合理的な神秘主義‾生きるための思想史 (叢書 魂の脱植民地化 3)

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  • 青灯社
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  • Amazon.co.jp ・本 (328ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862280640

作品紹介・あらすじ

[内容紹介]
人間の自由の根源を探る類い稀な思想書
● 「東大話法」で注目された俊英による、「人類の智慧」の隠れたメインストリームの発見。
● 生きられることを「神秘」ととらえ、その生きる能力の阻害要因を解明・解除することー合理的な神秘主義ーを学問の使命とすべきことを提唱。
● フロイトや孔子、ウィーナーなど、人間社会の秩序を人間の「学習」能力にみる思想の系列。
 ローレンツ、仏陀、親鸞など、複雑な世界を生き「縁起」の思想に向かう系列。
 ポラニーの「暗黙知」からヴィットゲンシュタインの「語りえぬもの」など、複雑な世界を「知る」思想の系  列。親鸞からスピノザへ、スピノザからマルクス、フロムへの、スピノザを中心にした流れ。
● 西欧の思考枠組をこえ、ひとの魂にひびく思想を拓く注目作。

感想・レビュー・書評

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  • 人間が本来持っている学習回路をいかに発動し、
    そして維持し、よりよい人生を築いていくか?

    この問題意識を、多くの偉人は持ち続け、
    弟子に語りかけ、書物として残しました。

    ただし、権力者にとって、多くの人が学習回路を発動すると不都合な事態になります。民衆から、富を搾取出来なくなるからです。また、日本で、学習回路を持つ人間が多数出てきたら、日本の教育機構が、崩壊します。日本での近代教育の目的は、強い軍隊を作り上げ、戦争に勝つことでしたが、戦後は、それが会社に変わりました。経済戦争に勝つことです。

    日本の教育の根本には、学習回路を作動させない仕組みがあります。最近の教師による考えられない不祥事も、学習回路ゼロ、安定した所に所属したいという人間のこれまた病的な部分が発露した状態の一つの現れでしょう。こういった教育者の下で、犠牲になるのは、いつも弱者です。

    学習回路を多くの人が発動されると、非常に不都合なことになります。

    まず受験システムが崩壊します。これは、東大を頂点とする大学ヒエラルキーが崩壊することを意味します。すなわち、官僚の死であり、彼らの利権と生活が消滅します。また今の上場企業に無数にいる幹部層の存在意義がなくなります。受験エリートになって、組織での屈辱に耐え、人を潰しながら、やっと幹部になったのに、つまり仕事の目的は、出世にあり、内容をどうこうとか、職業人としての成熟なんて、どうでもよいと考えている人にとって、著者の合理的な神秘主義の復権と、学習回路の発動は、不都合なこと、この上ないからです。

    多くの日本人は、学習回路を発動しないままに、日本型成功モデルの終着駅である良い所属先を目指し、必死に寄生します。以前は、それは、経済的にペイする「生き方」でしたが、今は、所属先がなくなる可能性が出てきました。これがバブル崩壊以後の日本人の不幸の根源です。つまり、自分の生き方を、改めて決定しなくてはいけないのに、過去の成功モデルに、今なおしがみついているからです。

    それでどうなっているか?学習回路を持たない人間は、所属内部で凄惨な殺し合いをするようになりました。以前は、「仲間」でしたが、今は、「敵」か「利用する対象」のどちらかしか、なくなってしまいました。もちろん殺し合いとは、物理的なものではなく、精神的なものです、まるで、今の日本は、心の戦争が毎日勃発しているようです。

    所属内部の機能不全が、深刻さを増してきています。この20年の日本の衰退の根源的な原因が、個人、組織、社会の、それらを相関する学習回路の崩壊にあることは明白だと思います。また、これから、さらに酷い事態になるでしょう。

    機能不全に陥った所属先で、学習回路を持たない人がやることは、何でしょうか?
    まず自分より弱い人間を見つけて、潰すことです。
    そうすると、快感だと思っているのでしょうか?違います、不安で、不安で仕方ないから、そうせざるを得ないんです。ただ、巧妙にやれば、その事実をバレないと彼らはわかっています。
    規則を山のように作り、山脈のような書類を作るように、「仕事」します。

    他者の細かなミスを、ウォーリーを探せを読むように、徹底的に探します。見つけたら、ラッキーと思い、どう精神的に追い込むか、想像し、実行します。

    これらを学習回路が持たない同士でやり、学習回路の重要性を気づいた人がいたら、何としても所属先から追出す、これらも血眼になって行います。自分とは、違う人間を排除し、似たよう人間には、細心の注意を払い、権力がある人間には、利用価値を見極めて、従属する。所属することにしか価値を見いだせない人が、考えることは非常にシンプルです。だから、たちが悪い。

