢れと女人禁制
「女人禁制」を古代・中世・近世・近代の穢れの変化と関連付けて検討。古代では、戒律に基づき、仏教寺院の「結界」として女性を排除した。一方、山と里の間の「山の境界」は、仏教の影響を受けて「山の結界」となり、「女人結界」へと変化。女性の穢れ観も歴史的に変化し、中世後期には『血盆経』の影響で罪業観や血穢の強調ともに展開し、近世には民衆の間に広がって定着。明治5年に女人結界は解禁されてほぼ消滅した。またスリランカやインドの事例など人類学の理論をふまえて、穢れ論の再構築と一般化の可能性を探った。
○第三章 山岳信仰とジェンダー
女人禁制の言説を、歴史の中の女人禁制、習俗としての女人禁制、社会運動の中の女人禁制、差別としての女人禁制に分け、ジェンダーの問題を視野に入れて論じる。地域社会の事例として、現在も女人禁制を維持する大峯山の山上ケ岳山麓の洞川を取り上げた。神仏分離以後の再編成、国立公園の登録、交通路の整備、山麓寺院の女人解禁、禁制地区の縮小、女性による新たな動き、伝統の再発見、禁制解禁の胎動、世界遺産、日本遺産などを関連付けて、女人禁制の行方を展望する。
○「現代の相撲の女人禁制関連の出来事」「近代女人禁制関係年表」などの年表や、詳細な索引を附した。
○著者は、文化人類学の碩学であり、大相撲や大峯山の女人禁制に関して、常にマスコミから識見を求められてきた。『女人禁制』(吉川弘文館、2002年)以降の研究の進展を踏まえ、現時点の思索の到達点として世に問う。

感想・レビュー・書評

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  • 第14回昭和女子大学女性文化研究賞(坂東眞理子基金)『女人禁制の人類学:相撲・穢れ・ジェンダー』 鈴木正崇氏に贈呈 | 昭和女子大学
    https://univ.swu.ac.jp/news/2022/05/11/50448/

    相撲と女人禁制をめぐって問われていること 鈴木正崇氏:中外日報
    https://www.chugainippoh.co.jp/article/ron-kikou/ron/20190322-001.html

    女性が霊山を登れないのは伝統か差別か?「女人禁制」の“正史”と批判派・擁護派の不毛な議論|日刊サイゾー
    https://www.cyzo.com/2021/09/post_292672_entry.html

    「土俵の女人禁制」の矛盾とは? 国技館、表彰式、千秋楽……大相撲の“創られた伝統”|日刊サイゾー
    https://www.cyzo.com/2021/09/post_292698_entry.html

    女人禁制の人類学 鈴木 正崇(著/文) - 法藏館 | 版元ドットコム
    https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784831856500

  • 古代の山岳信仰をベースとして日本古代の触穢思想と外来した仏教(とくに血盆経)が合わさってできたと考えられる女人結界・禁制の歴史・各地の実情を確認し、現代の解禁問題について考える。明治になって各地の結界が解かれた決め手が比叡山の例における外国人女性観光客の為ということが象徴するように、近代の言説及び文化を資源化する経済的要請とそれに対抗するための信仰と習俗から練られた伝統が対決する様を概観できた。代表例として解禁直前まで行っていた大峰山が女性活動家らの性急な実力行使により破談となった件を見るに、これら近代以来の平等・人権という理論と同じぐらい地元の当事者の想いを考慮していくことが肝要であるとわかった。(大相撲の土俵女人禁制は完全に近代の「つくられた伝統」で、政治家の顕示欲と表彰式の形式が要らざる問題を招いている)

  • 【書誌情報】
    鈴木 正崇 著
    出版社: 法藏館
    2,500円+税
    出版年月日:2021/08/25
    9784831856500
    4-6 372ページ

    「女人禁制」「女人結界」の問題についての誤解を解く実践的な試み。暗黙の前提を覆し、賛成か反対か、「伝統」と「差別」の二者択一を乗り越えて、開かれた対話と議論を促すための基礎となる考え方と資料を提示する。
    https://pub.hozokan.co.jp/smp/book/b587716.html

