- Amazon.co.jp ・本 (136ページ)
- / ISBN・EAN: 9784845910533
作品紹介・あらすじ
100枚のドローイングと文と音。中原昌也、初の「絵本」。
感想・レビュー・書評
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無意味な文章、ほとんど何も表象しない絵の数々が最高
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篠突く雨の中、東京・外苑前の美術書店「on Sundays」で開催中の《中原昌也展: IQ84以下!》に出かけ、充実した時間を過ごすことができた。この、他者への呪詛、世界と自己とを同時に唾棄せんとする不毛への意志は、私のような庸俗の徒には、毒婦の両眼のごとく異彩の輝きを放っているように見える。
そのすべてがA4のドローイング・ペーパーに描き殴られ、塗りつぶされ、引っ掻かれ、削り落とされ、貼り付けられた各種の塗料や胡粉、インクのたぐい、あるいは紅茶ティーバッグの糸らしき細々とした物質が、律儀に揃えられたサイズの紙片上に丹念に、じつに丹念に定着されている。そして、その紙片100枚は、大ぶりな壁画の描かれた壁面に、華やかにちりばめられている。
閉店間際の夜間、悪天候で店番がさっぱり暇なのか、店のスタッフ2人が話しかけてくれ、彼らがいかに中原を高く評価しているか、そしてその将来をいかに楽しみにしているかを、熱心に語ってくれた。もっともその言葉は、虚心坦懐なものではないだろう。作品を少しでも高値で私に購入させようという手管でもあるだろう。しかし、「小学生の時からウチの常連客だった」中原が、店にとって模範的な客であり、「そう、それを買って欲しかったんだ」と、店員を感激させ続けた恐るべき子供だった、という長期間の懐古によって補強された定評は、偽りなき「愛」の表現と同格であるだろう。
同展のカタログ(フィルムアート社刊 上の写真)によれば(そして店員たちの証言によれば)、中原は、文藝春秋社のゲストルームに籠もり、1ヶ月でこれら100点の絵をいっきに描き上げたらしい。小説家など物書きが拉致される缶詰部屋で絵を量産するというのも、前代未聞だろう。呪詛と唾棄の意志に染め上げられたはずの1枚1枚、1筆1筆からは、なぜかむしろ今、こちら側を攻撃するものは見つからない。意志と意図は異なる。ここにあるのは愛おしい絵だ。私は素直に、この100枚の絵に囲まれて、長い時間を過ごしていたいと思った。 -
中原昌也盛りだくさん!