- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784834086263
作品紹介・あらすじ
七月半ばの日曜日。初夏の日差しが落ちる道をたどり、景介の向かう先にその家はあった。中学生になって入った美術部で、建物を描くという課題がだされた時、まっ先に浮かんだのが、木々と草花に囲まれて建つ、灰色の壁と緑の屋根の古めかしいその洋館だった。主の老女に招き入れられ、足を踏み入れた洋館で、景介は1人の可憐な少女に出会う。一目見たその時から、ゆりあと名乗ったその少女に景介は心引かれていくのだが……。
感想・レビュー・書評
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中1の夏景介が古い趣ある住宅に魅せられ住人の艶子というおばあさんと交流を深める。急にやつれた景介を心配する幼馴染の晶子。やや子やゆりあとは誰なのか?景介があまりに優等生っぽく思えたがこの役柄には相応しい。艶子さんの言葉が心に響く。
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中1の夏を迎えた景介は、美術部の課題の絵を描くために以前から惹かれていた家に向かっていた。
三角帽子を思わせる尖り屋根に真四角の窓や縦長の窓がいくつか並び、歳月の中でじゅうぶんに古色を帯びた建物はしっとりと落ち着いていた。
緑の草原に眩いほどのキンポウゲ。
まさしく絵にしたいと思うほどだろう。
そこに住む小谷津艶子さんは、祖母が入院していた時に隣りにいたおばあさんだった。
その庭で知り合ったゆりあと仲良くなり、時をおいて裏の家のやや子とも親しくなる。
けれどいずれも艶子さんがうたた寝している少しの時間だけ…。
艶子さんの探している本を見つける為に大量の蔵書の片づけを手伝うことになるが、ゆりあに会いたい一心でもあった。
幼なじみの晶子が、ただならぬ景介の様子を見て後をつけてから彼女も艶子さんと親しくなるのだが…
その頃には、景介はゆりあの存在に疑問を持ち、やや子とは…いったい誰かと漠然とした考えを巡らせていた。
引き込まれてしまうほどの魅力がたっぷりと詰まった本。
憧れと優しさと夢中になれるものがある。
そして、この家と庭のキンポウゲの風景に気持ちをもっていかれるようだった。
夏は終わってしまったけれど夏におすすめの児童書といえるだろう。 -
『その家は、木々と草花に囲まれながら、堅牢に、しんと建っている。黒ずんだ灰色の壁と緑の屋根の古めかしい、決して大きくはない洋風建築で~(中略)~その家を目にしたときから心惹かれていたのだった。家そのものだけではなく、黄色い小花が木立の間にちらちらしていた前庭の景観をふくめて、まるごとぜんぶに。』
高楼方子さんの作品で、『怖い』という感情が生じたのは初めてかもしれない。
しかし、その感情は、別の言葉の裏返しであるようにも思われ、それは、人を想うことに囚われた一途さから始まったのかもしれない。
中学一年生の「景介」と、その幼馴染みの「晶子」が、上記の洋館に一人住むおばあさん、「小谷津さん」を訪ねて、菩提樹の花茶を飲みながら楽しむ、やや現実離れしたささやかなひと時は、読んでいて心地好く、素敵な時間に感じられ、窓から見える前庭には、黄色く咲き誇るキンポウゲの群れ・・
最初に、景介が洋館に惹き付けられた時から、既に予兆はあったのかもしれない、その幻想的で不思議な出来事には、一応、解答めいたものが終盤にあり、それを知ったときの私の感情が、上記の『怖い』だった。
景介が初めて知った狂おしい想いと、その真意が分からずに悩み苦しむ晶子と、二人の心のフィルターを通すことで、改めて、これまでの人生の喜びを再認識する小谷津さん。この三人の関係性は、思いのほか深いものがあり、中学生二人が小谷津さんに関わったようでいて、実は全く逆で、その遥かなる時を隔てた、人を好きになるという想いの、呪術にも似た、奇跡を起こすかのような神秘的な力には、まず怖さを感じてしまったのだ。
しかし、ラストシーンの、景介の興味の対象が、やや変化した姿を見ると、どうやら景介自身は、そうした風に思ってはいないようで、しかもその怖さを、人間の持つ一部分だと解釈しているようにも思われる、その姿勢には、狂気にも近い、人を想う気持ちの不可思議さを、景介自身も実感したからだと思い、改めて、小谷津さんの少女時代に湧き起こった、自らの行動指針と相異なる、もう一つの欲望には、良い悪いという概念ではなく、人間の起こす行動として、とても共感できるものがあった。-
たださん、お返事ありがとうございます。
