ダゲレオタイピスト: 銀板写真師

著者 :
  • 青林工藝舎
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  • Amazon.co.jp ・マンガ (173ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784883792801

感想・レビュー・書評

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  • 「死後を撮った写真」と「生前に撮った写真」。読んだ後、写真の質量が心理的にぐっと重くなった。

  • 漁夫の未亡人はニットを編み続けるって言うのが怖い。
    手持ち無沙汰になってなにかせずにはいられないというのは分かるけど、毛糸玉を入れておくケースが手枷みたい。乙女っぽいかわいいケースなんだけど。
    編んでいる毛糸の色によって明らかに未亡人(海で漁師の旦那さんが亡くなった)ってことが分かるのも露骨過ぎて辛いだろうな……。
    今回、女の人が出る比率が多い気がする。
    毎回、10代の男の子ばかり(それと、20代後半から30代くらいの青年)が出る話が多いので新鮮だった。
    「メメント・モリ(死を想え)」がテーマの本を探すと、大体亡くなった子供をきれいに着飾って、あたかも生きていて、眠っているかのようにして写真を撮るっていうのが多いんだけど、これは辛い。
    親もこれが最後の子供の写真だと思って精一杯おしゃれさせるんだろうし、でも、当の子供はもう亡くなってるしで。一番かわいい姿で写真になって手元に残るから、少しは慰めになるんだろうか。
    でも辛い。
    主人公のアーネストは亡くなった弟ダニーの写真(銀板写真師に撮影してもらって、ダニーが大好きな海のイメージの裝飾をしてもらってケースに入ってる)を見ていて、母親に「そんな目で弟の写真を見ないで!」と言われて家を飛び出してしまうのでした。
    自分が「死んだ鳩がついてきているぞ」と言ってからかったせいで死んだダニーを見て後悔して悲しんでいたというより、銀板写真自体に興味がいってる、完全にものを見る目みたいなのだったから母親の神経に障ったのかも。
    銀板写真師の人は撮影のためには被写体に数分じっとしておいてもらわないと写せない。
    生きている人を写すには、じっとしておいてもらわないといけないのはもちろんだけど、写したところで、じっとしなければいけないとか写真を撮ったら魂を抜かれる思い込みとかの緊張で被写体の人の表情が物凄くこわばるし、よほどじっとしていないと写真はぶれる。
    それこそ亡霊みたいな、生気のない写真になってしまう。
    生きた人を写したいという思いはあったけど、そういうことからうまくいかないというジレンマ。
    しまいには、写真をけなされたり非難されたりして商売が成り立たないし、写真師本人もやる気を殺がれてしまう。
    動かない被写体=遺体を写すことは、田舍ではまだまだ需要があった。
    遺体撮影という商売をしながらも、やっぱり写真師は生きた被写体を撮影したいと思っていた。
    ダニーを被写体にして写真を撮ったけど、結局は思ったとおりの生き生きした写真にはならなかった。
    最後にアーネストに動かないよう指示して写真を写して、写真師はそれをずっと現像せずに手元に置いておく。
    多分、アーネストの写真も以前と同じく死人の写真みたいになるのが嫌で現像できなかったのかも。
    何十年か何百年か後、骨董屋さんから銀板写真を引き取った教授が現像を試みたところ、銀板にはアーネストの姿が浮かび上がってくるのでした。
    写真師、最後でちょっとだけ報われたと思う。

  • 登場人物たちは襟のボタン1番上までしめてタイ若しくはリボンを固く結んでいますが、その下には情欲がヒタヒタと水面のように揺れています。
    静的なストーリーと、緊張感のある絵の間から滲むエロティシズム、全て意味を有している台詞。
    要するに端から端まですっげえ良いです。

  • 古の銀板写真を題材にした物語。これ以上ないってくらい銀板写真の魅力やその運命の悲しさを描き切っているのでは。そこに写る生と死、記録と記憶、復活、再生、愛、などなどとても言葉では表せないくらいの現象が起こってる。芽生えた謎の答えを知る時には切なくて、時を超えてまた過去に連れ戻された瞬間には驚嘆するし、何かもう色んな感情がごっちゃに。テーマの特殊さばかり独り歩きしそうだけどしっかりストーリーもあるから面白かった。未来から技師に手軽なスマホのカメラの存在を教えてあげたい。けど、情緒もくそもないと思うよ…。

  • 2010-2-18

  • 眼前で溺死した弟ダニーを写すために、ダゲレオタイピストのフレイザーが来る。
    母に拒まれ罪の意識に揉まれ「自分の姿を見たい」と苦悩するアーネストは、フレイザーに自分を撮ってほしいと懇願する……。

    長時間の露光を必要とするため、暗い部屋(カメラ・オブスキュラ)と動かない被写体を必要としたダゲレオタイプは本来的に、
    死者を撮影するための定着方法……
    そしてそれが廃れたのは死を日常の外に置こうとする社会のあり方とも連動している……
    銀板写真は死者とともに消えていったのだ……
    という眼も眩むような思想。
    そして愛する相手をひとりじめしたいという欲望……
    アーネストの凄惨な美しさ……

    「月にひらく襟」を読んでぴんとこなかった鳩山郁子だが、これは凄い。

    カバー表紙の装丁の美しさも白眉。

  • 鳩山の長編ならこれが一番

  • 銀板の写真。

  • ・収録作品・
    The Window of fishrman can't stopknitting
    ダゲレオタイピスト

    銀板に刻まれた永遠の少年たち・・・

  • 毎ページ同じコマ割に形式があるみたいで面白いです。
    表題作はいきなりな展開に「サービス?」と思うところあり。大きなストーリーはこれまでどおりラストまで一貫しています。

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