月面文字翻刻一例

著者 :
  • 書肆侃侃房
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784863855458

作品紹介・あらすじ

『Lilith』『無垢なる花たちのためのユートピア』など、そのみずみずしい才能でいま最も注目される歌人・作家、川野芽生。
『無垢なる花たちのためのユートピア』以前の初期作品を中心に、書き下ろしの「天屍節」、「ねむらない樹」川野芽生特集で話題となった「蟲科病院」など全51編を収録した待望の最新作品集。


円城塔さん推薦!
「誰もが探していたのに見つからなかったお話たちが、こうして本に育っていたのをみつけたのは、あなた」

感想・レビュー・書評

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  • 短歌7首連作 ヘレネ、手をつないでいて。 (川野芽生)|怪獣歌会|note
    https://note.com/quaijiu/n/n059601a31aaf

    『月面文字翻刻一例』川野芽生|日本文学|書籍|書肆侃侃房
    http://www.kankanbou.com/books/novel/0545

  • 全51篇。
    正直すべての掌編が素晴らしいのだが、それでも自分の好みに★をつけてみた。
    キメになるフレーズとはいえないかもしれない「上陸」の二文が、なぜか気になって、というかこの一篇がなぜかしらひどく琴線に触れて、ちょっと鼻の奥がツンとするくらい。
    それこそ押井守「天使のたまご」の天野喜孝の絵で思い描かれる。
    この少女は確かに少年期の自分の中にいたし、中年となった今も隠れている気がする。

     ◇Ⅰ 月面文字翻刻一例
    月面文字翻刻一例
    月の鱗粉
    水死
    月の夜に ★《信じてください。狩られて殺されるのはわたしのほう。萎れた花綵のように捨てられるのはわたしのほうです》
    闇の夜に ★《角からとれた薬を飲んだ娘たちはいつか角の生えた少女を産む》
    廃世
    月よりもやすらかに
    闇の夜に貴方は
    やわらかい兄
    遠き庭より
     ◇Ⅱ 眠られぬ夜と昼のための物語
    不寝番
    みどりの狼
    陽宮
    シメール、帰還兵
    上陸 ★《このようにして少女は水から一人の透き通った友人を作り出したが、形を持ったのは一本の腕だけであって、陸へ上がった体の大部分は不定形のままであった。崩れやすいその手を少女はそれから二度と離すことがなかった》
    鳥と男と
    棲まうもの
    塔 ★《こんなお話があるわ。龍退治の勇者のお話。とっても短いんだけど》
    黄金の鬣
    火とカサンドラ
     ◇Ⅲ 本盗人
    本盗人 ★《本の中でこの本と混ざりあいたいんだ》
    花兵
    水墓
    多情
    砂の両手
    ものがたりたちの森
    女の子たちは工場を出て
    薔薇の治世とその再来
    いつかゆく水辺へ
    星々の沈黙
    やまなみ ★《長い長い昼がそれでもようやく傾いていき、西の空の底には、死んでいく昼の、乾いた血の色が映っていた。ゆっくりと、もの憂げに、なぶり殺されていくような昼の終わりだった》
    雑草のように
    楽園より
    人形遣い
    水宴
     ◇Ⅳ 桜前線異常なし
    ごっこ遊び ★《「この子たちに帰る家はないの」》
    雑踏の中で
    抽斗
    砂味
    雨の降る場所
    柘榴石の夜に
    夢のなかで
    夏より夏
    夏の雨降る ★《自分以外の何物にもなれないのだと、私は初めて悟ったような気がする。それはなんだか死に近いような感覚だった》
    昼の交錯
    眠りの地上階
    逃亡
    さよなら鳥たち
    桜前線異状なし
     ◇Ⅴ 蟲科病院
    天屍節
    蟲科病院
     ◇おぼえがき

  • 歌人でもある著者の掌編集。ベタな表現しかできないけれど、山尾悠子好きなら間違いなくこれははまれる!歌人らしく、言葉のチョイスに無駄がなくそぎ落とされた必要最低限の言葉数にも関わらずイメージ喚起力が凄まじい。単なる山尾悠子風ではなくこれはホンモノ。

    テーマごとにまとめられていますが、個人的な好みは圧倒的に「月面文字翻刻一例」の一群でした。「眠られぬ夜と昼の物語」も好きだったな。「シメール、帰還兵」の、オチはいまひとつだったけれどそこまでの過程がとても好き。

