日本車敗北

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  • プレジデント社
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784833424455

感想・レビュー・書評

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  • なぜ日本車メーカーはEVシフトに乗り遅れたのか?
    著者によれば、トップが世界の潮流を見誤り、ビジネスモデルの変革を怠ったからというのが結論らしいが、事はそう単純ではない。

    テスラの量産EV第1号である「ロードスター」が発売されたのが2008年。
    その年から現在まで、著者に言わせれば日本はまるまる「12年の遅れ」をとったとする。
    2008年といったらリーマン・ショックの年で、2011年は東日本大震災が発生。
    そこからの12年は、トヨタを例にとるとV字回復の期間で、2012年には世界販売台数でトップに立ち、2014年には同社初の年間販売台数1,000万台超えを達成。
    2015年には日本企業で初の純利益2兆円越えと、デフレ不況下の日本にあって裾野の広い自動車産業が支えていた側面があるが、著者の提言通り、プリウスを含むハイブリットやMIRAIなど燃料電池車の開発・販売に見切りをつけ、EVに100%注力していたらどうなっていたか?
    本書にもある通り、ピラミッド構造で下支えしている中小の部品メーカーは、不要になってしまう。
    なぜならEVになれば、ガソリンエンジンそのものがなくなるので、燃料噴射装置やピストン、変速機など駆動関係の部品は必要なくなるからだ。

    おまけにこれから垂直統合ではなく水平分業だと、いまのEVベンチャーがやっているように、電池は安い中国のあそこから、あの部品は韓国のあそこからと融通無碍に調達していれば、日本に残る自動車産業の就業人口はいったいどこまで減ってしまっただろうか。
    著者はさらに、日本メーカーは過去の栄光にとらわれず、海外の新興ベンチャーの下請けになることをネガティブに捉えるべきでないと言う。
    まぁ、間違いなくそうなるだろうけど、車体設計などのノウハウなど、積み重ねた資源が失われるのは一瞬で、それほどの強みがあるように思えない。

    どこもまだ実用化できていない全固体電池を日本のメーカーが開発できたら、ゲームチェンジャーになるかといったら、これもそうでもない。
    先行するEV先進国の成功も、画期的な先端技術に支えられているわけではなく、後発者利益の側面も大いにあって、日本もハイブリッド技術で世界をリードできず、V字回復にも失敗して、ずっと前から産業が斜陽化しつつあったら、世界のEVシフトにも容易についていけたのかもしれないが....。
    何かを捨てなければ、大事なものは拾えないが、捨てるものもこれまで大事に育ててきたものという、この二律背反..。

    本書には、自動運転技術の未来であるとか、そもそも自動車の需要はどうなのかや、EVシフトにあたってまたぞろ国の「エコカー」減税などの補助金を大盤振る舞いするのかなどのトピックは見当たらず、ひたすら著者の最大の関心事である電源開発の行く末にスポットが当てられている。
    でもまあ、水素の活用がこんなに非効率だとは知らなかった。
    FCVが売れてないのは承知していたが、非常に大きなエネルギーが無駄となるなんて、リニア新幹線と同じで、電力を浪費する乗り物だったということか。

  • 2030年 複数の国でガソリン車新車販売禁止 日本2035年(HV,PHV含む)

    筆者はバッテリー交換方式が究極の給電方式と考える。 
    中国NIO 毎月980元≒1.5万円の参加料 車体は割安 5分で電池交換 生産JAC
     Chaoji 900kW  CHAdeMO 50kW:約30分で急速充電

    50万円を切るEV 上海通用五菱汽車 宏光MINIEV 航続距離120km
    BYD 電動バスに注力 2018年末 深圳 バス、タクシー100%がEV
    FCV 電気分解→圧縮→燃料電池 70%ロス 水素ステーション5億円

    エネファーム
     2019年~40万台 都市ガスから水素と熱 発電効率95%だがCO2も出る 
    テスラ パワーウォール
     太陽光や夜間電力を蓄電 容量13.5kWh 出力5kW=50A契約
     家庭用蓄電池システム工事費込みで160万円 他社の半額近く
    メガパック 3MWh 再エネ発電安定化、電力需要ピーク時対応

    EV用電池 
     中国CATL LFPリン酸鉄リチウム電池 安く安全 エネルギー密度 低→テスラ
      CTP (Cell to pack)セルをモジュール化せずそのままパック
     LG化学 →テスラ、GM

    太陽光発電
     2030年 1kWhあたり8.2~11.8円(経産省2021年) 世界ではその半額に?
     原子力 11円台後半以上 養生風力発電 26円台前半

