江戸の出版事情 (大江戸カルチャーブックス)

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  • 青幻舎
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  • Amazon.co.jp ・本 (119ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784861521010

感想・レビュー・書評

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  • 師直、春信、歌麿、写楽、北斎、広重、国貞。
    西洋にも影響を与え、現代でも愛される浮世絵。
    時折、保存状態のよい、はっとするほど鮮やかなものが「再発見」されることもある。
    浮世絵が隆盛を誇り、庶民に広く浸透したのは、これらが「印刷物」であり、多くの部数が「出版」されたからだ。今日、かなりの点数が残っているのも元の数が多いためだ。
    江戸時代という時代は、版元により、多くの書物が出版された時代でもあったのだ。
    本書は江戸文化の流れを印刷物という切り口で見ていくムックである。

    図版が多く、ぱらぱらめくってみるだけでも楽しい。
    時代が進むにつれて、徐々に印刷技術も上がり、色も多色に鮮やかになっていく。
    浮世絵だけでなく、お経や図鑑、句集や双六、読み物など、種類も多彩である。
    一大流行したのがお話に挿絵が入る読本・草双紙の類で、馬琴の「里見八犬伝」、種彦の「偐紫田舎源氏」などは大ヒットし、ものによっては1万部などというものもあったという。
    あまりの人気ぶりにお上に睨まれ、出版差し止めになったあげくに、作者が手鎖五十日、版元が財産没収などという例もあったというからものすごい。

    「北斎漫画」や「光琳百図」は、眺めて楽しいだけでなく絵を志す人に取っては教科書代わりともなったろう。
    名所図はガイドブックのような役目を果たし、旅ゆく人の手引きになり、旅に出られぬ人には旅のロマンを伝えたろう。
    役者絵・相撲絵はさしずめブロマイドや生写真のようなもの。
    そして美人絵は美しい女性にうっとりするのはもちろん、女性にとってはファッション誌のような役目も果たしたろう。

    浮世絵の技は絵師だけでなく、彫師、摺師の技術によるところも大きい。名は残らずとも作品は残る。浮世絵の技法は職人たちの矜恃の証とも言える。

    展覧会で、浮世絵や読本などを見ると、あれ、意外に小さいなと思うこともあるが、これも出版物ならではか。あまり大判のものになると数多くの部数を刷るのは困難だろう。
    和本の判型としては、大本、中本、半紙本、小本があり、前の2つは美濃紙の大きさが元になっており、現在のB判系列に近い。大本(19cm x 27cm)は美濃紙を半分に折ったもの、中本はさらに半分に折ったもの。半紙本(16~17cm x 24cm)は大本よりやや小さく、小本は半紙本をさらに半分にしたものとなっている。
    浮世絵は、大錦(26cm x 37cm)、中錦(26cm x 19cm)、細版(15cm x32cm)、柱絵(13cm x 75cm)といった判型があり、これらは大奉書紙や小奉書紙を元にした大きさになっている。

    出版文化が隆盛を誇ったのは、庶民の識字率の高さによるところも大きいという。
    読本の漢語満載の本文を読むのは相当の教養を必要としそうだ。
    判じ絵など、なぞなぞみたいな絵解きも結構頭を使いそうである。
    庶民の知識レベルはかなりのものだったのだろう。

    300年前の出版物がこれほど残っている国も珍しいらしい。
    今に残る出版物から、賑やかな江戸文化の片鱗が窺え、なかなか楽しい1冊である。

  • <閲覧スタッフより>
    近世・江戸の一大カルチャーとなった出版。嵯峨本のような私家版だけでなく、大衆に広く親しまれた様々な読み物、出版物があった。多彩な印刷物が飛び交った江戸の出版事情をたくさんの図版とともに紹介しています。

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    所在番号:023.1||ウチ
    資料番号:10199269
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  • 近世文学の参考資料として読みました。
    江戸名所はんじもの(p103)の答えが気になる。
    国立国会図書館の貴重書画像データベースで「重宣」で検索してみてください。

  • 江戸時代の印刷物がどれほどジャンル豊かで、人々はいかに娯楽に満たされ文化的な生活をしていたかがうかがい知れる。
    乳母草子の表紙一覧は見事。

  • 江戸初期から後期まで、出版物という枠に入るものを幅広く紹介・解説した本。
    書物・浮世絵から地図や双六などもカラーの図版付きで取り上げていて、分かりやすいです。錦絵にいたる刷り物の進化の過程や、どんな種類の本が売れていたのかなど詳しい解説がされてて勉強になります。

    一番楽しかった点は、たまに著者の私感やよく分からん比喩が書かれてるところかなー。はじめの方は結構固めで、眠くなりそうな文章が続くんですが、後半になるにつれてどんどん言葉の調子と内容が軽くなって、ノリノリになっていて笑えます。

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著者プロフィール

1960年、横浜市生まれ。1989年早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程満期退学。博士(文学)。町田市立国際版画美術館学芸員、昭和女子大学専任講師・助教授・教授を経て、早稲田大学文学学術院教授。2017年逝去。主な著書に、『文観房弘真と美術』(法藏館、 2006年)、 『江戸の出版事情』(青幻舎、2007年)、『後醍醐天皇と密教』(法藏館、2010年)、『日本仏教版画史論考』(法藏館、2011年)など多数。

「2021年 『仏教美術史展望 内田啓一論集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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