人生に、上下も勝ち負けもありません 精神科医が教える老子の言葉

著者 :
  • 文響社
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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784866511238

作品紹介・あらすじ

焦り・落ち込み・不安がどうでもよくなる 読売新聞「人生案内」の回答者でもあり 45年間で10万人を診た精神科医が教える 「老子」の言葉 ・いつも人と自分を比べてしまう ・つねに「上か下か」というジャッジをするのが習慣になっている ・自分は損ばかりしている、と思っている そんなことで日々モヤモヤしている方は、 今すぐ、老子のことを知ってください。

感想・レビュー・書評

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  • 45年間、延べ10万人以上の患者と向き合った精神科医が教える老子哲学。
    精神医療の現場で、うつ病の患者に老子の言葉が刺さる経験をした著者が、「老子の言葉は心に効く」と考えた。精神療法では、認知行動療法、対人関係療法などの西欧由来の技法がメジャーであるが、西欧由来であるが故に「東洋の価値観や思想」に基づく日本人には適応しにくいと感じるケースもあるとのこと。このため、意義や効果が証明されている西欧由来の医療技法にも、やはり「日本らしいカスタマイズ」や「東洋思想に見合ったアプローチ」というものが必要。そうしたアプローチの一つとして老子哲学が期待できると著者は説く。
    そもそも老子とは古代中国の春秋戦国時代の思想家で、その思想は老荘思想として現代に伝えられており、同じ春秋戦国時代に端を発する儒教と双璧をなす思想である。これらの思想は、「上り坂の儒家、下り坂の老荘」といわれている。儒教は、社会の中で生きる術を教え、礼儀を重んじ、自らを厳しく戒めるような思想である。一方、老荘思想はそんな社会の外側になって、「まぁまぁ、それでいいじゃないか」という考え方である。このため、人生が上り坂でイケイケのとき、物事がうまく運んでいるときは、儒教に従って厳しめに自らを律していくとよい。しかし、人生が下り坂で、いまいち元気がない、そんなふうに行き詰まっているときは、老荘特有の「ゆるさ」や「自由気ままさ」に寄り添ってみてはどうかというのが、「上り坂の儒家、下り坂の老荘」という言葉の意味である。
    老子の哲学は、ある意味では「弱さを承認する思想」なので「甘えを認める哲学」ととられかねないところがあるのも事実である。しかし、老子の哲学は、物事の価値を判断しない・他と比較しない「ジャッジフリー」な哲学であり、うつ病にある極端な心的傾向(①劣等意識、②被害者意識、③完璧主義、④執着主義)を解きほぐす気づきを与える可能性があるとのこと。このため、本書では、「32の老子の言葉」を取り上げて、「ジャッジフリー」な考え方を紹介し、精神科医である著者が「意訳」ならぬ「医訳」をして、分かりやすく紹介している。
    (感想)
    私自身、心的傾向のうち、③完璧主義と④執着主義的傾向が強く、その結果、①の劣等意識を抱く様になった状態にある。このため、この書で紹介された老子の言葉のいくつかは、なるほどと頷かされるものであった。ただ、この思想を本当に自分のものにしていくには、日々の出来事の中でその思想を自分に言い聞かせることを積み重ねて、身に着けていくことが必要だろうと思った。このため、この書は他の認知行動療法の本と合わせて、何度でも読み返したいと思う。もともと、禅の源流の一つに老荘思想があること、また、太平洋戦争を終戦に導いた鈴木貫太郎元首相の愛読書が老子であったことから、老子には興味があり解説本を読んだこともあったので、本書もとても興味深く読ませてもらった。本書で紹介された老子の言葉の部分を、他の老子の解説本でも改めて読みなおして、深くその思想への理解も深めていきたいと思う。
    (紹介された言葉)
     本書で紹介された老子哲学のうち、私自身が心にとめた言葉は次のとおり。
    ・昆布の思考:自分は何も残していないと嘆く必要はまったくない。本当に優れた生き方をしている人は、自分の跡に、何も残していかないものだ。
    ・鏡の思考:“人に勝つものは力あり。自ら勝つものは強し。”勝ち負けという概念自体、あやしいもの。そのんなものに振り回されず、他人に向いた視線を、自分自身に向けてみる。
    ・時計の思考:“努めて行う者は志有り” 結果を出すことに執着する必要はない。「努力を続けている」という、それだけで十分に達成している。
    ・毒きのこの思考:“善人は不善人の師、不善人は善人の資なり” 「不真面目な人」「ずる賢い人」に腹を立てるのではなく、そんな人からも何かを学ぶ。キーワードは「ジャッジしない」こと。
    ・ミットの思考:“恨みに報ゆるに徳をもってす”
    ・めがねのつるの思考:“曲なればすなわち全し“ 人間がねじ曲がっているなら、ねじ曲がったままでいい。「できないこと」を嘆くより、「このままどう生きるか」を考えてみよう。
    ・幽霊の思考:地位、名誉、お金、評価を求める人は多いけれど、自分の身体を犠牲にしてまで、「手に入れなければならないもの」など何もない。
    ・塩むすびの思考:“足るを知れば辱められず、止まるを知ればあやうからず” 本当に足りていないのか?足るを知り、幸運を感じ、謙虚、感謝、一生懸命。
    ・愛猫の思考:“大道廃れて、仁義あり” ●●せねばというルールはない。
    ・茶碗の思考:「役に立つ」「役に立たない」なんて簡単には決められない。
    ・塩大福の思考:“その栄を知りて、その辱を守れば、天下の谷となる” 「成功と失敗」「栄光と挫折」の両方を知っているひとは、面白くて強い。「高み」しか知らない人は、じつは弱い。
    ・てるてる坊主の思考:完璧な準備をしたってうまくいかないことはある。よかれと思ったことが裏目に出ることもある。いつも、いつも「正しい因果関係」があるわけじゃない。
    ・鯉のぼりの思考:自然に任せて、ただ生きていけばいい。

