- Amazon.co.jp ・本 (264ページ)
- / ISBN・EAN: 9784875194507
感想・レビュー・書評
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胸に沁みる連作短篇ミステリ。
図書館のお世話になりましたが、ずっと手元に置いておきたい本。
東京創元社さんあたりで復刊お願いします。
帝大出身の科学教師堀上は、頭脳明晰だが気取ったところがなく生徒思いの熱血漢。ちょっと茶目っ気もあり、ビリケンのようなとんがり頭が『魚雷』に似ている事から、親しみを込めて『ギョライ先生』と呼ばれている。そんな彼の下宿に生徒達から持ち込まれる様々な事件。
戦時下の東京の中学を舞台に、一組の級長野沢正彦を狂言廻しにして語られる六篇。
生徒の万引容疑を晴らす『不思議な声』
降霊会での出来事『おふくろは霊媒』
死んだと聞かされていた生徒が通夜の席でひょっこり顔を出す
『池の見える家』
空想家で虚言癖のある友人が目撃した殺人『イソップとドイルと...』
事件の決着が素晴らしい『てけつの緑子』
夜の中から絞り出されるようにあらわれた『夜から来た女』
『灰色の季節』の青春とほのかな性への目覚め、時代への不安と精いっぱいの明るさの物語の中に、それとなく伏線を紛れ込ませる手腕はお見事。これだから梶龍雄はやめられない。ミステリの面白さと物語性が両立している好短篇ばかり。
それぞれのエピソードには後日談がついているが、寂寥感のある余韻が物語を引き締めている。それもいい。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
タイトルの灰色の季節とは第二次大戦前の不穏な時代のことだろう。
中学校で化学を教えるギョライ先生が生徒が持ち込む謎をとく、という連作短編集だが、読みどころはやはり謎を持ち込む生徒の目から見た、この混沌とした時代とそこに生きる子供たちだと思う。
事件の内容も殺人、万引き、降霊術など様々で面白い。