    日本電産 E-Axle 2019年~累計10万台

  • 今更感あったけど。
    EVってガソリン車とは全く違う別物の商品って認識が必要だね。そこから広がるビジネスモデルもあるし、十分注意していかないと。

  • 電気自動車(EV)の開発の世界的な動向やビジネスモデルの変化の方向性を知ることができ、大変有益だった。

    脱炭素化に向けた取り組みが世界全体で不可避になっている中、自動車の開発においてはEVへのシフトが大きな趨勢になっている。これはテスラだけの動きでもなく、カリフォルニア州やノルウェーだけの政策でもない。

    世界中の多くの国で2030年~2050年には新車販売の完全な電気自動車への移行を目指しており、GMやVWといった大手メーカーからNIO、LI等の中国の新興メーカーまで、EV製造のプレーヤーの幅が広がってきている。

    本書が書かれた2021年11月の時点で、セダンタイプでバッテリー容量では50~70kWh、航続距離は400㎞前後といった水準のEVが各社から出ており、一昔前に言われていた航続距離の問題に関しては、ガソリン車と比べても遜色のない水準に近付いている。

    価格面ではまだEVの方が高価ではあるが、新車に占める割合が5~10%を超えてくると普及率が急速に高まり始めることにより、量産効果による価格低下も今後進んでいくだろう。


    一方、日本の自動車メーカーはEVへのシフトが遅れており、いまだにハイブリッド(HV)やプラグインハイブリッド(PHV)を含めた戦略を取っている。しかし、国際的にはHVやPHVは化石燃料を一定量使用することから、基本的にはエコカーとは認められておらず、これらの車の販売が近い将来に禁止される国や地域も増えてくることが予測される。

    また、日本独自の取り組みとして燃料電池車(FCV)の開発がなされているが、エネルギー効率の面でも、一般乗用車向けの水素ステーションのインフラ整備の面でも、FCVがエコカーの選択肢になることはほぼ考えられないという。

    従って、日本の自動車メーカーもEVに対する研究開発投資を加速させ、先行する各社へ追いついていく必要があるが、いまだにその動きが明確になっていないということに、筆者は強い危機感を感じている。


    今後の動向については、まずバッテリー開発の動向が重要である。バッテリーの高容量化については100kWhなどの高容量の電池の開発が各メーカーで進んでいる。バッテリーメーカーと自動車メーカーのグローバルな連携が様々な形で進んでおり、高容量化の技術力と生産力で、大きく選別がされていくように思う。また、液体電池であるリチウムイオン電池が主流であるが、全固体電池が完成すれば、性能や安全性の面でブレイクスルーになる可能性がある。

    一方で、充電インフラの観点も重要である。テスラは自社の投資で急速充電設備の普及を目指しており、エネルギー会社としての側面も強化しようとしている。一方で中国のNIOは充電するのではなく電池そのものを交換するBaaSというビジネスモデルでチャレンジをしようとしており、将来的にどのような方式が定着していくかは、大きな分岐点になると思う。

    自動車の開発・製造そのものについては、内燃機関車が機械的に高度な技術を必要とし、部品点数も多くなるため、高度な擦り合わせ技術と多くの部品メーカーによるピラミッド型の生産体制が必要であったのに対して、EVはモーターを電気的に制御するため、比較的部品点数が少なく、また既存のパーツを組み合わせることでもある程度の水準まで開発が可能であるという点が大きく異なる。

    そのため、テスラの新車開発コストは圧倒的に少なく、「ロードスター」の開発費用は700億円(以下)であったという。このようなビジネスモデルの違いは、既存の自動車メーカーをEV市場に参入しにくくしている要因であろう。既存の技術や生産体制が足枷になるという意味では、イノベーションのジレンマに陥っている危険性もあると思われる。


    本書ではEVの普及に対する電力供給の課題については、再生エネルギーの拡大を図るという形でやや楽観的に述べられているが、この点は引き続き大きな課題ではないかと思う。また、EVは充実した電力サービスへのアクセスが可能な地域でしか活用できない。加えて、新車を購入する経済的なゆとりがなければ、内燃機関車を中古で使い続けざるをえない。こういった経済格差に対する対応も、世界的な課題として指摘されているが、その点については本書では触れられていない。

    EVの普及とインフラの整備(既存のガソリン供給のネットワークの維持の必要性も含めて)は、そういった点でより複雑な課題を孕んでいるとは思。ただし、新車販売の主戦場がEVに移っていくことはほぼ間違いないと思われ、それに対する明確な戦略が日本の自動車メーカーに求められているということが、本書を読んでよく分かった。