    この行為は、他人を傷つけるのは、当たり前ですが、自分自身をも実は傷つけます。彼らの内面は、ボロボロです。結果、日本の少なくない大人は、子供からすると、カッコ悪く、気持ち悪く、ダサく、かわいそうだと思われるようになります。また子供も、こういう考えが自分自身を傷つけるとわかってません、これを不幸のスパイラルと言うんだと思います。

    非常に残念ですが、今の日本で発生している凄惨な
    事に関して、手の施しようがないと思います。
    どんなに先人の遺産の智慧を身に着けても、
    梨の礫かもしれません。それでも、何とかしたい人が、安冨歩さんなのだと思います。安冨歩さんの独創的な思考には、毎回驚かされますが、
    孔子から、連綿と続く善く生きる方法の智慧を、
    これだけ体系的に示したことは、本当に凄いと思います。

    当たり前ですが、これを読んでも学習回路を開くことは、難しいでしょう。〇〇すれば、学習回路が開くという定型的な訓練方法は、ありません。誰もそれを具体的に明文化することは、できません。なぜなら、自分自身で問題提起を行い、それを何百回、何千回行い、たゆまね実践を通して悩み、苦しみ、それでも自分を信じて、問題提起を行わないといけないからです。それは、すなわち自分をより深く知ることが学習回路を開く十分条件ということです。よって、誤解を恐れずに言えば、どんなことでも学習回路を開くことは、可能です。サッカーだろうが、野球だろうが、ゲームだろうがです。

  • 感想
    なんか小難しい感じの本で、なかなか読みづらかったけど、本の進め方が斬新で面白かった。
    体系的にそれぞれの哲学を理解していないとなかなか著者の主張を理解するのが難しかったので、まだまだ勉強が必要そうだな、、

  • 人が感知できる先の可能性と限界を示した。誠実でいて勇気のある素晴らしい本。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/62357

  • ばらばらとしたメモ:

    興味のある思想家がたくさんのっていたので読んでみた。
    読んでみると安富先生がこどもだった頃に傷ついた魂とやさしい心の物語だった。
    愛着障害や毒親に関心のある人は読んでみてもいいかも。(私はどちらかというと関心ないほうだろうけど、読後不満はない。)

    P291 ヴィットゲンシュタイン「語りえぬもの」、ポラニー「暗黙の次元」、アリスミラー「真実」から
    「合理的な神秘主義」世界を支える神秘の力を前提とし、その発揮を阻害し抑圧するものを、合理的・科学的方法によって解明し、排除する。
    対照的な「神秘的な合理主義」は、学問的知識と称するものの客観性や確実性をアプリオリに前提し、それを身に着けた専門家が正しく、専門用語を駆使できない素人は発言権がない、というような思考方法
    P299 各家庭の親はこどもに社会認識の枠組みを押し付ける装置として機能 無意識のレベルに浸透
    して人々を見事に操作

    P89 スピノザ エチカ 神とはこの世界そのもの
    P168 ポラニー 客観的データの客観的操作によって客観的知識に到達するのが科学、という言説が迷信に過ぎない
    P205 フロム homo consumens 消費人
     抑圧と不安の代償として、過食、買い物中毒、アルコール中毒、消費欲

    P250
    ーヴィクトリアンスタイルがヒトラーのような人を生んだのでは
    P287 官僚的といわれる性質 生存の不安から来る確実性や厳密性への渇望 他人からとやかく言われないため、叱られないためのもの
    P290 確実で厳密な真理を求めた人々は、特定の傷を帯びている
    科学は便利なものを作り出すことで、コミュニケーションを歪め、環境を破壊してきた
    P300 仏陀の継承者である龍樹「戯論寂滅」 言葉を実体化するような使い方を排除し、縁起に沿って言葉を使え →幻影から脱出、真実へと向かう

    ーアリスミラー「才能ある人」が、子供時代に傷をおった魂には、バカ(リア充)はのびのびしていていいなぁ(悪気なく)、生命力や若さへの嫉妬のようなものが底流にある。(私はバカ自身なので、こんな風にひしひし感じることはない。)でも「極めて知的な人でも論理的厳密性に依存せず、当たり前のようになすべきことを自ら感じ取ることができる人」はいるらしい。(P286)
    これはへびの助言でりんごを食べたから仕方ない、楽園を追い出された原罪のようなもの、だろう。
    葛藤なく、誰かが苦しんで考え抜いた真理の表面だけなぞる白々しさしか持ちえないとしたら、それも恥辱の罰ゲームで永遠の0番、The Foolなのだから。
    ただやはり魂の傷については、才能や努力があったからこそ、もしかしたら誰にでもあるそういった躓きを越えたり、ばねにできたともいえる。

