洞窟壁画を旅して ヒトの絵画の四万年

著者 :
  • 論創社
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784846017477

作品紹介・あらすじ

"東京芸大で美術を専攻し、さらに養老孟司の元で解剖学を学んだ美術解剖学のスペシャリスト、数多くの著作もある布施英利は、以前からラスコーなどの壁画群を見て、絵画の根源を探ろうと考えていた。そして2017年夏、美術を専攻する息子を伴い、洞窟絵画を探る旅に出た。日本の古墳壁画や星野道夫のアラスカの写真などと比較しながら、絵画の本質は何かを考察する。旅の記録とその考察が文体を変えて交互に現れ、人はなぜ絵を描くのか?という問題に迫ろうとする。
"

感想・レビュー・書評

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  • 日本天文遺産に3件 キトラ古墳天井壁画など:中日新聞Web
    https://www.chunichi.co.jp/article/117324

    洞窟壁画を旅して | 論創社
    http://ronso.co.jp/book/%e6%b4%9e%e7%aa%9f%e5%a3%81%e7%94%bb%e3%82%92%e6%97%85%e3%81%97%e3%81%a6/

  • 布施英利著
    書名 洞窟壁画を旅して : ヒトの絵画の四万年
    書名ヨミ ドウクツ ヘキガ オ タビシテ : ヒト ノ カイガ ノ ヨンマンネン
    出版元 論創社
    刊行年月 2018.9
    ページ数 251p
    大きさ 20cm
    ISBN 978-4-8460-1747-7
    NCID BB26870483
    ※クリックでCiNii Booksを表示
    言語 日本語
    出版国 日本

  •  エル・カスティーリョ洞窟を見て、何より驚いたのは、それが、古い芸術を指し示すことのある言葉、「プリミティブ」というものとはまったく違い、洗練された線、洗練された形の把握、洗練された動きや空間の把握で描かれていることでした。墨で描かれたウシの顔の絵を見ながら、いまの美大受験生が木炭デッサンで修練した果てに獲得できる線や形のリズムと同じ造形性が、いや同じではなく、それより高いクオリティの描写がそこにあり、その造形的なテクニックに、いったいかつてのクロマニョン人は、どのようにしてその技術を身につけたのかと、こちらの想像力を超える世界が展開されていました。(p.32)

     絵画は、何万年もかけて進歩し、ヒトの絵はどんどんうまくなっていったのではなく、人類の絵画の登場の、そのいちばん初めから、いきなり完成された技法による、迫真的な描写の、とんでもなく「うまい」絵があったのだ。(p.42)

     橋を眺め、その橋を支える塔があまりに高いので、まさにそれが「塔」のように思えた。日本の古い五重塔のような塔が、いくつも並んで橋を支えている。
     そのときの自分は、なぜか京都の南にある醍醐寺の五重の塔の事を思っていた。塔は、大地と空を貫き、大地と宇宙をつなぐ象徴のような建造物である。(p.56)

     そこに「ない」、そういうものをイメージする力こそが、絵を描くことのできるヒトに備わった能力だというのです。
     息子が、初めて絵を描いたときには、「ない」フィンを動かす真似をして、幼い息子には、そこにフィンが見えていました。それと絵を描くことは、あと一歩です。そんなふうに、話し言葉が使え、イメージを想像する能力があれば、絵は描けるのです。(p.66)

     息子が初めて絵を描く前に、話し言葉があり、身振り(で示すイメージ)がありました。想像力もありました。そういう能力が、絵画を描く準備段階としてあり、そのイメージ能力が、殴り書きをして遊んでいたときの「線」と結びつき、絵画が生まれたのです。(p.67)

     生まれながらに目の見えない人が、ある年齢になったとき、医学の力によって、目が見えるようになることがあります、開眼手術です。そのとき、世界はどのように見えるかというと、じつは、ピントの合わない、色彩の湯のような光景に包まれるというのです。例えば、そこにクリーム色のぼんやりした塊が見える。手で触れると、テーブルであることがわかります。テーブルの上に白い小さなぼんやりがある。手で触れるとコーヒーカップです。そんなふうにして、ピントを合わない色の渦のような光景に包まれるのですが、やがてそこに徐々に像が結ぶようになり、だんだんと「見える」ようになるというのです。つまり、見るというのは、目だけでなく、脳の働きにも依存しているのです。(p.103)