  • EV化が進む中、いかに日本車が乗り遅れているかを解説している。
    EV反対論として、
     ・エコじゃない
     ・PHEVの方が燃費が良い
     ・技術力で日本に勝てない他国の謀略
    と言われている。全て正しい。しかしEV化はもう避けられない、というのが事実である。
    その理由として、やっぱりEVで製造業を持ち直したい、という他国の思惑が大きいと思った。製造業は工場を建てると人を雇い経済活動が活発になる。
    そのために、どうしてもEV化を進めたいのだ。

    BaaSという考え方もある。これはEVの中で最も高価なバッテリーをリースして使うというやり。EVの値段がぐっと下がる。EVが普及すれば更にEVの値段も下がる。

    FCVはエネルギー効率30%、EVは80%だからEVよりさらに効率が悪い。
    また水素ステーションを作るのも大変。普及は難しい。

    全個体電池が完成すれば更にEVの優位性は高まる。

    EVが普及すれば日本のケイレツが崩れる。また、インターネット販売も活発になり、ディーラーも徐々になくなっていく。

    一番面白いと思ったのは日本自動車メーカーが生き残る方法である。
    この本には2つの方法が紹介されている

    ①自社でEVに参入して、EVを作る
    ②EVを作るための工場やノウハウを提供する

    ①は体力のある大きな企業なら可能
    逆に1台数千億もかかるEVを開発できない小規模メーカーは②の方法に舵を切った方が良いかもしれない、ということだ(つまりEV界のFoxconを目指せ、ということ)


  • EVへの取り組み方、期待の違いが結果に出てくるのか。

  • 日本メーカーのEVに比べ、テスラは圧倒的に開発費が安い。これは、日本勢がハイテクモーターと専用バッテリーの開発に多大な金と時間を費やしている間、テスラが汎用部品を組み合わせて革新的な製品をつくっているからである。
    従来型自動車産業は日本だけでも2万社。EV化が急速に進む米州・中国・欧州。水平分業化が現実となってきたEV業界において、自動車メーカー、部品メーカー含めた日本勢の戦略を描かないと、根こそぎ持っていかれてしまう。

  • 言っていることは至極真っ当なのだが、なぜだかすごく胡散臭く感じてしまう。EV化の背景は、確かに温室効果ガスの削減の必要性であり、クリーンな電力の確保には再生可能エネルギーが必要である。EV関連企業の動向や趨勢に関しても、詳細が簡潔に述べられていて参考になる。胡散臭い理由の一つは、要所で挟み込まれる自分語りだと思うが、決してそれだけではないとも思う。論旨のどこかに矛盾点でもあるだろうか?よくわからないまま読了してしまった。

  • BEVでなくっちゃ。。。でもなぁ。。

  • 自動車部品(液もの)関連の仕事をしているので、今後の自動車業界の未来について興味を持っています。日々の仕事では、世界的に物流が厳しくなっている中で、お客様に製品を届けられるかが気になっていますが、数十年後の自動車業界を考える上で、電気自動車(EV)の今後の動向には目が離せません。

    日本の製造業はこの30年間で、かつては栄華を誇っていましたが、現在では後塵を拝しているものがあります。その中で現在でもトップを保持しているものに自動車業界があると思います、特に「21世紀に間に合いました」というメッセージで開発したハイブリッド車は日本の産業を支えるまでになっていると感じます。

    その優位性が揺らぐどころか、それに拘っていると気づいたら「ガラパゴス化」してしまうかも知れません。この本でも指摘されていますが、現在の電気自動車の心臓部であるバッテリーの技術開発は進んでいて、スマホが出た時に「オモチャみたいだ」と思っていたらあっという間に、ガラケーを駆逐してしまったように、電気自動車が、それも外国製の電気自動車が日本中を走っている可能性もあります。その光景を見ることになる時、私は何歳になっているか分かりませんが、この2年間に起きた変化を考えると何が起きてもおかしくないな、と思いました。

    以下は気になったポイントです。

    ・新しい技術や製品は一定の普及率を超えるとその後爆発的に拡大する、EV普及率が3%(世界全体)まで達したということは、経験則から考えれば今後EVの急拡大が始まることを意味する。2021年の電動車の普及率はおそらく、ヨーロッパで10%、中国8%、アメリカ2.5%、世界全体で5%くらいまで増える。そういう中で日本はまだ普及率1%未満である(p6)

