「改革」のための医療経済学

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  • メディカ出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (263ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784840417594

作品紹介・あらすじ

タバコを吸って財政赤字を減らそう!?効率の良い予防医療はかえってコストを高騰させる?岐路に立つ日本の医療選択に必要な科学的根拠とは?最先端の医療経済学から、日本の医療制度改革に警鐘。

感想・レビュー・書評

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  • 内田樹著書で触れられていて、かつ非常に興味を惹かれたもの。もう10年以上前の著書ということに一抹の不安はあったけど、時代の流れに殆ど左右されない論旨は素晴らしいの一言。中でも、医療費高騰の犯人探しの章で、①高齢化、②医療保険普及、③所得上昇、④医師供給増加、⑤他分野との生産性格差、のどれもが小物っていうのは目からウロコ。それを筆頭に、いかに思い込んでたかっていうのを反省させられる項目がてんこ盛り。加えて構成が良く、最初に纏めが提示されて、その詳細が順に示されるというもの。順番どおりに読んだときは、ちょっと分かりにくい部分もあったけど、最後におさらいのために読み直したら、素晴らしく上手く纏めてあることに気付かされる。改めて紐解くときも、まずここに当たればまず間違いなし。何よりも、本書以降、同様の著作を新たにものされてないってことは、本作がそれだけ風化しない内容ってことの裏返しか。本当に、出合えて良かった本。

  • 医療制度改革など、基本的に自分がよくわからない分野のことについて、メディアなどで「こうした方がいい」「こうすべきだ」などという言説に触れると、つい「そういうものなのかな」と思ってしまいがちであるが、筆者はそんな印象論に左右されてしまいがちな事柄を、きちんとした資料に基づいて一つ一つ丁寧に検証する。そうして、医療制度改革にほんとうに必要な改革は何なのかということを明らかにしてくれる。

  • 医療費の増加の要因は以下の4つのいずれの寄与よりも「医療技術の進歩」の寄与が高いかもしれないとのこと。
     ①高齢化
     ②医療保険制度の普及
     ③医療供給数の増加(医師数増加、医師誘導需要)
     ④他産業の生産性上昇格差
    近年の検査機器や放射線治療機器、ロボット手術機器、新薬(がんの分子標的薬の開発など)の開発などは高齢化による医療費の増加とともに医療費増加の大きな要因であるこは感覚的にも理解できる。
    筆者は、予防による医療費増加の抑制は限定的であり、むしろ寿命の延伸による介護費用の増加を指摘している。医療費は、寿命が長かろうが短かろうが、急性期あるいは末期に投入する医療は変わりないことも指摘している。
    国策あるいは地方自治体の施策が、筆者が指摘するように、クールにスマートに勧められれば、あたかも健康施策をしていかにも行政ががんばっていることを首相するために税金が投入されるような税金のムダ遣いをしなくて済むのにと思う。

  • 特に医療費上昇の原因について、医療経済学の研究の成果をまとめて紹介した本。医療政策の議論のベースとして知っておく必要。

  • 目次

    1章 忙しい読者のための総括

    2章 比較による医療の相対的な位置付け
    ―3つの分類別に(医療問題の3つの分類;コスト(医療費)の比較;アクセス(医療へのかかりやすさ)の比較;医療の質の比較)

    3章 医療経済学に何ができるのか
    (誤解を解くための医療経済学の定義;医療と経済学の関係―妄信でも嫌悪でもない冷静な距離のとり方;専門大学院(プロフェッショナルスクール)で求められる教育)

    4章 医療費高騰の犯人探し
    (疑われた5要因はいずれも犯人格としては小物―最大の黒幕は医療技術の進歩?;人口の高齢化が医療費に与えるインパクト ほか)

    5章 改革へのロードマップ(制度改革の前に明らかにすべき価値基準;5つの効率の基準とその改善案 ほか)

  • 米国市場を中心に、医療経済学についての研究や論文の紹介が多くあり、医療経済学の一通りの流れをつかむには最適でお釣りがくる本である。

  • 本の構成が非常に読みやすくできている。
    初めて医療経済学に触れるという人におすすめ。
    「少子高齢化の影響で医療費が高騰する」「医療業界に市場原理を持ち込むことで効率化、歳出削減につながる」などなど一般的な通説を経済学的な立場から反論。
    特に、「医療費高騰の真犯人探し」は必見。
    日本、あるいは諸外国の医療の現状と現在の医療経済学研究の成果を踏まえ今後の日本の医療制度の改革案を提示する。

  • 医療制度も気になる、ということで。

    国の医療費高騰は「人口の高齢化」による影響は
    ほとんどなく、むしろ「医療技術の進歩」が主な
    原因である、というのはびっくり。
    高度の予防治療はむしろコスト高。経済学的に見れば。

    禁煙をすすめると肺がん等が減り「短期的」に
    医療費は削減されるが、「早死にを予防」できた人は
    長生きすると当然何らかの病気にかかり医療費を
    使う上、年金受給の期間も延長し社会全体での支出は
    増える。人間の死亡率は「100%」なので。

    医療には市場の競争原理はむしろマイナスになることは
    米国メディケアが実証している。
    医療・教育、こういうものに「市場原理」はむかない。
    居酒屋さんががんばってますが。

    経済はつくづくトレードオフ(こちらをおせばあちらがひっこむ)
    であるなぁ、となっとく。というか全てにおいて物事は
    トレードオフですね。

  • 内田樹氏。

  • 日本の医学部を出てアメリカの大学で研究を続け助教授になった人の本。先進国の高齢化によって徐々に医療福祉の問題が深刻化しているが、この本を読むとアメリカの現状がひどく日本の医療はまだましだということがよく分かる。一般の報道は医師会=既得権益の温床、アメリカ=市場経済に基づいたより効率的な医療システムというものが多い気がするが、この本はそのような固定観念を見事に壊してくれる。経済学の本にありがちな難解な式やグラフのオンパレードではなく分かりやすい言葉で書かれている点も良い。

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著者プロフィール

1967年、大阪府生まれ。北海道大学医学部卒業後、国立大阪病院で臨床研修。1997年ハーバード大学より修士号(医療政策・管理学)、2002年ジョンズ・ホプキンス大学より博士号(医療経済学)を取得後、米国の疾病管理予防センター(CDC)と米国の3つの大学で研究と教育に従事。2020年から神奈川県立保健福祉大学教授。『日本再生のための「プランB」──医療経済学による所得倍増計画』(集英社新書)など、論文と著書の一覧はhttps://www.bkyoo.org/ を参照。

「2022年 『撤退論 歴史のパラダイム転換にむけて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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