兄は沖縄で死んだ

著者 :
  • 高文研
4.50
  • (1)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 7
感想 : 2
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784874985854

作品紹介・あらすじ

どこで、どのように戦死させられたのか-。北海道で生まれ沖縄で死んだ兄の影を追う。さまざまな出会いと検証。作家の眼でオキナワと日本の現実を問う「魂」のエッセイ!

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 和魂【にぎたま】になりてしずもるおくつきの み床の上をわたる潮風
     翁長助静【おなが じょせい】

     1945年、沖縄で戦死した次兄輝一【こういち】を、「犬死だった」と「はっきり言えます」と断言するのは、小樽市在住の童話作家加藤多一である。

     北海道と沖縄、そして近代国民国家の「弔いのシステム」の中で、兄の戦死の意味を全身で考えるため、93年から沖縄に何度も赴いたという。「兄は沖縄で死んだ」は、多くの人々と語りつつ、その思索を究めていったエッセー集である。

     ロングセラーの絵本「馬を洗って…」はじめ、戦争犠牲者や戦地に駆り出された馬たちを描いてきた著者だが、本書は、長い長い時を重ね、逡巡し、みずからの恥部すらさらけ出し、結論を導き出している。

     その一つに、沖縄は現在も「戦中」であり、戦後はない、という認識がある。また、悲惨な沖縄戦で命を落とした日本兵も、沖縄という土地にとっては加害者であったという苦い認識も。兄の没した地の土を踏みしめ、もしかすると兄は、沖縄での「住民殺害」に関与していたのでは…という疑問と闇を抱き、そこを基点として、家族愛を超えた俯瞰する視線を得たようだ。

     散乱した何万もの遺骨を悼み、慰霊碑が次々と建てられたが、しだいに「慰霊」から「顕彰」のシステムへ取り込まれてゆく過程も、鋭く注視している。

     掲出歌は、46年に沖縄の人々の手で建立された納骨堂「魂魄【こんぱく】の塔」ゆかりの歌。作者は当時、糸満高校の分校の校長であり、「おくつき」は墓を意味する。

     最後の1行まで読み過ごせない、息遣いの伝わる、深いエッセー集である。

    (2016年1月17日掲載)

  • 小樽在住の著者が沖縄で戦死した兄をしのび沖縄を訪れ様々な場所で現地の方々から聞き取った言葉やエピソードを交えて随想していく。丹念にたどった軌跡の中で国家の犠牲になった沖縄の痛みや苦しみが伝わってくる。
    沖縄には死を美化する文化がなく殉死もなかったが本土から差別されたくないという思いが集団自殺を生んだ。沖縄で戦死した兵士の6分の1が北海道出身者(差別か偶然かとある)などのエピソードなど読むところが細部にも多い。大を活かすために小を犠牲にする構造が今も続いている。

全2件中 1 - 2件を表示

加藤多一の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×