日本の核開発:1939~1955: 原爆から原子力へ

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  • 績文堂出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784881160756

作品紹介・あらすじ

核の研究と開発に関わった人びとは、戦時中の軍事開発と広島・長崎の原爆被災の経験を経て、どのように核エネルギーの問題を考えてきたのか。

感想・レビュー・書評

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  • 戦時期日本の原爆開発を扱う第1部と1956年の日本の原子力委員会発足までを扱う第2部との2部構成。第1部は現時点での決定版ともいえる密度の高さ。第2部は日米原子力研究協定の締結過程を扱う部分が最も面白い。原水爆禁止運動が日本の平和利用定着に果たした役割を強調するとともに、その限界も明示している点が特徴。

  • 町田市立図書館

  • 山崎正勝『日本の核開発:1939~1955』績文堂、読了。戦時下日本の旧陸海軍の原爆開発から1955年の原子力基本法成立へ至る日本の核開発の歴史をたどる一冊。開発から挫折、平和利用で導入へという経緯が詳しく、専門的書物ながら資料としてきわめて価値の価値たかい労作である。

    第1部は戦前・戦中編。発端と研究の動向と原爆の投下とその調査。分離方法、サイクロトン建設、そしてウランの入手経緯や取得量など、驚くべきデータでその実体を明らかにする。原爆投下後の広島での調査は、戦後の米軍による調査よりはやいもので、ここで紹介される証言は貴重である。

    第2部は戦後編。合衆国による占領と核開発の凍結。第五福竜丸事件と「平和利用」への筋道を明らかにする。54年3月16日の第五福竜丸事件をスクープするのは『読売新聞』。そして直後の22日、来日した米国防長官補佐官アースキンが反米世論を抑えるために、日本に原子炉を建設するよう進言する。そしてそのキャンペーンをはるのが読売新聞を率いる正力松太郎である。

    他にも、戦後における原爆投下の正当化論の生成過程や「周辺諸国からみた日本の核問題」は新鮮な観点である。。日本への原爆投下を韓国ではどうみているか。日本からの独立、そして朝鮮戦争と北朝鮮の核開発と連動しているが、省みられなかった点だけに考えさせられる。

    執筆中に東日本大震災を経験した筆者の筆致は、全体として抑制のとれたものであり、評者は好感を抱く。通例、原水爆の開発は「核開発」、原子力の開発・利用は「原子力開発」と区別される。しかし、筆者はあえて「核開発」の用語で両者をまなざすことも留意しておきたい。史料・資料に裏打ちされた歴史の証言として、深い意義のある一冊ではないだろうか。

    さて、戦中日本で開発されたサイクロトンが戦後GHQによって破壊されるが、その折り、米国の科学者たちはこぞってその破壊に対して強く抗議したという。科学の自立性(自律性)について考えさせられる。




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     GHQのサイクロトン破壊(引用者注……理研のサイクロトン)は、米国で科学者たちからの強い抗議を読んだ。11月24日の『ニューヨーク・タイムズ』紙にUP通信の東京電でサイクロトン破壊が報じられると、プルトニウム生産のための実験用原子炉が置かれていたオークリッジのクリントン研究所の科学者協会は、25日にパターソン陸軍長官に電報を送り、第2次世界大戦中のナチス・ドイツによるベルギーのルーヴァン大学の図書館焼打ちのような不名誉な劫だと抗議した(185)。

    1945年11月24日
    テネシー州オークリッジ

    ロバート・パターソン閣下
    陸軍長官 ワシントンDC

     戦争の機械として使用される可能性のない日本のサイクロトンが野蛮にも破壊されたことに、全ての科学者は驚くだろう。1914年および1940年のドイツ人たちによるルーヴァンの図書館の焼打ちの残忍な行為を、アメリカは超えてしまった。多くのアメリカ人や関係する大学は、それらを尊敬の念を持って利用することができただろう。

    チャールズ・D・コリエル

    (翌日に同様な内容の長文の電報がクリントン研究所の科学者協会のメンバーからパターソン陸軍長官に送られた。)

    ついで26日には、レーダーの研究開発を行っていたマサチューセッツ工科大学の放射線研究所の科学者たちも、陸軍長官へ抗議電報を送った(186)。

    1945年11月25日
    マサチューセッツ州ケンブリッジ

    ロバート・パターソン陸軍長官

     陸軍が日本のサイクロトンの破壊の命令を下したというニュース報道に、物理学者たちは深い驚きを感じている。その唯一の価値が基礎研究にある科学器械を破壊することによって、考えられうるどんな軍事的目的も達成することはできない。多くの科学者を代表して、科学装置の破壊を目的とした全ての命令を取り消し、すでに破壊された装置を使用できるように復元するように強く要請する。

    ドゥブリッジ放射線研究所

    (186)1945年11月24日付 Charles D. CoryellからHon Robert Paterson陸軍長官への電報 H-B Files.Folder no.70, Interim Committee,Miscellaneous。
    (186)1945年11月26日付 L.A.Dubridge Radiation Lab, Canbridge,Mass.から陸軍長官への電報,H-B Files.Folder no.7S-1.Miscellaneous。
        --山崎正勝『日本の核開発:1939~1955 原爆から原子力へ』績文堂、2012年、85-86頁。

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  • 戦時中の日本の原爆開発から戦後の原子力利用までを公開資料に基づき東工大教授がまとめている。
    戦時中の核開発の実態、米国核使用正当化根拠のウソ(ヨーロッパ戦線死者14万、太平洋戦線16万死者に対し本土進攻で100万人の死傷者予想)、米国によるビキニ事件の矛先偏向の目論見、の正力松太郎の読売新聞及び日本テレビによる反核運動阻止の目論見、学術会議主導の原子力基本法の形骸化、日本被爆に対する韓国の冷ややかな反応の理由、北朝鮮を核開発に向かわせた中ソの態度、等々。学者らしく、今後の研究が待たれる、という結びで評価自体は避けている章が多いが、事実の羅列だけでも見えてくるものが多い。
    学術会議の動向にかなりページを割いているが、正直、そこは一番面白くない。

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