    【目次】
    まえがき


    第一章 相撲と女人禁制
     1 問題提起
     2 大相撲の舞鶴巡業で起きた出来事
     3 主役はマスコミ
     4 土俵の女人禁制の意識化
     5 土俵祭
     6 土俵の祭神の変化
     7 表彰式
     8 神送り
     9 表彰式の再検討
     10 國技館の開館
     11 土俵と土俵祭の起源
     12 大相撲の伝統と近代①―國技館以前
     13 大相撲の伝統と近代②―國技館以後
     14 大相撲とナショナリズム―伝統の再構築
     15 大相撲の伝統とは何か
     16 伝統の行方
     表1-1 現代の相撲の女人禁制関連の出来事
     表1-2 近世・近代の相撲に関する出来事

    第二章 穢れと女人禁制
     1 女人禁制への視点
     2 堂舎の結界
     3 山の境界と開山伝承
     4 山林修行・山林寺院・山岳寺院
     5 「山の境界」をめぐる女性の伝承
     6 境界をめぐる女性性
     7 女性の穢れの時代的変化①―山岳登拝の規制
     8 女性の穢れの時代的変化②―規定の精緻化
     9 女性の穢れの時代的変化③―仏教の影響
     10 女性の穢れの時代的変化④―疫病と王権
     11 女性の穢れの時代的変化⑤―室町時代以降
     12 女性の穢れの時代的変化⑥―江戸時代以降
     13 修験道と女人禁制・女人結界
     14 近代の諸問題
     15 結界と禁制、忌避と排除
     16 彦山の中世
     17 伯耆大山の中世
     18 一般論への展開
     19 機能論と構造論を越えて
     20 海外との比較①―スリランカ
     21 海外との比較②―南アジアと東南アジア
     22 穢れ研究の可能性

    第三章 山岳信仰とジェンダー
     1 ジェンダーの視点
     2 女人禁制・女人結界の概観
     3 女人結界の解禁
     4 女人結界の解禁とその後
     5 歴史の中の女人禁制①―史料の再検討
     6 歴史の中の女人禁制②―伝承の再検討
     7 習俗としての女人禁制①―恒常的規制と一時的規制
     8 習俗としての女人禁制②―拡大と適用
     9 習俗としての女人禁制③―海外の事例
     10 社会運動の中の女人禁制
     11 差別としての女人禁制
     12 フェミニズムと山岳信仰
     13 大峯山の女人禁制
      ①神仏分離以後の変動
      ②仏教寺院への復帰と再編成
      ③洞川の歴史
      ④洞川の近代
      ⑤女人結界の変動
      ⑥観光化と村の変化
      ⑦「宗教的伝統」か習俗か
      ⑧近代化の中の女人禁制
      ⑨国立公園と女人禁制
      ⑩大きな転機の到来
      ⑪アメリカ人女性の登山
      ⑫戦後の強行登山
      ⑬龍泉寺の女人禁制の解禁
      ⑭女人禁制・女人結界を維持する理由
      ⑮女性による新たな動き
      ⑯女人結界の解禁への外部の働き掛け
      ⑰女人結界の解禁に向けての協議と挫折
      ⑱女人結界の解禁の議論を読み解く
      ⑲世界遺産を巡る諸問題
      ⑳信仰から伝統へ
      ㉑維持派と開放派
      ㉒当事者の立場と意見
      ㉓相撲の女人禁制と大峯山
      ㉔遺産化と資源化
     14 女人禁制の行方とジェンダー
     表3-1 近代女人禁制関係年表(大峯山を主とする)
     表3-2 女人結界の解禁をめぐる三本山と護持院の協議

    参考文献
    図版クレジット
    あとがき
    索引

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著者プロフィール

鈴木正崇:慶應義塾大学名誉教授。専門は民俗宗教、祭祀芸能、民族生成の比較研究、および民俗社会を中心とする日本文化論など。著書に、『神と仏の民俗』(2001年)、『女人禁制』(2002年)、『山岳信仰』(2015年)、『熊野と神楽』(2018年)など多数。

「2019年 『BIOCITY ビオシティ 79号 自然と文化をつなぐデザイン』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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