- Amazon.co.jp ・本 (209ページ)
- / ISBN・EAN: 9784877952457
感想・レビュー・書評
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漱石といえば、国語の時間に誰もがその文章を読むことになる、日本文学の重鎮。
国語の授業の時には特に意識していませんでしたが、漱石の使った日本語がその後の作家たちに影響を与え、その後の文学の潮流を作ったといえるそうです。
なんと、「新陳代謝」「反射」「無意識」「価値」「電力」「肩が凝る」は漱石の造語だとか。
知りませんでした。日本語の父でもあるんですね。
そんな漱石の美しい文章を書き写そう、というのがこの本の主旨。
最近はすっかりコンピュータ社会になって、文章どころか、自分でも字を書くこともずいぶん少なくなってしまっています。
加えて、この情報社会の中、本を読む機会も減りつつあるため、「読書」と「書き写し」という、二つの慣れないことを行うのには、ちょっとした心の準備が必要です。
どちらも、言ってしまえば時間を使う、無駄にも思える作業。
ただ、それによって培われるものは大きいのです。
今では書く体力を失った人が増えているという著者。すべてに簡便性を求めた結果として、以前よりも、人の忍耐力・集中力が欠けてきているそうです。
書き写しにしろ、自分で書くという行為には時間がかかるため、瞬時にキーボードを打つ時よりも深く考える気がします。
さらに、普段は使わない人の、とりわけ漱石のような美しい日本語を書いてみることで、いろいろな文章パターンや思考パターン、表現法が自分の中に染みこんでいくのだそうです。
時間と手間をかけただけのことはあるということでしょう。
とかく時間短縮をよしとする現代の風潮。
王貞治選手は毎晩500回バットの素振りをし、北島康介は毎日100m水泳を100回こなし、エリック・クラプトンは一日9-10時間くらいギターを弾いたとのこと。
何もせずにその道で有名になった人はおらず、名手はとにかく練習量をこなしているのだそうです。
まさに「練習は嘘をつかない」ということでしょう。
最近では朝日新聞の「天声人語」を書き写すノートが人気だと聞きます。
やはり、字を書きたいという気持ちを、人は持っているもの。
そこから一歩進んで、日常会話や仕事のメールで使われるのとは違う、美しい日本語文章を書いてみるのは、脳にとっても新鮮な体験になりそうです。
やってみようかなあ、と思いますが、思い起こせば漱石の文章は、結構難しい感じがたくさん出てきて、テストの時に大変でした。
まずは、太宰の『走れメロス』あたりからがいいかなと思います。
漱石ではないので、この本の狙いとはずれてしまいますが!とっかかりが大事ですからね。
小話として、明治44年に文部省の博士学位授与を漱石は辞退し、野口英世は受けたこと、そして2004年に二人の千円札の図柄が入れ替わったことが紹介されており、不思議な繋がりがあるんだなと思いました。詳細をみるコメント0件をすべて表示