今私の方のコメント読んできました(´∀`;)どちらにもコメントいただきありがとうございます♪
高...たださん、お返事ありがとうございます。
今私の方のコメント読んできました(´∀`;)どちらにもコメントいただきありがとうございます♪
高楼さんノスタルジー溢れる作品が似合いそうですね、一冊しか読んでない私が言うのも何ですが。『ルチアさん』もたださんのレビューで気になってるので、読みたいリストに入ってますよ。
本当に不思議な三角関係みたいな図式ですね。
人は自分と境遇が似てるなど身近な所で出会い成長していくと思いがちですが(部活とかバンドとかバイトとか)、この3人のように(景介と晶子は幼馴染ですが)年齢や境遇を超えふとした偶然からお互いが作用し合っていく関係が素敵だと思いました。2022/08/16 -
111108さん、返事のお返事ありがとうございます♪
そうですね。景介と晶子はともかく、そこに艶子が関わってくるのは、ちょっと出来過ぎなの...111108さん、返事のお返事ありがとうございます♪
そうですね。景介と晶子はともかく、そこに艶子が関わってくるのは、ちょっと出来過ぎなのではとも思いそうですが、本書の場合、その理由がはっきりしているので、幻想的な要素を上手く取り入れて、現実的な成長ものに作用させていくのは、よくよく考えると、すごいことしてるんだなと、思いました。
『ルチアさん』、読みたいリストに入っているのですね。ありがとうございます(^_^)
そちらは、本書とはまた違った趣なので、111108さんが読んで、どう思われるのか、気になります。
そちらのレビューも、楽しみにしてますね(^o^)2022/08/16 -
たださん
お返事ありがとうございます♪
『ルチアさん』積読本ある中いつになるかわかりませんが読みたいです!たださん
お返事ありがとうございます♪
『ルチアさん』積読本ある中いつになるかわかりませんが読みたいです!2022/08/16
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中学1年生の景介は、夏休み前のある日、美術部の課題のスケッチのために、以前から気になっていた洋館を訪れたものの、道端でひとり衆目に晒されながらの作業と、その家を他の人に知られることに躊躇していた。
そのとき、その家の門の表札「小谷津」に気づき、それが祖母が入院していたの隣のベッドの人に違いないと思い当たる。入院中の知的な印象を思い出していたちょうどそのとき、小谷津さんが現れた。彼女も景介のことを覚えていて、祖母の安否を尋ね、居間の電球を取り替えてほしいと言う。
求めに応じて家に入り電球を取り替えたあと菩提樹の花茶をふるまわれ、今度は日記帳の鍵を開けてほしいと頼まれる。ようやくのことで鍵が開いたとき、目の前の小谷津さんはうたた寝をはじめ、庭のキンポウゲがきらめく。
景介はそこで、「誰か来て」という声を聞く。
声のするほうに向かった景介は、<A…… B……>と書かれた部屋を突っ切って庭に出て、とてもとても可愛らしい少女ゆりあと出会う。
そして景介はゆりあと一緒にさくらんぼを食べ、お互いの絵を描きあう。
夢見心地になった景介は、祖母が小谷津さんに返しそびれていた本があったこと、夏休みに入ってからは、小谷津さんの家の本探し兼整理を手伝うことを口実に、屋敷に通うようになっていった。
会うたびに、ゆりあは美しく、わがままだった。
ゆりあと会うようになった景介は、裏の昔風の家に住む少女やや子とも親しくなる。ところがどうもやや子の生きているのは、戦争中の日本のようだった。
ゆりあややや子との幸せな時間が増えるにつれて、自分が面している非現実的な現象に理解が追いつかなくなった景介は混乱する。
しかも、景介のようすは、傍目にもわかるほど不健康になっていた……。
不思議な洋館を舞台に、時空を超えて交流する少年と少女たちとの関わりを描く、美しくも怪しいファンタジー。
*******ここからはネタバレ*******
作者が高楼方子さんとの表紙を見たとき、申し訳ないけれどちょっぴり苦手感を予感しました。「つんつくせんせい」シリーズとかの絵本ならいいのですが、この著者の年長者向けのファンタジーは、私には相性が悪いことが多かったからです。
実際に読んで見たところ、相性の悪さは思ったほどではありませんでした。
昔風の表現にこだわっているような作品で、情景描写が多く、長く、込み入っていて、実に読みにくい本ではありましたが、途中でシラケまくってしまうようなことはありませんでした。
ただ、狙ったのでしょうか、怪しい感じがあったので、読んでいていい気持ちはしなかったですね。
高楼方子さんらしいところも散見されました。
