日本の南進と大東亜共栄圏 (アジアの基礎知識 6)

著者 :
  • めこん
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  • Amazon.co.jp ・本 (330ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784839603298

作品紹介・あらすじ

アジアを学ぶとき日本人として必ず整理しておかなければないテーマ——―。
日本人はいつごろから、どのようなかたちで、東南アジアに進出していったのか?
アジア太平洋戦争の時代、日本軍は東南アジアで何をしたのか? 
日本が戦争遂行の大義として掲げた「大東亜共栄圏」とは何だったのか? 
その大義は果たされたのか? 東南アジアの人たちはどのように受け止めたのか?
その記憶は、東南アジアでは、どのように受け継がれているのか?
日本では?
大量の文献と先行研究の分析を基に、包括的かつ客観的にまとめた「アジアの基礎知識」。

感想・レビュー・書評

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  • 竹内好はかつて日本の大東亜戦争について、アジアへの侵略戦争としては有罪、帝国主義間戦争としては無罪という意味のことを述べた。こうした評価は私に、大東亜戦争にも少しは取り柄があったのではないかとの思いをもたらした。
    本書の最後の章で、日本の敗戦が契機となって東南アジア諸国が独立を果たしたとしているが、日本の軍政が欧米のそれと比較して現地住民にとって遥かに過酷だったとも述べている。
    かの戦争により、東南アジアに欧米帝国主義から解放したという見方が、そもそも東南アジア諸国の人々にはもちろんのこと、指導者層にとっても到底受け入れられないものであったという。
    私も現地の軍政を取り仕切る将校の個性によっては、人々から感謝されることもあったのではないかと考えていたが、本書を読んで、なんの取り柄もなかったと思わざるを得なかった。
    皇軍として恥ずべき食糧の現地調達。
    現地の言葉として記憶されているロームシャ。
    とてつもないインフレで庶民に生活苦をもたらした軍票。
    著者は、皮肉を込めて大東亜共栄圏ならぬ「大東亜共苦圏」といっているが、これでは大東亜には片栄の国と片苦の国々しかなかったというべきではないか。
    将来日本にとってこの地域が貴重なものとなっていくと思うが、「アジアの盟主として…」などと思い上がった考えは捨て去るべきだろう。

  • 東2法経図・6F開架:319.1A/G72n//K

  •  明治期以降から戦時中の長い時期を扱い、また各国別の記述が詳細で、やや散漫な印象を受けた。
     日本社会の一部にある「大東亜共栄圏」への肯定的な言説について。まず、日露戦争での日本の勝利は、一部では現地ナショナリズムに刺激を与えたのは事実だが、影響は決して単色ではなかったとのことなので、過大視も禁物だろう。
     戦時中、「親日派」民族主義者が日本に協力しながらも日本軍政期に入ると逆に疎んじられた構図は越や比など複数の地域で共通して見られることを指摘。ビルマでは日本が育成してきたはずの国軍が抗日蜂起。バ・モオやスカルノの対日観は複雑だ。また、華僑・華人弾圧や「労務者」徴用は正当化困難だろう。
     そして著者は、現在の歴史認識に関し、日本社会で解放戦争史観が高まりアジア各地に伝播するほど、現地の無意識下の「反日感情」を呼び起こす可能性を指摘している。

  • 第1部|戦前期日本は東南アジアとどう関わったのか

    1二〇世紀転換期の日本と東南アジア
     国際関係の中のアジア
     日本・東南アジア相互認識の形成
     初期日本人社会の相貌 
      1「からゆきさん」再論
      2東南アジア関心の高まり
      3在留富邦人の二重構造
     「中継地域」と東南アジア
      1小笠原諸島領有と南洋群島
      2台湾=「図南の飛石」
     東南アジアから見た日本
      1日本人社会へのまなざし
      2日露戦争のインパクト 

