ヘミングウェイで学ぶ英文法 2

  • アスク
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (335ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784866393049

感想・レビュー・書評

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  • 英文法の本なのに意表を突く売れ行きを見せる『ヘミングウェイで学ぶ英文法』の続編、と言っていいのだろうか、小説ではない、文法書のことを。売れたら続編を出したくなる気持ちはわかる。とはいえ、単に柳の下の二匹目をねらったわけではなさそうだ。ヘミングウェイの短篇をまるごとテキストに使って英文法を学ぶ、というアイデアに見合うだけの作品がまだこんなにあることに驚いた。前作に負けない読みごたえがある。

    章の構成を見ていこう。まず、最初に和訳が紹介される。すぐに英文ではなく、日本語で書かれた文章が来ることで安心して入ってゆける。採られているテクストが日本なら掌編小説とでも呼びたくなる短さなので、まるごとテクストにしても抵抗感がない。しかも、御承知の通り、ヘミングウェイの文章は平易で、一文が短いことでも知られている。

    次に、原文と「ここに気をつけて読もう」というページが左右見開きで出てくる。左ページに原文、右ページに「この文の主部はどれですか?」といった質問が揚げられている。ヘミングウェイの文章はほぼ基本的な語彙で成り立っている。難語句については右ページの下欄に説明があるので、いちいち辞書で引く必要はない。その後に質問に対する回答にあたる「『ここに気をつけて読もう』の解説」が続く。この解説が本書の勘所になっている。

    さらに、「ワンポイント文法講義」という、作品の中で使われている手法について要点を絞った講義がついている。文法講義という名前がついているが、これは文学講義といってもいいもので、ヘミングウェイが、なぜ、そのような書き方をしたか、それは作品にどのような効果をもたらしているかが事細かに論じられる。目から鱗といった感じで、これが面白い。文法を知ると知らぬとではこんなにも読む力に差がつくのか、とあらためて思い知らされた。

    これで終わってもいいようなものだが採り上げた短篇について一篇ごとに「作品解説」がちゃんとついているのが親切だ。たとえば第一章で採り上げているのは「インディアン集落」だが、この作品について、ヘミングウェイがインディアンに対して差別意識を持っていたような批評のあることを紹介したうえで、作品のモデルである作者の父が、当時としてはめずらしく白人もインディアンも差別なしに診療した事実をあげ、その説を否定している。

    おまけといっては何だが、コラムが付されているのも愉しい。「インディアン集落」はニック・アダムス物の一篇で、麻酔なしにインディアンの妊婦の帝王切開をする話だが、登場人物の一人でニックの伯父にあたる脇役のジョージに光をあてている。ジョージがインディアンに葉巻を進呈する場面があるのだが、そこから「ジョージおじさん=赤子の父親」説が浮上するのだ、と。インディアンの間では赤ん坊の父親は煙草を贈る習慣があるらしい。

    第二章のテクストは「三発の銃声」。これは「インディアン集落」の前日譚であり、二作を続けて読むことでより味わいが深くなる。前作にもあった少年が初めて「死」というものを意識する話である。第三章はトルコ=ギリシア戦争の取材でトルコを訪れていた当時のエピソードを綴った「スミルナ埠頭にて」。第四章はスペインのカフェに勤めるボーイ二人の考え方の相違を主題にした「清潔な明るい場所」。第五章は作家の息子の実話をもとにした「何を見ても何かを思い出す」。父と子の間にある齟齬を主題にしている。そして最後には、なんと「老人と海」のラスト・シーンが採られている。大サービスである。

    学生時代にサボっていたものだから、英文法には疎い。まあ、それを言うなら日本語の文法だってあやしいのだが。しかし、そんな自分でも、このシリーズはたいそう面白く読むことができた。なにしろ、短いながらもヘミングウェイの短篇が原文で読めてしまうのだから痛快しごく。とても自力では読めないものを、手取り足取り、気長に引っ張っていってくれるので、最後まで読み通すことができる。

