ひかりの針がうたふ (現代歌人シリーズ31)

著者 :
  • 書肆侃侃房
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本棚登録 : 41
感想 : 1
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  • Amazon.co.jp ・本 (144ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863854406

作品紹介・あらすじ

光漏る方へ這ひゆくひとつぶの命を見つむ闇の端より

早朝の水質検査が終わるころ
斜めに差してくる幾本もの光
まっすぐ歌がやってくる


【自選5首】
言葉を五つ児が覚えたるさみしさを沖の真闇へ流して帰る
生なべて死の前戯かも川底のへどろ剥がれて浮かびくる午後
詩が僕を訪ねないので浜を這ふ蔓菜に死者の記憶を語る
うみそらの澄みゆく朝に切る舵の肌寒を妻と分かちたきかな
海沿ひに二年を生きて去るわれへ朝の汽笛は低く響けり

感想・レビュー・書評

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  • 第26回若山牧水賞受賞作品
    表紙はちぎり絵で海を表現しているのでしょうか
    略歴は以下の記事が詳しいので載せておきます
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/146634

    街を詠うのがとても斬新で、私も知っている福岡の地名が出てきてこのように歌にできるんだと驚き真似をしたくなった 
    早速購入することにした

    今まで読んだ歌集で母が子を詠う歌は多いが父が子を詠うものは距離を感じるものばかりの印象だった
    黒瀬氏の歌は子をどっぷり慈しむ歌で眼差しがとてもやさしい

    子どものうたで特に好きな歌
    麦茶呑みくだしてかあ、と息をつく乳児よ人となれ少しずつ
    鼻よりも腹たかだかと湯上りの児は駆けゆけり父より母へ
    よその子に手を振られ去る保育所に吾児は必死に塔を築けり
    あけてはやくあけてとピオーネ一粒を児に手渡され始まる今日よ
    てんたうむしさんおきてーと薄明のちいさなる死へ児は呼びかけつ

    子どもの様子が動きとともに想像できてこちらまで育児をしている気分

    美しき谷あれあまたそそがれし物質の名を怒りにかへて
    防護服まとひて歩む汚染土の線量をふと告げ難きかな
    先客の名を隠しつつ鉛筆を吾に渡せりスクリーニング受付

    地質調査のようなお仕事をされていたそうです
    現地での切迫した状態が短歌で切り取られて迫力があります

    みづくらげただよふ博多湾の朝流されてゆく世間の方へ
    水張田に空沈みをり福岡の夏出でて富山の夏へと入りぬ
    西鉄は夜へと吾を運びゆく履歴書を書く男とともに

    地名があるとさらにその情景の輪郭が強まるような印象
    街の匂いや風を感じることができるような気がする

    巻末の『博多湾の朝について』はエッセイのような私小説のような幻想的文体でとても好き。
    裏表紙は測量の機器らしきものと著者。

    • 5552さん
      ベルガモットさん、こちらでもこんばんは!

      前書かれていた黒瀬珂瀾さんの歌集、お読みになったのですね。
      黒瀬さんの子供の短歌、素敵です...
      ベルガモットさん、こちらでもこんばんは!

      前書かれていた黒瀬珂瀾さんの歌集、お読みになったのですね。
      黒瀬さんの子供の短歌、素敵です。
      ああ、子供ってこんな感じ、と、うそぶいてしまいそうになるほど、リアリティあります。育てたことないんですけど。
      リンク先の記事も興味深く読みました。
      一本道でいかない、面白い経歴の持ち主なんですね。
      また、気になる歌人ができてしまった…。
      できれば、歌を読んで、これはこの歌人!と、わかるレベルまで、鑑賞力を身につけたいです。


      2022/07/23
    • ☆ベルガモット☆さん
      5552さん おはようございます!

      コメントありがとうございます!嬉しいです☆
      リアリティありますよね、子ども私も育てたことないです...
      5552さん おはようございます!

      コメントありがとうございます!嬉しいです☆
      リアリティありますよね、子ども私も育てたことないですが想像できちゃいます。
      溺愛っぷりと父である自分より母(妻)の方が慕われていることを詠うのも片想いみたいで切なさがぐっときます。
      どんなお声なのか気になる歌人です。

      おお、これはこの歌人!ってわかるとは、かなりのハイレベルですなっっ
      感動する歌いろいろあるのですが、記憶低下なお年頃でなかなか覚えられないです(汗)
      2022/07/24
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著者プロフィール

1977年、大阪府生まれ。春日井建に師事。歌集に『黒耀宮』(ながらみ書房出版賞)、『空庭』、『蓮喰ひ人の日記』(前川佐美雄賞)。未来短歌会選者、読売歌壇選者。富山市の願念寺住職。

「2021年 『ひかりの針がうたふ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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