中国のロジックと欧米思考

著者 :
  • 青灯社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784862281180

作品紹介・あらすじ

中国はこの先、どこへ向かうのか
中国の本質が初めて分かる! 権威主義体制の背景

・ 国内の言論抑圧、南・東シナ海への海洋進出、香港市民やウィグル・チベット民族弾圧──。中国にはなぜ、民主主義の芽が育たないのか。西欧と中国の「民主」観の違いをさぐる。
・民衆を政治の主体とする欧米に対し、民衆は優れた指導者に導かれるべきとする中国。儒教思想や「天下論」など、統治ヒエラルキーを支える独特の伝統的思想を解説。
・「イニシアティブ」(主導性)に対する強いこだわりと、大国としての「型」を重んじる外交姿勢。
・実体は多民族である「中華民族」概念を用いた民族主義の鼓舞=「漢化」。
・米国との二大国体制は〝新冷戦″へ向かうのか? 台湾への野心の行きつく先は? これからの国際社会に起こり得る問題について、理論的・客観的に分析。
・今後の米中関係の中で、日本のとるべき態度、果たすべき役割を考える。

感想・レビュー・書評

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  • 学術書ではなく研究者が今まで考えてきたことをまとめたような。
    中国の民主主義は西洋の民主主義とは異なり主権は民になく、階級は二分される。民本主義は保民や救民に過ぎない。中国の権威主義は、天安門広場の学生たちにもヒエラルキーが形成されたことから、中国人自身の政治文化のなせるわざかも。過渡期的な体制ではなく、中国の長い歴史で一貫して権威主義だった。国家、民族、秩序について、特に習近平政権から漢化としての愛国主義の傾向が強まっている。天下という概念や国境や法という概念の乏しさ。中国の特色あるの原型である中体西用論について。イニシアティブを重視する特徴。虚と実の外交行動。利を重視した韜光養晦からG2という型の外交になった現在。東アジア共同体論から一帯一路建設となった中国の影響圏建設。習近平の頂層設計。

  • 「脱亜入欧」をアンラーニングするべき転換点に来ている
    中国の伝統では士庶の別があり治権は士しかないといっても先進民主主義国の国民も政治に意志を反映する機会はほとんど選挙くらいではないでしょうか。誰でも議員になれるように誰でも庶から士になれます。そして庶が認めるからこそ士が治権を持ちうるわけなので士は庶を完全に無視して行動することはできません。科挙官僚だろうと反乱を起こされれば殺されてしまいます。究極的には君主制ですら権力の抑制はあります。
    「閉鎖的な村落共同体」とありますが、戒能通孝や旗田巍を代表とする現地での調査・研究により伝統中国に「固定的」な「村落共同体」というものは存在しなかったということが学会の常識になっているようですが? そして程度の差はあれ村落の自治くらい前近代の日本にも、いや、全世界にも存在していたと思います。
    烏坎村は中国国内の情報を見ると外部の反華勢力に操られたものとしていますね。また外部のメディアが扇動・画策・演出するおそれがあるとしているみたいですね。そして烏坎村に取材に行った記事があってマンション建設中ということで写真が載ってました。本当かどうかは知りませんが、西側(日本含む)の情報だけで判断するのはどうなんでしょう?
    台湾が実質的に中国本土の支配を受けたことはないとありますが、1885年に台湾省に昇格させ、李鴻章の部下を巡撫に任命し、直接統治に切り替えましたが? また「化外の民」と言われていたのは「生蕃」であり、オーストロネシア系の原住民族のことですが…… 清朝が台湾を「化外の地」などと主張したことはありません。教化に服した「熟蕃」と「生蕃」が区別されていただけです。それに当時「琉球」は日本領ではなく、日清に両属していました。日本が一方的に琉球の独立を踏みにじったのです。日本の台湾出兵は日本の一方的な日清修好条規の無視、条約無視という見方もできます。そもそも台湾自身が「大陸反攻」を唱えていたことを忘れないでください。国民党は依然として存在しています。台湾に一理あるとするならば中国にも一理あるとしなければなりません。事情を知っているのか知らないのか知りませんが悪質な印象操作です。
    中国の現領土は清朝から継承したものであり、おおむね過去から連続した固有の領土です。「漢化教育」は日本固有の領土ではない土地(植民地)で行われた皇民化教育とは明確に異なります。従ってアナロジーは成り立ちません。それに日本も同化させてアイヌの文化を消し去りましたが?
    「私は国力が強い弱いという議論には馴染んでいたが、上か下かという議論はあまり考えたことがなかった」とありますが嘘つきですね。あなたは白人国家を上に見て崇拝し、アフリカを見下しているでしょうから。単に中国を認めるのが癪に障るだけでしょう。
    九品官人法は北魏ではなく三国時代の魏で始まった制度ですが……ミスリードはやめてください。
    国際社会の声(アメリカの声だけではない)とありますがここでの「国際社会」は西側諸国を指しているのでしょうから「アメリカの声」と何が違うのでしょうか? 中東イスラム諸国、中央アジア、インド、東南アジア、アフリカ、中南米諸国、ロシアが入っていない「国際社会」になんの意味があるのですか?
    私の見るところ言いにくいですが明らかに中国が世界の覇権を取ると思われます。どれほどの人が気づいているのかはわかりませんが。でなければなぜあれほどアメリカは必死なのでしょうか? アメリカほどの情報収集能力、情報分析能力をもってすれば当然わかることなのでしょう。仔細に見ていくと中共政権の有能さが恐ろしいです。世界で一番有能な政府なのではないでしょうか。世界最貧国の一つで日本の数分の一以下だったGDPを日本の4倍以上にした事実だけで明らかに有能だと思いますが。別に統計上の話だけではなく、都市部を見ても発展していることは否定できない明白な事実です。トーマス・オーリックの言うように過小評価されています。正直敵を過小評価する意味がわかりませんが。
    アメリカによる国際秩序より中国による国際秩序の方がよっぽど世界は平和になるとしか思えません。気づいていないのは西側諸国、特に日本だけではないでしょうか? 直近で言えばアメリカが遠因のウクライナの混乱があります。他は詳しくはチョムスキーの著作でも読んでください。中東イスラム諸国などはおそらくとっくに気づいていると思います。散々煮え湯を飲まされていますしね。だからウイグル問題の離間策にも冷淡なのでしょう。
    中国が中国の「特殊性」を強調するのを批判しておいて、中国が「普遍性」にもとづいて主張するのを「西欧出自」の概念や枠組みを使っているのだから無理筋だと否定するのは批判のための言説でしかありません。どうしろと?
    西洋が築き上げてきたものが盲信的に「普遍的」で「中国モデル」「中国的秩序」が一方的に「特殊」であるという決めつけがおかしいと思います。たまたま西洋が過去に世界中を植民地にして世界に押し付けただけです。仮にイスラム世界が産業革命を起こしていたらイスラム的秩序が世界の「普遍的」なものになっていたでしょう。
    言論が自由なはずのアメリカでウクライナに至るまで一向に世界に紛争を撒き散らす行動が変わらず(チョムスキーの活動の意味はあったのでしょうか?)、一方言論の自由のないはずの中国で明らかによい方向の大規模な政策変更である改革開放が行われました。政権批判できるかどうかと(よい)政策変更が行われるかどうかはあまり関係ないことがわかります。言論が自由であるかどうかではなく、ちゃんとフィードバックされるかどうかが重要なのだと思います。言論が自由でも政府がそれを聞く気がないのなら自由に何の価値があるのでしょうか? 自由でも聞いてくれないのなら国民は発言しなくなると思います。自由がないのと変わりません。
    香港ばかり問題にしていますが同じ特別行政区のマカオはどうなっているのでしょうか? 単なる推測ですが香港の民主化勢力に西側が介入していて問題を複雑化させているのではないでしょうか。独立派もいますし、中共中央も分裂だけは避けたいと思っているはずです。マカオの民主化要求は存在しないのでしょうか? そもそも自由に亡命できるのですからそんなに深刻な人権侵害が行われているのならなぜ香港から出ていかないのですか? 香港人は英語ができる人が多いでしょうし海外でも困らないはずです。
    昔の日本の政治家は真の人格者であり真の政治家でした。中国が戦後賠償の請求を放棄したことを日本の恥に思い、ODAという形で償うことにしたのです。また、六四天安門事件のとき中国を孤立させてはならないとまっさきに制裁から抜けて中国と世界との中立ちになりました。このような君子の徳を備えた真の政治家が現代日本に存在するでしょうか?
    「92年コンセンサス」「一つの中国、各自表現」をもとにした「中華連邦」のアイデアはいいと思います。そこは同意します。