    2一九三〇年代の日本の「南進」と国際環境

     第一次世界大戦後の国際秩序と日本
     東南アジアへの経済進出
      1貿易摩擦と対日警戒感
      2漁業問題の発生・展開・帰結
     東南アジアの華僑ナショナリズムと日中関係
     「一九三六年危機」論をめぐって
      1国際連盟脱退から「無条約時代」へ
      2「非常時日本」と太平洋世界
      3「躍進台湾」と南進論
     「国策ノ基準」と「南進」政策
      1海軍と「国策ノ基準」
      2新南群島の台湾編入
      3豪亜地中海・ポルトガル領ティモール問題
     アジア主義者の東南アジア関心
      1大亜細亜協会と南方問題
      2『大亜細亜主義』に見る在日東南アジア民族主義者の発言
    東南アジアのナショナリズムと日本
      1日本の東南アジア観の引照枠
      2一九三〇年代東南アジア民族主義者の日本観
       ⑴インドネシア民族主義者と日本
        ■Ⅿ・ハッタの訪日記録
        ■スバルジョの滞日一年
        ■スカルノの「太平洋戦争」予見論
       ⑵フィリピン――M・ケソン大統領訪日と日比米関係
       ⑶ビルマ――ウー・ソオ著『日本案内』

    第2部 東南アジアにとって「大東亜共栄圏」とは何であったのか

    3東亜新秩序論から開戦へ
     日中関係と台湾
     政策決定過程における「南進」問題
      1陸軍の南方関心
      2日蘭会商と仏印進駐
     東南アジア占領構想の基本方針
      1「重圧」受忍論
      2海軍省調査課作成の「大東亜共栄圏論」
     「大東亜戦争」開戦と戦争目的


    4東南アジアと「大東亜戦争」
     基本的諸問題の鳥瞰
      1帰属問題  
      2資源問題
      3インフレ問題
      4抗日抵抗運動の諸類型
     統治形態別に見た各地域の状況
      1同盟国タイ
       ⑴強いられた同盟関係
       ⑵バーンポーン事件と泰緬鉄道
       ⑶ピブーン首相と大東亜会議
       ⑷戦局悪化とプリーディー派政権の登場
      2二重支配地域――仏印三国とポルトガル領ティモール
       ⑴ベトナム
        ■日本軍の南部仏印進駐
        ■ベトナム復国同盟会とクオン・デ候
        ■開戦後の仏印
        ■仏印処理とベトナム民族主義運動
       ⑵ラオス
        ■日仏二重氏支配期のラオス
        ■仏印武力処理後の地方都市
        ■プーミー・ヴォンヴィチット回想録 
       ⑶カンボジア
        ■日仏二重支配期と「傘のデモ」
        ■仏印武力処理とカンボジア
       ⑷ポルトガル領ティモール
        ■日本のポルトガル領ティモール関心
        ■横浜=ディリ航空路開設と総領事館設置
        ■日本軍支配とティモール人
      3軍政施行地域
       ⑴ビルマ
        ■東条首相議会演説と対ビルマ方針
        ■バ・モオ首相と対日協力
        ■抗日蜂起へ
       ⑵フィリピン
        ■開戦前後のケソン大統領メッセージ
        ■日本軍のフィリピン認識と「独立問題」
        ■「独立」後の日比関係と大東亜会議
        ■激化する抗日ゲリラ活動
       ⑶マラヤ・シンガポール
        ■「帝国領土」への編入対象
        ■マレー人社会の指導層
        ■華僑ナショナリズムと日本
        ■抗日運動
       ⑷インドネシア
        ■政治・軍事面
        ■社会・経済面
        ■文化面
        ■「独立問題」をめぐって

    第3部 「大東亜共栄圏」をめぐる嚙み合わない歴史認識
     
    5東南アジア諸国の対日歴史認識の比較
     東南アジアの日本占領期認識の比較
      1歴史教科書の比校
      2二人の「建国の父」の日本軍政観
       ⑴インドネシア・スカルノ大統領の独立記念日演説から
       ⑵シンガポール・リー・クアンユー首相回顧録から
      3世論に見る東南アジアの日本観
     日本の東南アジア占領認識
      1一九九三年細川首相発言と「歴史認識問題」
      2教科書記述に見る東南アジア占領


    6「殺身成仁」史観を超えて——―真の「未来志向」の関係とは

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著者プロフィール

1943年生まれ。早稲田大学名誉教授、(公財)小笠原協会評議員。近年の著書として、『近代日本の「南進」と沖縄』(岩波書店、2015年)、『「南進」する人びとの近現代史――小笠原諸島・沖縄・インドネシア』(龍溪書舎、2019年)、「日本の南進と大東亜共栄圏』(めこん、2022年)。

「2022年 『なでしこ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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