  • つい比べてしまう思考に陥っていた時に、この本に出会いました。

    環境によって、評価や価値はコロコロ変わるものという言葉に救われました。大切なのは他人からの評価ではないなと。自分自身がどう行動するかが重要だと心に刻みました。

    『何も返ってこなくても、気持ちや行為自体が素敵なこと』

    『「尽くしてあげた」ということ自体、十分にすばらしいこと』

    『本当に強い人というのは、辛い境遇にあるときでも、どんなに落ちぶれていても、自分を見失うことなく、自然のままに生きていける人』

    『知っていることでも「知らない」と言っておくくらいでちょうどいい』

    自分にも他人にもジャッジフリーで生きていきたいと思いました。

  • 精神科医が解釈する老子哲学を、イラストも交えてわかりやすく<医訳>として解説する。
    現代の心の悩みの多くは<いつも他人と比べてしまう>ことにある。この悩みに対する有効は方法が、老子哲学を元にした<ジャッジフリー>という思考。
    他人とくらべて優劣をつけるのではなく、<無為>というありのままを受け入れることが現代には必要ではないかと提言する。
    [元気な時の孔子、いまいちの時の老子]というのにもとてもしっくり来た。
    読んでいると<あーこうやって力を抜いていいんだ>と心が緩んでいくのを感じる。

    ○本書で好きな思考の一部
    [昆布の思考]「あ、昆布の味だ」と言われてしまうようではいい仕事とは言えません。「なんか美味しいね」と言われてはじめて成功です。
    →優れた生き方とは無為自然に帰すること。何か、証を残すことを企てるようでは本物ではない。

    [鯉のぼりの思考]「楽しいも楽しくないもないよ。ただ風に吹かれてるだけさ。」
    →自然界にはそもそも「すべき」という意図はない。「なるようにしかならない」。自然に任せて生きることで十分ではないか