  • 読了して即、二周目オプショナルツアーに突入、の途中です(2019-08-16)。脳が快感に震える面白さだぜ…。感想文などおこがましい。思想史ガイドツアー的軽やかさの中を貫く安冨思想を味わう。それは安冨先生が「生きるため」に考え抜いたことなのです。主役はスピノザ『エチカ』で読む義務が発生した、自分などに歯が立つのだろうか。と思うならこれを読めばいいのです。安冨先生は頭がいいのでわかりやすく書かれていますのよ!(2019-08-06)

  • ・学習の喜びという人間の本性への注目が、孔子の思想の根幹。
    ・「人には皆、人に忍びざるの心がある。」
    ・身体反応が正しく作動し、それを認識することのできる状態が「仁」である。
    ・「世界は私一人のために阿弥陀によって与えられている」という受け止め方こそが、この世界をありがたく受け止めて、この上なく大切にする姿勢を生み出す。
    ・マルクスの思想の欠陥は、人間の理性に対する過剰な信頼と、Com-の呪縛のせい。
    ・もしどうしていいか判然としない場合には、それもまた如来の「妙巧」なのであるから、これまた虚心坦懐に「指令を待ちつつ満足」して迷っておれば良い。二項対立ではなく、二項同体の思考法。
    ・語りうるものによって全てを覆い尽くそうとする妄想。
    ・神秘的な生きる力を阻害するものが「暴力」。暴力の本質を明らかにし、それを排除する方法を考えるのが、全学問のテーマ。
    ・「生きている」とは、外界からの影響と外界への行為との、絶え間ない流れに参加するということ。
    ・ミルグラムの「アイヒマン実験」は、同じ状況下においても、きっぱりと拒絶できる、心の安定した「君子」が実在することを実証した。
    ・人間行動にとって本当に大切なことは、自分の状況をどのように把握するかである。
    ・子供が無条件に受け入れられておらず、子供が何らかの「良いこと」をした時だけ「生存キップ」が発行されるような家庭に「才能のある子」が出現する。
    ・子供の魂を守ること。子どもから子ども時代を奪わぬこと。これが多くの先人の知恵の教える所だと、私は理解している。

  • オプショナル・ツアーで読み終わりました。
    通しで読んだ後なので、なるほど、わかりやすかったです。
    しかし、まだまだ読み込みたい本であります。

  • 自分自身の人生に意味を求める。

    普通、そうだろう。

    著者も、自分のやっていることが正しいのかそうでないのか、自問自答しながら人生を送り、先人の思索に触れることにある。

    出会ったのが、ヴィットゲンシュタイン、ヴィットゲンシュタインとて、ある日突然ヴィットゲンシュタインになったわけではない。

    彼も、色んな先人の思索の影響を受け、「語りえぬもの」に出会った。

    著者の言う「合理的神秘主義」の系譜が仮説として述べられている。

    「魂の脱植民地化」から「合理的神秘主義」へ。

    著者の、今後の著作に注目して行きたい。

  • 合理的な神秘主義とは「世界を支える神秘の力を前提とし,その発揮を疎外を抑圧するものを,合理的・科学的方法によって解明し,排除する」姿勢を意味する。この観点から編まれた思想史は,いわば伏流であるが,自分にとっては馴染みやすいものであった。なお,本書には「オプショナルツアー」という仕掛が有り,テーマに沿ってパラグラフを行ったり来たりして楽しむこともできる。これもまた,新鮮な読書体験だった。

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著者プロフィール

東京大学東洋文化研究所教授。1963年、大阪府生まれ。
著書『「満洲国」の金融』『貨幣の複雑性』(以上、創文社)、『複雑さを生きる』(岩波書店)、『ハラスメントは連鎖する』(共著、光文社新書)、『生きるための経済学』(NHKブックス)、『経済学の船出』(NTT出版)、『原発危機と「東大話法」』(明石書店)、『生きる技法』『合理的な神秘主義』(以上、青灯社)、『生きるための論語』(ちくま新書)、『満洲暴走 隠された構造』(角川新書)ほか

「2021年 『生きるための日本史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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