映画を見ればわかること

著者 :
  • キネマ旬報社
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感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (357ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784873762517

感想・レビュー・書評

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  • 心に残ったのは
    大林宣彦監督の『なごり雪』(02年)
    のことを書いた「『なごり雪のことなど』」。
    太田裕美の「木綿のハンカチーフ」の
    その後みたいな話

    P165
    二十八年ぶりに戻ってきた彼は
    その大きさを思い知らされ、
    愕然とする。
    自分が捨ててきたものの重さを知り、
    苦い思いにとらわれる

    -----------------
    同じ題名で富樫森監督の『ごめん』(02年)
    のことも書いていて印象的だ

    P168
    この女の子(櫻谷由貴花)は、
    両親が離婚していて、どこか寂しげなところがある。
    よくひとりでいる。丘の上とか、神社とか、
    ひとりになれる場所を持っている。
    そして、彼女もまた男と子たちと
    同じように自転車に乗る。
    坂道を、悲しいことを振払うように疾走する。
    ひとりでいた彼女が、最後は、
    男の子と二人でいっしょに
    自転車で坂道を走り下りる。
    元気いっぱい、みごとな幕切れである。
    大林宣彦監督の『転校生』がそうだったように、
    自転車はいつも思春期の子供たちを
    輝かせてくれる
    -----------------------
    それともう一つ
    「『ネプチューンの馬』のことなど」で
    井口奈己監督の『犬猫』について
    かいているところ

    P100
    現代社会の大きな問題は、
    人間はじめ周囲への距離をどう取るかだが、
    この映画は、距離の取り方がうまい。
    友人に対しての、男友達に対しての、
    あるいは町の風景に対しての、
    そして、自分自身に対しての。
    引きこもりの「ひとり」でもないし、
    といってべたべたした「ふたり」でもない。
    ぞの微妙な中間

    「町の風景」とか「自分自身」との距離感、
    というのが面白い
    --------------------
    P290
    最近の日本映画は
    精神異常者、快楽殺人者、セックスマニアなど
    歪んだ人間があまりに多くて
    年齢を取って来た人間としては
    ついてゆけなくなってしまう

  • 古今東西の作品を実に判りやすく魅力的に解説しています。黒澤、木下恵介、スピルバーグ、ビリー・ワイルダーそして現在の若い日本の監督たち。映画は本当に良いものですね。もっともっと見たくなります。宮部みゆきは小説の中で映画を随分取り上げているとのこと。宮部みゆきと乙川雄三郎の2人を、藤沢周平を継承する作家として紹介していることも嬉しいですし、宮部文学最高のヒロイン「火車」の新城喬子が最後に登場するシーンは十分にドラマティックであり、喬子のイメージが壊れるので映画では絶対に見たくない!というコメントは全く同感でした。

  • 「キネマ旬報」に書いているコラムを集めたもの。好きなことを書いていいと言われていても、そこは映画雑誌だから当然映画の話が多いが、本の話や音楽の話もある。章立てが短くて一つの話題にあまり深入りしないフットワークが心地よい。なんとなく若者のようなイノセンスを感じさせる川本三郎も六十歳になった。軽く読ませることを意識したコラムではあるが、これまでに見てきた映画的蓄積が自然とにじみ出て、いい味に仕上がっている。

    趣味の良さというのとは少しちがう。育ちの良さといっても語弊がある。川本三郎には、きれいに洗濯されて、アイロンがかけられたシャツのような汚れを知らない清潔感が漂う。こだわりという言葉はあまり好きではないが、無意識に倫理観が働いて、自分の嫌な映画については見ていても語らないのではないかという気にさせられる。日本映画、外国映画、とりとめもなく次から次へと繰り出される映画の中に一本、ピ-ンと硬質の線のようなものが通っている。

    スピルバーグの『シンドラーのリスト』は、賞狙いと言われ玄人筋にはあまりウケがよくない。それをワイルダーが傑作と認めていた言を引いて擁護する。映画そのものよりもホロコーストを経験したユダヤ人に対する思い入れが勝っているのではないか。これは一例だが、投げキッス事件でバッシングを受けたアメリカ帰りの田中絹代に同情したり、黒澤の陰に隠れて評価されない木下恵介をあえて持ち出したりと、この人には弱い立場にある人、虐げられている人々、無垢なもの、忘れられたものに寄せる優しい眼差しがある。

    巨額の制作費をかけたハリウッドの大作や、コンピューターグラフィックスを駆使した話題作よりも、どこかにきらっと光る物を見せる小品の方を好むところがある。映画は自分で金を払って見るものだという先人の言葉を何度か引いているが、試写室で見てきたばかりの近作についてテレビで宣伝めいた紹介をする映画評論家に苦々しい思いを抱いていることがよく伝わってくる。

    評論の味を甘口辛口と喩えるのもあまりいい趣味ではないが、どちらかと言えば、川本の評は甘い。その映画のいい点に目を留めて、それを評価するからだ。反面、欠点の指摘は少ない。しかし、映画を見て三十年。新しい映画に、昔見た映画との類似点を見つけ出す作業はさすがに年季が入っている。瀬戸川猛資の綺想はないが、丁寧な紹介ぶりはこの人ならではだろう。スチール写真片手にロケ地を探す話や、『ロード・オブ・ザ・リング』の波頭が馬の形をとるシーンとそっくりの絵画の話など、映画好きにはたまらない話題満載である。コラムらしく、鮮やかな断面を見せて語り収める、文章の切れ味も見逃せない。

    映画評論家の中には、映画会社の幇間を自ら買って出る輩や、言いたい放題の悪口を辛口評と勘違いしているような御仁もいる。また、精妙極まりない観察で分析批評しながら映画を見る愉しさを伝えることをどこかに置き忘れたかのような批評家もいる。読者や観衆は、自分の信頼できる批評家を探している。自分の映画に対する立ち位置をはっきりさせている川本のような評論家は有り難い存在である。

    「年を取っての数少ないいいことの一つは映画の思い出がたくさんふえてくること」という川本は、ル=グウィンの「過去の出来事は、結局は想像力の一つの形態である記憶の中にしか存在しない」という言葉を引きながら、新しい映画を通して記憶の中の映画をたどる愉しさを語っている。年を取ると記憶も薄れがちになる。新しい映画を誘い水にして、古い映画を思い出し、想像力をふくらませるという川本の言葉は我が意を得たりという気がした。

  • 09008

  • キネマ旬報で好評連載中の映画エッセイ。
    とにかく、この本を読むと映画が見たくなります

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著者プロフィール

川本 三郎(かわもと・さぶろう):1944年東京生まれ。「週刊朝日」「朝日ジャーナル」記者を経て、評論活動に入る。訳書にカポーティ『夜の樹』『叶えられた祈り』、著書に『映画の木漏れ日』『ひとり遊びぞ我はまされる』などがある。

「2024年 『ザ・ロード アメリカ放浪記』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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