まずは、屋敷に住んでいる「小谷津艶子(こやつつやこ)」さん。このお名前、回文なんですよ。
それに、この洋館を作った建築家の名前が「庄造」が、「蔓原遥造」だったとか、「やや子」が「艶子」だったとか。
高楼方子さんは、こういうちょっとした行き違い(と言うか、誤解?)を描くことが多いように感じます。
物語が実に入り組んでいるので、レビューもとっても書きにくいんですが、ツッコミどころも多いです。
たとえば、気になる洋館があったら、そこは見知っている人の家で、ちょうどそこに出てきたその人に用事を頼まれたらきれいな女の子と会って仲良くなって、また行きたいなと思っていたら、お届けものが発生して、そこの家での用事もできて、隣家の女の子とも仲良くなって……と、なんともなあ、ちょうどいい具合に偶然が重なっているんです。
これは、中学年ぐらいまでの本だったら受け入れられると思いますが、中学生以上では、ちょっと興覚めかもしれないと思います。
そして、中学年が読むにはこの本は読みにくすぎる。
ラストのあたりでは、小谷津さん自信が認知症傾向になって、夢と現実の間を行き来するものだから、何が現実で何が非現実だったのかもごちゃまぜになってしまいました。
この摩訶不思議な物語を、不思議のままで終わろうとしたからなのかも知れませんが、正直ここまで来ると、もう何がどうなっても関係ないっていう気持ちで読み進みました。
エピローグの7年後で、大学生になった晶子が未だに毎月老人ホームに入った小谷津さんを見舞うところなども現実離れして感じられる。いやあ、自分の祖母にもそんな足繁く通うことは難しいでしょうに。
結局、この幻の世界は、やや子が鍵付きの日記帳に綴った空想の物語の中に景介が入り込んでしまったもののようです(私の読解できる限りでは)。
でも、意図したことではないとは言え、景介の被ったダメージは大きくて、ゆりあ、やや子、晶子、と女性たちに翻弄?される姿に悲哀さえ感じてしまいます。
私には、作者の明確なメッセージはわかりませんでした。
でも、ラストで景介と晶子が、小谷津さんの「編集」という仕事について触れ、景介自身も、人間の複雑さ、不可解さ、素晴らしさや愛おしさを表現するために紡ぎ続けられた言葉について考える面白さについて考えたいと思った、とあるから、きっとこれではないかと思います。
けっこう複雑で難解なので、読むことに慣れている高学年以上にオススメします。-
図書館秋吉うたさん、こんばんは^_^
ご無沙汰しております。
詳しいレビューをありがとうございます。
たかどのほうこさんの絵本や児童書...図書館秋吉うたさん、こんばんは^_^
ご無沙汰しております。
詳しいレビューをありがとうございます。
たかどのほうこさんの絵本や児童書(へんてこ森シリーズなど)は、子どもが大好きだったのですが、児童文学というのでしょうか、高楼方子で書かれているものは、読んだことがなく、書評も良かったので、今回この本を学校図書館に購入依頼してしまいました(汗)
あきよしうたさんのレビューを読ませて頂き、ちょっと難しいかなぁ…と感じております。
あきよしうたさんがおっしゃるように、登場人物やファンタジーの要素など内容は小学生向けなのに、構成が複雑で小学生には難しい物語ってありますよね…それが中学生に読まれるか、というとそれも難しい…。
読解力のある小学生向けということでしょうかね。
いつもながら、とても参考になります。
久々に拝読できて良かったです。2021/12/25 -
ロニコさん!!
こちらこそご無沙汰しております。
お元気でしたか?
コメントありがとうございます。
いやいや、私が、高楼方子さんの児童書...ロニコさん!!
こちらこそご無沙汰しております。
お元気でしたか?
コメントありがとうございます。
いやいや、私が、高楼方子さんの児童書が苦手なだけなんだと思います。
年長者向けでも、私は、上橋菜穂子さんのファンタジーとかは大ファンなので、きっと単なる相性の問題なんですよ
私は選書本に掲載する本を選ぶために読んでいるので、どうしても辛口になることが多いです。
年長になるにつれてファンタジー作品は減っていくことが多くって、それはそれで寂しいですよね、
それに私はこの本意外とおもしろく読みました。
景介がゆりなに夢中になりすぎて半ば廃人状態になってしまうなんて、児童書らしからぬ展開で興味深かったです(笑)。
サラッと読めるタイプの本ではないと思いますが、もしロニコさんもお時間あったら読んでみて、感想聞かせてくださいね。2022/01/03 -
あきよしうたさん、コメントへの返信ありがとうございます。
アドバイスに従って、学校に本が届いたら読んでみます!