  • 中国の権威主義は儒教思想に支えられていると分析。これと中華思想など多彩な背景がありそう。
    しかし、今日では、「大一統」(『春秋公羊伝』より)のもとで、「漢化」が進められ、民族統一、文化統一、領土統一を目指すようになったが、これは、台湾・香港・チベットなどは隷属を意味することにもなるという指摘もある。
    小さな本であるが、一筋縄ではいかない大きな問題に取り組んでいる。

  • 日本は欧米思考になったかというと、専制主義的秩序を志向する考え方が根強い。
    習近平体制は、過去の中国的思考への回帰の側面もある。
    本書は、日中両国の現状を考えるうえで有益な材料を提供してくれる一冊である。

  • 東2法経図・6F開架:312.22A/A42c//K

  •  本書を通じ、中国は国内統治でも国際秩序観でも、伝統とりわけ儒教の影響を強く受けているとの視点だ。国内では上が指導する「民主」や権威主義。対外的には、「国民国家」よりも、国境線が曖昧な、ヒエラルキーを前提とした「天下国家」。書名に即して言うなら、かかる中国の思考は、制度や手続きに立つ西洋的思考とは異なる。
     著者の論を理解しつつも、どこまで中国固有でまた不変なのかはかすかに疑問に感じた。当面は変化の兆しはないにせよ、80年代や胡錦涛時代は今よりは自由があったはず。また本書にある一帯一路のような「影響圏」建設の試みは、中国に限らず対外拡張を企図する国には共通ではないかとも思う。

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著者プロフィール

早稲田大名誉教授。1947年生まれ。
早稲田大学卒業、一橋大学大学院博士課程修了。社会学博士。外務省専門調査員として北京日本大使館勤務、早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授等を歴任。
専門は、中国政治、東アジア国際関係論。
著書『中華人民共和国史 新版』(岩波新書)、『中国政治の社会態制』(岩波書店)、『「中国共産党」論』(NHK出版新書)、『日中対立』(ちくま新書)ほか多数。

「2021年 『中国のロジックと欧米思考』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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