彼らの目は神を見ていた (ハーストン作品集 1)

  • 新宿書房
3.63
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (285ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784880082073

感想・レビュー・書評

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    二月三月家族の都合でろくに本が読めず、腐っていたところに、この本を読み、すうっと乾いた喉に水が入るように気持ちよく読み終えることができた。
    もともと、ちらりと評判をきいて興味を持っていたものの、最寄りの図書館になく、いくつか探してようやく入手。
    現在では絶版になっているが、中古でも一万円超え。
    読んでみて納得。素晴らしい作品だった。
    黒人女性作家による、黒人女性の自由な精神と人生讃歌。
    そのくっきりとした世界に、眼の前がクリアになる、晴れやかな気持ちをもらうことができた。
    ウィラ・キャザーやルシア・ベルリンが好きなひとにはぐっと胸に迫る一冊だと思う。

    主人公ジェイニーは美人でまっすぐな性質の黒人女性。
    裕福な育ちだが、結婚=籠の鳥だった暮らしを捨てて生きてきた。
    彼女が30代になってから恋人ティーケイクと出会い、その後のことを友人のフィービーに話す形式で物語は始まる。
    ジェイニーは二代続いた性暴力から生まれた女性だが、ジェイニーは祖母(黒人奴隷。主人一家とともに暮らし、自分の孫ジェイニーを主人一家の子供達と近い待遇で育ててもらえた)の愛と、主人一家の保護の中で、わりと円満にお嬢様育ちをしてきた。
    その祖母(孫だけど育ちの都合でばあやと呼んでいる)に対して愛があるのかと思いきや、意外な認識を見せるシーン↓が印象的だ。

    ばあやは、神が造ったもっとも素晴らしいものである地平線を奪い――というのも、人がどれほど遠くまで旅をしても、地平線は、まだ手の届かないずーっと遠くにあるのに―ーそれを、孫娘の首にきつく結びつけて、息ができないくらい小さいものにしてしまった。彼女は、愛情にかこつけて自分の心を歪めたばあやが嫌いだった。ほとんどの人たちはお互いを愛さなかった。この誤った愛情が強すぎて、血縁によってでさえ、それにいつも打ち勝つとはかぎらないくらいだった。自分の中に宝石のような大切なものを見つけた彼女は、自分を輝かせてくれる人びとがいるところへ行きたかった。

    そして2度目の横暴な夫とも別れ、ついに陽気で寂しがり、キュートなティーケイクに出会う。
    彼はジェイニーの心を尊重し、彼女を本当に大切に思ってくれた。
    そこにやってくる天災、そして狂犬病。法廷へ。この迫力がすごい。

    そしてラストシーンで、友人フィービーに語る言葉↓。
    ここから読み取れるジェイニーの、自信と愛に満ちて輝くような美しさに胸がいっぱいになった。

    「…フィービー、これは知られていることなんだけど、物事を知るためには、自分で行動しなくちゃいけないのよ。あんたの両親や他人はあんたに何も教えることができないんだから。人は誰でも、ふたつのことを自分でしなくちゃいけないのよ。ひとつは死ぬことで、もうひとつは生きてることを自分で発見することよ」
    そのあと、ふたりが黙り込んだ時、松の木を揺らす風の音が聞こえてきた。その音を聞いて、フィービーは、やきもきして自分を待っているサムを思い出した。ジェイニーは二階の寝室のことを思った。フィービーはジェイニーをきつく抱きしめてから、暗がりの中を急いで帰った。
    やがてジェイニーは、一階の戸締りをして、ランプを持って二階へ通じる階段を上がった。手に持った明かりは、太陽のきらめきのように彼女の顔を明るく照らした。急な階段には、暗い影ができた。寝室にはさわやかな感じが戻っていた。開いた窓から入る風で、今まで留守にしていたためにできた、カビ嗅い感じがなくなっていた。彼女はドアを閉めて坐った。そして髪の埃を櫛で取って、もの思にふけった。
    銃と血まみれの死体、法廷での出来事が蘇ってきた。すると、部屋の隅々や椅子やいろいろな物に染みついた、すすり泣きのような溜め息を歌って取り除いていくような気がした。それは、歌い、すすり泣いては歌い、歌ってはすすり泣くような感じがした。その時、ティーケイクが、彼女のかたわらに小曜りしながら現れ、溜め息に似た歌は、窓から飛んでいって、松の木の梢のほうに消えていった。腸の光を肩かけがわりにしたティーケイク。もちろん、彼は死んでいなかった。彼女が彼のことを感じ、思い続けるかぎり、彼は死ぬはずがなかった。彼の思い出にふれると、壁に愛と光が写し出された。そこには安らぎがあった。彼女は、大きい魚網を使うように、自分の地平線をたぐり寄せた。世界の果てからたぐり寄せて、地平線を肩にかけた。網にかかったそれだけの人生!
    彼女は見においで、と自分の魂に呼びかけた。