    ・CO2削減のためにはもう妥協が許されない、というのが世界の共通認識になりつつある、その有望な方策として考えられているのが、再エネルギー発電の普及と、自動車のEV化である(p8)

    ・テスラ車の開発と生産はアップル方式と呼ばれることがある、入手の容易な汎用部品の組み合わせによって革新的な製品を作ることを指している。その方式をうまく活用して安く開発されたのが、テスラのロードスターであった(p18)テスラにはハイテクモーターの技術はない、ニコラ・テスラの特許をベースに130年程前に開発された、交流誘導モータを使っている(p18)バッテリーはノートPC用のもの。この汎用品主義こそがEV時代の幕開けを象徴するものだと考える(p22)

    ・日系メーカの年間総生産台数は国内、海外合わせて二千数百万台だが国内販売は500万台程度、世界で売れなくなれば日本車は滅びる、むしろEVが日本で売れなくても世界で売れるなら日本車メーカはEVに舵を切るしかない(p47)

    ・中国の新興 EVベンチャーで既にアメリカ市場で上場しているのは、NIO、理想汽車(LI)、小鵬(XPEV)である(p56)

    ・今後重要なことは、1)バッテリーコストの低減、200万円台で400kmの航続距離、2)ガソリンスタンドの減少(p79)

    ・BYDは2025年までにJ6,K8をそれぞれ二千台ずつ販売することを目指している、2025年にはBYD製EVバスの価格は日本製ディーゼルバスを下回っている可能性が高い(p85)

    ・トヨタは世界の動きと比べると認識のずれを感じる、1)電動車にハイブリッドとプラブインハイブリッドを含んでいる、2)EVとFCVを合わせて200万台というのはあまりに少ない、3)FCVを推進している(p92)

    ・FCVは水の電気分解→圧縮→燃料電池での使用というプロセスで元のエネルギーの70%以上を捨ててしまう効率の悪い車である、EVは搭載の蓄電池を充電して走る場合のエネルギー損失は充放電合わせて10%程度である(p94)

    ・太陽光発電は天候や季節、時刻によって発電量の変動が激しい、その弱点を解消するカギは蓄電池にある。EV・太陽光の2本柱に加えて、蓄電池の開発と普及も必至である(p130)

    ・太陽光発電は非常に扱いづらいエネルギー源である、発電量のピーク時は供給過剰を防ぐために火力発電を落とし、夜間や悪天候時には増やして調整している。なぜこのような作業が必要かというと、発電量と消費電力量は常に同量でなければならないという「同時同量」の原則があるから(p132)

    ・2019年11月から家庭用太陽光発電の固定価格での買取期間が順次終わっている、そのため発電した電気を売るより自家消費する方が有利になっている(p138)

    ・トヨタは2022年に発売予定のEVに10年使用後の劣化率を10%に抑えた高性能電池を採用すると発表している、GM、テスラ同様に従来型リチウムイオン電池の性能アップに成功した(p188)

    ・日本の得意分野であるCVTの世界市場シェアは、ジャトコ33%、ホンダ16%、トヨタ14%、アイシン7%となっていて、EV化によって消滅の危機に晒されている。EVの電気モータは低回転域から強力なトルクを発揮できるため、トランスミッションが不要になる(p208)今後EVが進化すると比較的小さなモータで効率よく走るために2速くらいのATが使われる可能性はある、テスラは2速ATを試したがうまくいかず諦めた例もある(p210)

    ・2020年5月29日には、JACの親会社がVWから50%の出資を受けることで基本合意した発表があった、中国には厳しい外資規制があり国有しゅうきんが外資から50%の出資を受けることは異例中の異例である、背景としてはドイツとの関係を強化したい中国政府の思惑があったようだ(p212)

    ・EV特有というかEVにしかできない新しいビジネスモデルとして注目されるのが、BaaSである。EV販売にあたって車体本体とバッテリーを切り離し、本体だけを販売する形態である。ユーザーはバッテリーを所有せず、別途バッテリーのサブスクリプションに加入する。(p217)

    ・ホンダは2021年4月23日、2040年に世界で販売する全ての新車をEVとFCVにすると発表した。ガソリン車をゼロにする目標を示したのは日本のメーカではホンダが初となる(p224)

    ・自社開発にこだわるよりEVベンチャーの生産を受託する方が経営リスクを回避できるだろう、こうしたビジネスモデルを、ベンチャーの下請けになる、とネガディブに捉えるのではなく、新興ベンチャーと相互に補完し合う新しいビジネスモデルの構築とポジティブに考えるべき(p249)

    2022年4月10日作成

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