    それに、テクストとして採り上げられている作品の質が高い。ヘミングウェイについては映画化された長篇などの印象でマッチョなイメージを持っていたが、『移動祝祭日』を読んでから印象がごろっと変わった。その後『こころ朗らなれ、誰もみな』や『われらの時代』を読むことでますます好きになっていった。予備知識なしに読む楽しみもあっていいが、文法といったふだんあまり意識に上せない硬質なものを梃子にして読むことで、また一段と小説を読む面白さを知ることができる。

    こんな本で英文法について学ぶことのできる今どきの若者が羨ましい。記憶力が劣化していない若い頃に出会っていたら、きっと英語のことがもっと好きになっていただろうに。記憶の方は長持ちしなくなったが、本さえあれば手許において好きな時に何度でも開いて読むことができる。前作『ヘミングウェイで学ぶ英文法』と併せて読まれることを推奨する。

  • 平易な語彙で書かれたヘミングウェイの短編を通じて、文法に関する知識を深めながら、「作品を読み通す喜び」を味わえる英語学習書。短編5作品と「老人と海」(最後の場面)の英文、和訳、文法等を収録。ポストカード付き。【「TRC MARC」の商品解説】

    関西外大図書館OPACのURLはこちら↓
    https://opac1.kansaigaidai.ac.jp/iwjs0015opc/BB40262957

  • ヘミングウェイの文体は一文が短く簡潔ですが、文法の理解が浅いと全て知っている単語なのに意味が分からない事態に陥ります。例えば"That's it"の解説などは非常に腑に落ちました。

  • かなり読むのには難しいが、文法の説明が素晴らしい。細かく丁寧に説明されているので記憶に残りやすいと思う。

  • 1よりも少し難しくなっているような気がする。文法事項もより詳細に説明されているようだ。

  • 19/12/17。

  • 【書誌情報】
    著者:倉林秀男
    著者:今村 楯夫
    版型:A5判
    本体価格 2,000円
    ISBN:978-4-86639-304-9

    [特徴]
    ●誰でも読み切れる短編作品5編(生前未発表作品を含む)に加え、名作『老人と海』のラストシーンも収載しました(短編作品は部分引用ではなく、全文引用です)。

    ●簡単な作品解説→和訳→「語注付き英文」(文法ポイント洗い出し)→「洗い出した文法ポイントの解説」→「文法講義」という構成。文法に関する知識を深めながら、「作品を読み通す喜び」をどなたにも味わっていただけます。「解釈のポイント」も丁寧に解説してあります。

    ●「文法講義」では「物語における進行形の役割」「従属接続詞的なhow」など、学校英文法の盲点になりがちなポイントを取り上げました。また、日本におけるヘミングウェイ研究の第一人者による作品解説およびコラムも必読です!
    https://www.ask-books.com/978-4-86639-304-9/

       [収載作品]
    「インディアン集落」(Indian Camp)
    「3発の銃声」(Three Shots)
    「スミルナ埠頭にて」(On the Quai at Smyrna)
    「清潔で明るい場所」(A Clean, Well-Lighted Place)
    「何を見ても何かを思い出す」(I Guess Everything Reminds You of Something)
    「老人と海(最後の場面)」(The Old Man and the Sea)

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著者プロフィール

1976年生まれ。杏林大学外国語学部教授。博士(英語学)。専門は英語学、文体論。日本文体論学会代表理事(2018 年~2020 年)、会長(2020 年~)、日本ヘミングウェイ協会運営委員。著書に『ヘミングウェイで学ぶ英文法』『ヘミングウェイで学ぶ英文法 2』『オスカー・ワイルドで学ぶ英文法』(アスク)『英文解釈のテオリア』(Z会)、『バッチリ身につく 英語の学び方』(ちくまプリマ―新書)などがある。

「2023年 『セミコロン かくも控えめであまりにもやっかいな句読点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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