    この素敵な文に締めくくられた本書、一日も早く復刊してほしいと思います。

    余談
    シチュービーフという名前のキャラの初登場シーンで、ビーフシチューを食べてるというセリフがあるので笑ってしまった。なにここ、笑うとこ?合ってる??

  • アリス・ウォーカー繋がりで読んでみたら、すごくおもしろかったです。
    ハーストンは他の黒人女性作家と比べて、自由でしなやかで、感性の導くまま進むイメージがあります。

  • 愛することの困難さ、生活や世間体のために都合のいい相手を都合よく扱う『愛』ではなく、自他の存在をただ喜び自由にする愛がいかに困難で、しかもそういった愛を望むことは他人に憎まれることでもあることを描いた作品。

    黒人コミュニティ内の差別を扱う作品でもあるので、「白人を喜ばせるための作品」だと黒人男性批評家からは嫌われたそうだ。男性批評家のそういった評価からも、ゾラ・ニール・ハーストンが黒人コミュニティのなかの女性差別を見事に表現したことがうかがえる。
    ゾラ・ニール・ハーストンは彼女にできる限りの誠実さで人間が生きることについて書いた。ただ、黒人コミュニティの有力者たちに気に入ってもらう気がなかっただけだ。

  • 3.67/48
    内容(「MARC」データベースより)
    『ジェイニーは故郷を捨て、愛するティーケイクのいるフロリダのイートンヴィルへ行くが、ある日、突然、不幸がやって来る…。1920年代、黒人文化が花開くニューヨーク・ハーレム・ルネサンスに登場した天才女性作家の代表作。』

    原書名:『Their Eyes Were Watching God』
    著者:ゾラ・ニール・ハーストン (Zora Neale Hurston)
    訳者:松本 昇
    出版社 ‏: ‎新宿書房
    単行本 ‏: ‎285ページ

    メモ:
    ・死ぬまでに読むべき小説1000冊(The Guardian)「Guardian's 1000 novels everyone must read」
    ・オールタイムベスト100英語小説(Time Magazine)「Time Magazine's All-Time 100 Novels」

  • あまりハマらなかったので、ちゃんと読み込めた自信はないんだけど、それでも肌の色とか既成概念といった枠組みから離れていくような感覚は感じて、そういった感覚はすごく好きだった。また離れ方の描写も良いのかも。

  • 生き生きとした臨場感ある、黒人社会の描写が素晴らしかったです。大恐慌前後、各地を転々とする黒人の季節労働者、そこでのサイコロやトランプ賭博、それが元でのナイフやカミソリや銃を使ったケンカや殺人沙汰、時にギターを持ち歌い騒ぐ、更に嵐や洪水など容赦ない自然。ブルースの好きな僕は歌詞に出てくる世界が小説という形式で現れたと思いました。あの頃のブルースマンもこの様な生活をしながら、旅を続けたのかと、イメージが広がりました。古きアメリカやカントリーブルース好きにも是非お勧めです。

  • タイコの先生に借りて読んだ

    黒人でありながらアメリカ人であること、知識人でありながら女性であること、
    そういういろんな社会のうえでの負の要素(純粋な何かではないという事、他者性)を抱えながらも気負わずに生きる強さ

    負であることを認められればいつだって正に転じれる

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ゾラ・ニールハーストンの作品

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