- Amazon.co.jp ・本 (235ページ)
- / ISBN・EAN: 9784875764878
感想・レビュー・書評
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『不老長寿の霊薬』1830年・・・哲学的研究
本書の主人公は、ドン・ジュアン。
ドン・ジュアンといえば、スペインの伝説の放蕩貴族で、モリエールをはじめ、トルストイ、アポリネール、トルストイなどのほか、モーツアルトの歌劇では、ドン・ジョバンニとして登場し、女たらしの異名を持つ憎めない男である。
バルザックはこのドン・ジュアンをイタリアに邸を持つ貴族として登場させる。
あるとき、父親が死の床にあるというのに、ドン・ジュアンは遊び女をはべらせ豪勢な宴を催していた。
いよいよ、父親の死が間近に迫り、最期の時を迎えようとしたとき、人生の享楽を貪り過ぎる息子を枕元に呼び、水晶の小瓶に入った水を自分が死んだらすぐ遺体に塗るように頼んだ。
その瓶の水を塗ると生き返るという遺言だったが、まさかそんなことはなかろうと半信半疑で、亡くなった父親の右の瞼を軽くこすると父は目をあけたのだ。
恐ろしくなったドン・ジュアンは、蘇った生命感に溢れる父親の右目を潰し殺した。
その後、放蕩三昧の月日を過ごし、ドン・ジュアンは60歳で結婚しひとり息子をもうける。
死期が近づいたとき、自分の父と同じように息子を枕元に呼び、例の小瓶のことを話して、死後、全身にその液体を塗布することを約束させる。
ドン・ジュアンと違って素直な孝行息子に育ったフィリップは、父に命じられたとおり遺体に水晶の瓶の中身を塗った。
顔と右腕に塗り終えたとき、蘇りつつある父にフィリップは驚愕し、瓶を落として気絶してしまう。
修道院に亡骸(部分蘇っている)をうつされたドン・ジュアンは、神の御業と勘違いされ、神々しい儀式の途中に、修道院長の頭に噛み付き、
「愚か者め、これでも神がいるというのか」と叫ぶ。
澁澤龍彦は、晩年、ガンのため気管切開を余儀なくされ、声を失ったとき、「呑珠庵」という号を思いつく。
美しい珠を呑み込んで、珠がのどにつかえているから声がでなくなってしまったという筋書きと、音(オン)が、ドン・ジュアンに似ていることも気に入っていた。
澁澤のお気に入りのドン・ジュアンが、バルザックの手にかかると完全なる悪魔的且つ殺人者に描かれるのは失笑してしまう。
それにしても時を経ても効果抜群の不老長寿の霊薬はどんなものだったのでしょう。
古今東西死者が蘇るお話はたくさんありますが、ドン・ジュアンが部分的に蘇り聖職者の頭部を食いちぎるなんて設定には度肝をぬいてしまった(笑)
本篇は、くもん出版から1989年に出された『幻想文学館第四巻』読んだ。
訳は、奥田恭士
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■小説89篇と総序を加えた90篇が「人間喜劇」の著作とされる。
■分類
・風俗研究
(私生活情景、地方生活情景、パリ生活情景、政治生活情景、軍隊生活情景、田園生活情景)
・哲学的研究
・分析的研究
■真白読了
『ふくろう党』+『ゴリオ爺さん』+『谷間の百合』+『ウジェニー・グランデ』+『Z・マルカス』+『知られざる傑作』+『砂漠の灼熱』+『エル・ヴェルデュゴ』+『恐怖政治の一挿話』+『ことづて』+『柘榴屋敷』+『セザール・ビロトー』+『戦をやめたメルモット(神と和解したメルモス)』+『偽りの愛人』+『シャベール大佐』+『ソーの舞踏会』+『サラジーヌ』+『不老長寿の霊薬』+『総序』 計19篇詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
タイトル『悪夢のような異常な話』
収録作品
・ハゲタカ カフカ
・手 モーパッサン
・サノックス卿夫人の事件 ドイル
・死体置き場 ラヴクラフト
・金髪のエックベルト ティーク
・桜の樹の下には 梶井基次郎
・ミイラづくりの女たち シュウォップ
・大うずメルシュトレエム ポー
・不老長寿の霊薬 バルザック
・死刑台の秘密 ヴィリエ・ド・リラダン
子ども向けのアンソロジー。こういうのは読みやすくて、メジャーなのに意外と読んでいない作品も載っている(この本だと『桜の樹の下には』とか)ので便利。
『不老長寿の霊薬』の主人公ドン・ジュアンは「ドン・ジョバンニ」「ドン・ファン」と同一なのだがそれらの話とは違った内容。死に抗う執念の姿が描かれている。
『死刑台の秘密』は聞いたことがある都市伝説的な事柄を実験してみようとする話。実際のところは証明できるのか…個人的にはそんな現象はないと思うんだけど。 -
ハゲタカ/カフカ
手/モーパッサン
サノックス卿夫人の事件/ドイル
死体置き場/ラヴクラフト
金髪のエックベルト/ディーク
桜の樹の下には/梶井基次郎
ミイラづくりの女たち/シュウォップ
大うずメエルシュトレエム/ポー
不老長寿の霊薬/バルザック
死刑台の秘密/ヴィリエ・ド・リラダン
挿絵/おぼまこと
18世紀から20世紀にかけて集められた幻想的な短編集。
第4巻は「悪夢のような異常な話」。
怪奇小説のアンソロジーなどでお馴染みのお話が集められています。
どれも不気味で後味の悪い読み応え。でも、そこが何とも魅力的。
「金髪のエックベルト」などは、最初はメルヘンチックな童話風なのに、不気味な展開の挙句、奈落の底に突き落とされるような結末。
どのお話も世紀末を感じさせる不気味な雰囲気が面白い。