ありがとね、ありがとね、ありがとね

著者 :
  • 市井社
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  • Amazon.co.jp ・本 (292ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784882081357

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  • ◇いくつもの花束  五行歌の会主宰 草壁焔太跋より

     勉強し続けないと
     僕の頭は忘れるんです
     だからずっと勉強します
     ああ、この子に
     花束をあげたい

     この歌を読んだ瞬間、私は呆気にとられて立ち往生し、しばらくして泣いた。勉強の本まで書き、自慢たらたら、いい点をとったことを言いまくった私にも、ずっとこういう不安はあった。人は能力を試され続ける。そのうえ、知識と知恵の世界は落とし穴だらけで、一生の恥ともなるポカがいたるところで待ち受けている。数学がわからないで、〇点だったこともある。二十点だったこともある。
     そのころ、二つの道があると思った。諦めてしまうか、ずっと努力し続けるかである。
     ひまわりさんのこの教え子は、知能に問題があるとされて、物が覚えられないといわれている子どもらしい。こういう子の不安とあせり、悲しみはどういうものだろう。知的障害だとか、発達障害だという烙印まで押されたこの場合は……。

     「だからずっと勉強します」の道を結果として私は選んだ。
     そのことを思い出したのだ。
     能力についての不安とそれに対する最も清々しい態度を、この少年はみつけた。私も作者といっしょになって花束をあげたいと思った。花束は作者にあげた。
     『五行歌』の表紙にこの歌を使った。この二人に敬意を払う私にとっての唯一の方法であった。
     ここに見る作者の弱者に対する優しさのようなもの、これは彼女が五行歌にかかわってくれたときから一貫していた。それが大きな花となった気がした。私はこの歌を世界中の子どもに見てもらいたいと思う。
     もちろん、こういう不安を覚えているいい大人にも。

     彼女の作品が私たちを驚かせたのは、最初は別のテーマであった。この本の冒頭に見る息子の反抗である。五行歌運動は、今、始まって二十年ほどだが、この新しい様式は誰がいかにその人の真実を明かし、歌ってくれるかにある。
     その人がいままでにない詩歌を書けば書くほど、五行歌の世界は真実となり、豊かになる。真実は、多くの場合、心の傷である。その傷が新しい花を咲かせる。人は感性と思いとでその傷をカバーしようとする。傷に載せた葉が花と化すようなことがある。歌はそういう奇跡であろう。
     最初の歌は、「物が覚えられない子」という傷から生まれた大きな花であろう。

     用意した夕食を         環状線を走る
     息子に             特急列車のような
     ひっくり返され         息子の反抗期
     泣くこともできず        止まらない
     突っ立って居る         終わらない

  • 息子さんの反抗期を乗り越えたその先には、ありがとうねの言葉が待っていました。
    学習塾での生徒さんへの教えが温かいです。優しいお人柄を感じます。
    装丁メイキングストーリーはこちらから↓
    http://shiduku.cocolog-nifty.com/heart/2015/04/post-e21c.html

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著者プロフィール

1956年 大阪生まれ1979年 大阪市立大学卒業1996年 学習教室開設1999年 五行歌の会入会

「2015年 『ありがとね、ありがとね、ありがとね』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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