- Amazon.co.jp ・本 (233ページ)
- / ISBN・EAN: 9784863100978
作品紹介・あらすじ
永遠の愛情を宿命づけられた王朝随一の歌人の生涯。
感想・レビュー・書評
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冥【くら】きより冥き道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山の端【は】の月
和泉式部
日記でも知られる平安朝の歌人和泉式部。その伝記小説を、このたび水原紫苑が書き下ろした。古典に造詣が深く、新作能の脚本も手がけている水原ゆえ、章立てが「序破急」であるのもうなずける。
あとがきによると、本書を書いたきっかけは、恋人が亡くなったことだという。恋しい人を失って初めて〈恋〉そのものを思い詰め、また、恋の果ての孤独にも気付かされたのだろう。そんな水原の吐息まで伝わってくる小説だ。
和泉式部は「浮かれ女【め】」とも称され、恋にまつわる話題も多く残している。
白浪のよるにはなびく靡【なび】き藻【も】のなびかじと思ふわれならなくに
男性からの誘いになびくまいと思うのだが、と女ごころが揺れている歌だが、相手は為尊【ためたか】親王と解釈されている。皇太子に近い高貴な親王と恋に落ちた時、和泉式部は夫と一児のある身だった。道ならぬ恋のために父からは勘当され、しかも親王は20代の若さで病死してしまう。
悲嘆に暮れる和泉式部が次に恋に落ちたのは、亡き人の弟宮である敦道【あつみち】親王だった。その劇的な運命は、2人の間で交わされた贈答歌からも推察できる。
7月。平安期には、七夕の夜は彦星と織り姫に遠慮し、夫婦でさえ会わないのが習わしだった。だが、敦道親王は織り姫を装った女性の姿で、式部のもとを訪れた。
そのような道ならぬ恋も経た和泉式部の代表歌が、掲出歌。「冥」の2字が重く、切ない。水原いわく「愛の向こう側にあくがれる、この世ならぬ魂を持った女」。
(2012年7月1日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示