  • 自分の中では、ここ10ヶ月の中で1位と
    言いきれる様な良本に巡り会えたような気持ち。

    今の自分に全てがピッタリで、
    素直に心に言葉と例えがマッチした。
    ずーーーっと、頑張って頑張って、
    誰にも負けない、自分にも負けないと、
    ひたすらに努力努力努力し続けてきた人生で、
    ここに来て、ポキッと折れて、
    生きる意味を見失い、自己肯定感が下がり、
    恐らく躁鬱病の様な症状が出ていたから、
    本当にこの本に会えて良かった。

    若いうちは、それは逃げだとか妥協だとか、
    鬱なんて弱さだ、なんて言う側の人間だったけど、
    自分がそうなったらいかに辛いことか
    本当に過去の浅はかな自分に教えてあげたい。

    この本は、暫くメンタルがしっかり安定するまで
    すぐ手に取れる所に置いて繰り返し読みたいと思う。

  • 孔子が「どんどん向上しましょう」と上向きな思想に対し、老子は「降りていく人生のススメ」ではないだろうか。その二つの相反する考えには優劣はないと著者は「ジャッジフリー」というキーワードにして伝えている。
    「比べる」という行為は生きづらさを生む原因になる。学歴、容姿、収入、能力… 比べたくなるのは人間らしさかもしれないが、心が病んでしまう。「上善如水」という有名な言葉がある。水のように柔軟に形を変えるしなやかさがあり、どこにでもあることができるような在り方がとても善いと思えた。
    著者はうつ病の専門家だが、多くの人達に通ずる生きやすい生き方を、老子の思想を取り入れながら「モノ」に例えて伝えてくれている。

  • つい、ネガティブな思考になってしまう方におすすめです。

    「ジャッジフリー」という考え方。誰でも、誰かと比較したり、順位をつけたりしてしまいます。でも、それは状況が変われば変化してしまうこと、つまり相対的な価値だから意味がないとのこと。

    その通り! だけど、つい、順位や勝ち負けに目が向いてしまうのが人間です。

    ものごとの「結果」は、一瞬だけのもの。「過程」に費やした時間と経験は、結果以上の財産だと、私は思います。

    自分にない考え方だなと思った部分は
    「低いところに自分がいる、ということは、自分がいればそれだけで人を安心させる価値がある」
    というところです。

    なるほど! そのように考えると、誰にでも存在価値はあるというものです。

  • 30)本当に優れた生き方、業績、功績というものは後に何か遺物を残すというものではない。優れた生き方とは無為自然に帰するもの。何か証を残すことを企てるようでは本物ではない。
    36)人に勝つ人というのは権力、経済力、腕力がある。しかし本当に強いのは自分の弱さに勝つ人だ。
    44)美しい醜い、地位が高い低い...どれも他人がいてはじめて成立する相対的な価値であって大したことはない。なぜなら状況が変わったり運気が変わったりすればあっさりと変化してしまう。昔から聖人と呼ばれる人はそのような世俗の価値観に囚われて焦ったり何かを企てたりせずあえて何もしないという立場に身を置き余計な言葉や概念を振り回したりしない。

  • 『 自分は何も残せていないと思ったら
                 ーーー昆布の思考 

    ・・いい歳をして、「何者でもない」なんて、・・「自分の功績のなさ」を嘆いている人もいると思います。・・そんな時は「昆布」のことを考えてみてください。

    善く行くものは轍迹(てつせき)なし   老子

    ある昆布の職人さんの話、
    「あ、昆布の味だ」と言われてしまうようでは、「いい仕事」とは言えません。 「なんかおいしいね」と言われてはじめて成功です。

    まとめ・ほんとうに優れた生き方をしている人は、自分の跡に、何も残していかないものだ。 』

    精神科医の野村総一郎さんの医訳(著者自身が「意訳」ならぬ「医訳」と表記)した老子の言葉は、ユーモラスで分かりやすい。
    その優しいメッセージは、わたしのこころを温めて柔軟にしてくれました。

