黄金色の夜

著者 :
  • 新宿書房
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本棚登録 : 29
感想 : 5
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  • Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784880084572

作品紹介・あらすじ

紀州の炭焼きが出会った怪異譚、ほか五篇。熊野の奥深さを知る著者が描く山の伝奇小説集。

感想・レビュー・書評

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  • 備長炭の里熊野。炭焼きの中には”焼き子”という、自ら窯を持たず親方に雇われる、農民でいえば小作農のような立場の者がいたのだそうな。中には不遇のうちに一生を終えた焼き子もいたのかもしれない。『焼き子の盟友』は、そうした者を悼む気持ちから生まれる寓話。狸たちが集まり鉦を打ち鳴らし灯りを連ねて弔う美しい情景に涙。
    平成に入っても牛を使って田を鋤き薬も使わず自動車にも乗らず、哲学があるはずなのに理屈めいたことを一切言わなかった茂やん夫妻と自らの思いを淡々と描いた『最後の牛使い』もとてもよかった。

  • 著者の作品を先頃「怪異十三」の中で読み、作品に興味を持ってこの本を手に取った。
    山里での暮らしに関する、実話らしきものや多少フィクションがかったもの、エッセイ風のものや小説と様々な話が収録されているが、どれも淡々としていてかつ面白かった。
    「焼き子の朋友」の主人公と狸の友情は心に残る。
    物語自体の面白さだけでなく、全編に織り交ぜられた山里の暮らしに関する未知の情報に興味が尽きない。

  • 著者は熊野古道の語り部とのことで、紀州和歌山の山と川に生きる人々の怪奇談の短編集。主に炭焼き(紀州備長炭といえばここか!)が過酷な労働の合間に、山で体験する不思議な話である。それ以外にも、川で丸太流しをして糧を稼ぐ男達の話は、那智の台風被害による水害を思い起こさせた。最後に収められている「最後の牛飼い」は牛飼いの百姓達の生活の変化を風になって定点観察しているような気分になった。

  • 確か三浦しをんさんが朝日新聞で紹介していて、読みたかった本。戦前から現代に至るまでの時代のなかで、熊野の山に生きる様々な人たちが経験した、不思議な出来事を描いた短編集になっている。山と共に生きる日本人の、根源的な生活・文化について考えさせられた。作者自身が熊野の山で生まれ育ち、現在も暮らしているようなのだが、作者の、生まれ育った土地の文化や風土への愛を強く感じた。そして、時代とともに失われていく、その土地独特の風俗文化を惜しみ、哀しむ気持ちが伝わってきた。少し昔まで山で生きる人たちの生活はこんなに過酷だったのかと思うと、決して懐かしみ惜しむ気持ちだけではないのだけれど、壊された風景や生活は2度と戻らないわけで、こんな風に進められてきてしまって、本当に良かったのかと考えてしまった。

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