モンキービジネス 2010 Winter vol.8 音号

著者 :
制作 : 柴田 元幸 
  • ヴィレッジブックス
4.14
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本棚登録 : 60
感想 : 3
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863322165

感想・レビュー・書評

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  • monkey businessは毎号手にしているけれど決して柴田さんの期待するような隅から隅まで読みつくすような真面目な読者ではない。手元に届いてからまず読むのは川上弘美と岸本佐知子の連載でありその異なる妙な感じにひゃあとうっとりしその後に徐に西岡兄妹の描くカフカの世界を眺める(読む?ではないと思う、多分)。一つ残念なお知らせが書いてあり西岡兄妹とカフカのコラボレーションは今号でお終いとのこと。ああ残念。

    この号は音号とのことで音にまつわる短篇だとか断片だとかあちらこちら行きつ戻りつ読み漁る。そうして満足したところでちょっと頭を切り替えて柴崎友香の短篇を読む。

    『西川さんの長い長い髪はしゃがむと砂利の地面に先が着いていたが、気にする様子もなく、薄緑色の四角い小皿を裏返して見ていた。「どういうのが好きなんですか?」「緑色ならなんでも」』-『海沿いの道』

    何故だろうこんな何気ない一言に虚をつかれたような心持ちがするのは。ああだから柴崎友香は止められない。

    作家本人がコンサートに行って難聴になった話はどこかで読んだような気がするし主人公がコンサートに行く話も読んだことがあって柴崎友香の音楽好きはインプット済みだけれども「音」と柴崎友香の本に漠然と期待しているものは自分の中では上手く結びつかなくてどうして音号にレギュラー陣ではない柴崎友香が書くのか少し不思議だなと目次を見て驚きつつ疑問符が頭の中に沸いた。確かにこの短篇でもコンサートで難聴になった主人公が出てくるしあちらこちらに音そのものの描写がある。でもやっぱり柴崎友香の描写したものはみんなみんな写真のようになってしまう。

    これは考えてみれば本当に不思議。だって言葉は文字として紙面の上にあるけれど頭の中では確実に音になっているという実感があって(もちろん視覚が立ち上がらせる意味も同時にあるのだけれど)その音を聞きながら読んでいるのに印象として写真を眺めている時と同じような感慨に落ち着くのだから。しかもこの短篇では音のことを描いている場面も音は聞こえつつも結局は風景を構築する要素に落ち込んでいって最後には描写された絵が浮かぶ。

    これは連作としてまだまだ繋がっていく小説の一部なんだろうか。だとしたら相当嬉しいけれど。

    ひとつ嬉しいお知らせは次号から高野文子が描く(書く?)とのこと。楽しみ。

著者プロフィール

1954年生まれ。東京大学名誉教授、翻訳家。ポール・オースター、スティーヴン・ミルハウザー、レベッカ・ブラウン、スチュアート・ダイベックなどアメリカ現代作家を中心に翻訳多数。著書に『アメリカン・ナルシス』、訳書にジョナサン・スウィフト『ガリバー旅行記』、マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒けん』、エリック・マコーマック『雲』など。講談社エッセイ賞、サントリー学芸賞、日本翻訳文化賞、早稲田大学坪内逍遙大賞を受賞。文芸誌『MONKEY』日本語版責任編集、英語版編集。

「2023年 『ブルーノの問題』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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