    昆布の他に、
    ○他人が気になったら、鏡の思考
    ○人と比べてみじめになったら、銅像の思考
    ○怒りがわいたら、スプーンの思考
    ○まわりがズルく思えたら、毒きのこの思考
    ○そわそわしたら、木の根っこの思考
    ○挫折したら、塩大福の思考
    ○「知ってる」アピールに疲れたら、マスクの思考
     等、(30以上の思考パターン)
     
    『思い込みをやめる「ジャッジフリー」の考え方』
    『悩める人が陥りやすい「4つの心的傾向」』も、優しい語り口とゆる〜いイラストですんなり心に入ってきます。

    疲れがたまると知らぬ間にネガティブになります。事を悪化させたりします。さらにイライラ・・・。
    そうなる前に、この『人生に、上下と勝ち負けもありません』を再読し、「くすっ」と笑いながら癒されたいなぁと想いました。更に、それを繰り返すことで、自然に、無価値感にさいなまれたら茶碗を、妬みを感じたら足湯を、周りから浮いてる気がしたらめがねのつるを、思い出して、くすくす笑いながら"まぁいっか"と流せるようになれそう!
    それほど、解釈がゆるくて優して愉しいのです。
    わたしは、ともて優しい良い本はだと想いました。




  • 「元気なときの孔子、いまいちなときの老子」

    うつ病で悩む患者さんを診察してきた精神科医の立場から書かれた本。
    多くの人が抱く悩みや不安に対しての治療の一つとして、老子の教えを取り入れており、著者の解釈も含めてわかりやすく紹介されている。

    特に、気持ちが落ち込む大きな理由の一つとして「いつも他人と比べてしまっている」ことを挙げていて、これには非常に共感した。
    自身、SNSで友人のキラキラした日常をみて、「それに比べて自分は味気ない毎日だ…」となったり、
    職場で能力があり活躍する同僚をみて、「自分は役に立ててない…」と感じることもある。

    こういった感情に対し、著者は老子の教えを引用して、「ジャッジしないことの大切さ」について述べている。

    印象に残った思考は、
    ・他人が気になったら鏡の思考
    →勝ち組、負け組、というのは相対的なもの。安易に振り回されず、他人に向いた視線を自分自身に向けて見る。

    ・絶望したら塩むすびの思考
    →ほんとうは十分なのに、自分で「足りない」って思い込んでるだけかもしれない。
    一つの事実に対して幸運か不幸かと感じるのは自分次第


    老子の、無為自然(自然のまま、流れに任せて生きるのがいい)という考え方は、
    でも現実はそんなこと言ってられないよ!
    と言いたくなる人もいる気はするが、
    それでも自分にとっては肩の力が一つ抜けた気がして、読んで良かったと思う。

    装丁や挿絵にも癒されたので、気持ちが落ち込む日が来たらまた再読したい。

  • 特に悩みはないけれど、野村先生が好きなので、新聞広告きっかけに購入して、読みました。
    普段の小さなストレスから、人生の目的といった大きなことまで、どうつきあったらいいか、大変参考になりました。
    本の装丁や挿絵も素敵で、楽しく読めました。

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著者プロフィール

日本うつ病センター副理事長、六番町メンタルクリニック名誉院長。1974年慶應義塾大学医学部卒業。藤田学園保健衛生大学助手を経て、米国・テキサス大学、メイヨ医科大学精神医学教室留学。藤田学園保健衛生大学精神科助教授、立川病院神経科部長を経て、97年より防衛医科大学校精神科教授、2012年より防衛医科大学校病院・病院長、2015年より現職。著書多数、学会活動も積極的に行っており、日本のうつ病・双極性障害治療における第一人者の一人。

「2021年 『ウルトラ図解 双極性障害』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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