     洞窟や石室という閉じられた空間、そこに描かれた動物(あるいは神獣)の絵であるという共通点など、アジアでこれらの古墳を作った人たちは、先史時代ヨーロッパの洞窟壁画のことを知っていて、似たような地形・自然の中に、似たような造形物を作った、と思えて仕方がありませんでした。しかも、古墳は人工的に造られた洞窟のような空間です。もちろん、それを知っていたはずはありません。あまりに遠い世界だからです。しかし、明らかに何かが「つながっている」と思えました。たった三ヶ月前にフランスを旅して見た風景です。それが、似ている、と感じる自分の記憶は確かです。(p.241)

  • なぜヒトは絵を描くのか?を求めて、息子と一緒に洞窟壁画を見る旅をした時の記録です。
    計6日間の旅について、1日ごとに地名・施設名・作品・作品を見て想起したこと・考えたことを綴っています。
    旅の記録としても読めるし、一連の考察を追いかけて読むのも面白いです。

    で、すごく面白いですが、、話題についていくの大変でした。
    さすが長く美術評論をされている方だけあって想起される作品やイメージが豊富です。読みながら地名や作品、用語を調べたりしてると、楽しい & 前に進まない & 当初の話を忘れていく、という。
    文章が軽妙で面白く読めるんですけどね。

    旅の記録として読むと、父子で美術旅とかいいな、ほのぼのだな〜とか、中世の面影を残した街なんてロマンチックだな〜とか、美術ウンチク面白いな〜という感じ。

    本で考察してる内容を追いかけると、ちょっと大変です。各所にバラバラと散在してるので。端折ってまとめるとこんな感じになるかと思います。


    ヒトはなぜ絵を描くか
    なぜクロマニョン人は絵を描いて、ネアンデルタール人は描かなかったか
    A
    絵画は何か(祈り・豊猟など)のためでなく、進化で獲得した脳・手・目などの能力によってふと生まれたものではないか。
    クロマニョン人は能力を獲得し、ネアンデルタール人は獲得できなかったため、両者に違いが生じた。
    その「絵を描く能力」のうち、もっとも重要な点を挙げると下記ではないか。
    (1)言語能力(そこに無いものでも言語能力をつかってイメージし共有する能力)
    (2)違うものを同じものと認識する能力(岩壁にこすりつけた炭や岩の粉をクマやシカに見る能力、実際の動物と彫刻の動物を同じものと見る能力)

  • カバーに穴が開いていることに、いま気付いた! おっしゃれ~! 「現代思想」で考古学特集を読んだ。洞窟壁画で新たに分かり始めていることがあるという記述を読んだ。そこへ本書が登場した。単行本。久しぶりの著者。購入すべきかどうか。書店で確認した。内容は思っていたものとは違う。しかし、男親と息子の2人旅。興味がわいた。こういう関係をちょっとうらやましく感じた。テーマを決めた旅はおもしろい。旅の記録はおもしろい。何に魅かれるのだろう。私もキトラ古墳の壁画は見に行った。3時間もならばされた。幼い子どもたちを引き連れて。石舞台の中にも入った。大きな岩には何か惹きつけるものがある。いつかフランスに行って洞窟壁画を見てみたいか? そこにたどり着くのが大変そうだなあ。いつかパリには行ってみたいけれど。(9.11があって計画が頓挫した。)本文を読みながら壁画のカラー写真を見たいと思った。後半にツイートの転載がある。写真を大きくできない。思わず、スマホをもってツイッターを開いた。2人ともフォローした。ちょっと検索すればすぐに写真は出てくる。便利というかなんというか。しかし、真っ暗闇の洞窟の中で、いくつもの絵が描かれている。高いところにも大きな絵が。どうやって描いたのか。長時間、あかりとりに火を燃やしていて苦しくはならなかったのだろうか。などなどと素朴な疑問がわく。著者がいうように、そこには死にまつわる何かがあったのだろうか。ところで、「ひとの かいがの よんまんねん」どう数えて十二音になるのだろう。

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著者プロフィール

解剖学者・美術批評家

「2021年 『養老孟司入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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