    短編と呼べる長さがあるのはラストの二編だけだけれど、これも良かった。「天屍節」がとくに良い。塚本邦雄や須永朝彦好きにもはまりそう。


    <月面文字翻刻一例>
    月面文字翻刻一例/月の鱗粉/水死/月の夜に/闇の夜に/廃世/月よりもやすらかに/闇の夜に貴方は/やわらかい兄/遠き庭より

    <眠られぬ夜と昼の物語>
    不寝番/みどりの狼/陽宮/シメール、帰還兵/上陸/鳥と男と/棲まうもの/塔/黄金の鬣/火とカサンドラ

    <本盗人>
    本盗人/花兵/水墓/多情/砂の両手/ものがたりたちの森/女の子たちは工場を出て/薔薇の治世とその再来/いつかゆく水辺へ/星々の沈黙/やまなみ/雑草のように/楽園より/人形遣い/水宴

    <桜前線異状なし>
    ごっこ遊び/抽斗/砂味/雨の降る場所/柘榴石の夜に/夢のなかで/夏より夏/夏の雨降る/昼の交錯/眠りの地上階/逃亡/さよなら鳥たち/桜前線異状なし

    <蟲科病院>
    天屍節/蟲科病院

  • 天使や薔薇、月や蟲をモチーフに人と人ならざるものたちの世界を描いた掌篇集。


    正直、山尾悠子の影響をモロに感じてちょっと面映ゆい。山尾さんよりはストレートに耽美的なモチーフを扱っているけど、文体の選択から幻想と現実の侵食関係などがそっくり。月の描写はカルヴィーノのオマージュだろうし、ダンセイニやボルヘス、ガルシア=マルケスも好きそう。
    幻獣としての火の描写がかわいい「不寝番」と、サイレント映画のような「人形遣い」が好きだった。完成度の点では最後に置かれた「天屍節」「蟲科病院」の連作が頭ひとつ抜けている。蟲と竜と天使とが、人の身体を媒介にして流転する世界。誰かに都合のいい”無害”になるべく蟲を取り入れた人間はやがて竜となり、天使のように堕ちていく。今はまだ自分のものにするまでこなされきってない感じだけど、耽美的なファンタジーにはっきりとフェミニズム的なメッセージを打ちだすのが、この人の核になっていくのかもしれない。

  • 川野芽生さんが書く文章から見る世界は
    やはり好きだと改めて思う
    幻想的な掌編小説を辿っていくと他作品にも繋がるイメージがあって
    その揺るぎない世界に安堵する
    「遠き庭より」と「桜前線異常なし」の各章が特に印象的で何度も読み返しています

  • 「月の面に文様を彫る仕事をしている」
    この一行でまず引き込まれる。美しく儚い幻想短編集です。月面をイメージした装丁も秀逸。本棚に置きたくなるデザインです。

  • 掌編サイズが川野芽生ワールドはちょうどいいのかもなあ。
    ほの暗いけど、どこかにあるこの世界とは違う、どこかで起きている幻想奇譚。

    個人的には「黄金の鬣」がかなしくて奇妙で、だけどいとおしくて好き。

  • 五部構成の掌短編集。幻想性を帯びた作品群はどれもが夜の静寂に波打つ波紋のように美しい音と図像を描いており、互いに連関しているようであり、独立しているようでもあり、読者の考察を誘惑する。読書好きにとって、「夜の夢」を鮮やかに切り出してくれる作品は好もしく、他の作品も読みたくなる。

  • 全く図書館でかりた覚えがなかったのだが、貸出可能の連絡が来たので素直に受け取り、読んだ。中身見たら何でかりたか思い出すかなと思ったけど、全然思い出せず。そういう巡り合わせで来た本なのだと思う。読めて良かった。

    主に寝る前に読んでたんだけど、お話の長さといい、幻想的な内容といい、冷たく澄んだ語り口といい、落ち着いた。わたしもたまに文章(と言っても日記)を書くけど、こういう表現と世界観は一生書けないだろうと思う。それくらい特別というか、全てが独特で美しく、時に冷たく恐ろしい。

  • アライさんのおすすめにて。
    短いお話が沢山。
    どれもこれも冷め冷めとして面白い。
    特に書き下ろしの天屍節が。
    こういう不思議な雰囲気は独特の年代に特に呼応する。

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著者プロフィール

小説家・歌人・文学研究者。第29回歌壇賞受賞。第一歌集『Lilith』(書肆侃侃房、2020年)にて第65回現代歌人協会賞受賞。小説集に『無垢なる花たちのためのユートピア』(東京創元社、2022年)、『月面文字翻刻一例』(書肆侃侃房、2022年)がある。2023年8月に自身初となる長編小説『奇病庭園』を刊行した。

「2023年 『かわいいピンクの竜になる』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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