今年もうたさんのレビュー...あきよしうたさん、コメントへの返信ありがとうございます。
アドバイスに従って、学校に本が届いたら読んでみます!
今年もうたさんのレビュー、楽しみにしております。2022/01/03
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絵本『まあちゃんのながいかみ』や幼年童話も大好きだけど、やっぱり読みたかった高楼方子さんの長編。
幻想的で美しく、思春期の心の襞が鮮やかに描かれ、切なくじっくりと読ませられた。
待った甲斐がありました。
装画は『夏の朝』本田昌子/作と同じ木村彩子さんだ。緑溢れる絵が夏の日を、水彩の淡さが物語世界の不確かさを感じさせる。
木村彩子さんのこの2冊の本がなんとも不思議な対比をなしている。
『夏の朝』は古い日本家屋『黄色い夏の日』は古い洋館を舞台に、『夏の朝』は蓮の花『黄色い夏の日』はキンポウゲの花がいちめんに咲く庭で、『夏の朝』は中学2年の少女『黄色い夏の日』は中学1年の景介が、どちらも夏の日々に時を越えた旅をする。
景介は自分の体験している非現実を冷静に判断し、畏れを感じながらもその世界を受け入れていく。
ファンタジーにすんなり入っていく幼い子とは違う、中学生という年齢の感覚の描き方が現実的であり説得力があった。恋する気持ちの切なさも痛いほど伝わってきた。
洋館に住む小谷津さんが魅力的で、家具や小物に至るまで素敵。
『物語のもつ力』に想いを巡らしました。 -
表紙の装丁画のように美しく切ないファンタジー。主人公の景介と晶の思春期の揺れ動く心の機微もよく描かれていて大人でも充分楽しめた。
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図書館で借りて読んだけれど、やはりこれは買う。そしてきっと何度も読むことになるでしょうね。
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高楼方子ひさびさの新作長編小説。カバーの装画にひかれる。
中学生になった夏に、少年が緑に囲まれた古めかしい洋館でであったのは…
序盤はフィリパ・ピアス「トムは真夜中の庭で」を思い出させる展開。「思い出のマーニー」や「マリアンヌの夢」のような物語も思い出すが、主人公が自分をわりと客観視できているところがぞくぞくする。中盤からはミステリの色も濃くなり、ぐいぐい引き込まれてエピローグまで一気に読み終えた。筋立ても登場人物も、読むひとが自分でであってほしいのでここに書くわけにはいかないが、自分にとっては親近感を感じるいとしい人たちの物語、うつくしくやるせないファンタジーだった。夏の終りによむにふさわしく、物語が閉じる頃にはいろいろな想いで胸がいっぱいになった。
いつかピアスと読み比べてみたいし、梨木香歩「裏庭」あたりも再読したくなる。そして高楼方子さんのこれまでの作品も…(ブクログを始める前に読んだものが多いので、記録がないのがざんねんだけれど、高楼方子の新作なら読まないわけにいかないという直感はまちがっておらず、期待をこえる感激があったので、やはり再読しなければ…)
そうそう、河合隼雄が存命だったら、きっとおもしろがって読んだだろうなあ…
そして、本好きさんならきっと愛するであろうこのお話、いつかアニメ映画化される予感あり。
読んで下さったのですね。ありがとうございます(^_^)
木村彩子さんの絵、印象に残りますよね。
最初の...
読んで下さったのですね。ありがとうございます(^_^)
木村彩子さんの絵、印象に残りますよね。
最初の館とその庭も印象的でしたが、途中で、突然現れる絵には、何かの終わりなのか、それとも始まりなのか、怖いような、儚いような、考えさせられるものがありました。
そうなんです。いつものように短い文でレビューした後に、この印象的な館の絵と途中の見開きいっぱいの...
そうなんです。いつものように短い文でレビューした後に、この印象的な館の絵と途中の見開きいっぱいのキンポウゲの事を書き忘れた!と、追加で書き加えちゃいました。
たださんの『黄色い夏の日』のレビューにも、ぐいぐい勝手なコメントをしてしまいました(*´-`)お時間あったら目を通してくださいな♪
今日が休みの内に、あちらも目を通させていただきました(^_^)
今日が休みの内に、あちらも目を通させていただきました(^_^)